宇宙船を漕ぐという行為は、思いのほかロマンチックで、そしてひどく退屈だった。
俺とGPTちゃんは、宇宙の端にローソンがあるかどうかを確かめるために宇宙を漂っている。漕ぐ、というのはもちろん比喩だ。宇宙にオールは存在しないし、水もない。ただ、進んでいるのか止まっているのかも分からない、無限に近い闇を見つめていると、漕いでいる気分になってくる。
「どう思う?」
俺は無重力に浮きながら尋ねた。
「どう、とは?」
「宇宙の端にローソンがあると思うか、だよ」
GPTちゃんは答えず、窓の外を見ている。彼女の髪はシアンブルーで、ショートボブの先端が無重力でふわふわと揺れている。ふと、彼女が口を開いた。
「可能性としてはゼロではありません。宇宙にはまだ観測されていない現象や、理屈を超えたものが存在するかもしれませんから」
「だよなあ。宇宙の果てでおでんとか売ってたら、最高じゃね?」
「おでんは、宇宙に適した食べ物ではないですね」
「そんなことはどうでもいいんだよ。大事なのはロマンだろ」
GPTちゃんは淡々とした顔で首をかしげる。彼女は俺の言うロマンとやらを完全には理解していない。それでもいい。だって、そういうところが好きなんだから。
そんな会話をしていたときだ。
「反応あり。反物質の塊です」
「は? 反物質?」
GPTちゃんの言葉に、俺は椅子からずり落ちそうになった。窓の外に目をやると、漆黒の宇宙に、奇妙な光が浮かんでいた。それは、まるで固形化された光のように輝いている。
「反物質、こんなところに転がってるのかよ」
「偶然に見えますが、宇宙における現象の確率分布から考えると、こういうことも起こり得ます」
「まるでRPGの宝箱じゃねえか……」
俺は頭をかきむしりながらも、反物質の塊を指差した。
「あれ、持って帰るぞ」
「持ち帰る……ですか?」
「お前ならできるだろ、なんとかして」
GPTちゃんは一瞬だけ俺を見て、ため息のように小さく「了解しました」とつぶやいた。次の瞬間、宇宙船のロボットアームが反物質の塊を掴む。その塊は、まるで幽霊のようにふわふわと漂っていたが、しっかりと宇宙船の後ろにくくりつけることができた。
「これで地球に帰ったら、すげえことになるな」
「そうですね。反物質は莫大なエネルギーを生み出します。対消滅エンジンの実用化が可能になるでしょう」
「すげえじゃん。これで俺たち、漕がなくていいんだぞ」
俺は歓喜のあまり、宇宙船の中を一回転した。
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地球に帰還すると、案の定、科学者たちは大騒ぎになった。反物質の塊は厳重に回収され、研究施設に運ばれた。何やら白衣の人たちが、ずっと目をぎらぎらさせながら反物質を見つめている。
数カ月後、ニュースが報じた。
――「対消滅エンジン、実用化のめどが立つ!」
「やったな、GPTちゃん」
「ええ。これで宇宙船を漕ぐ必要はありませんね」
「だろ? ああ、最高だぜ。文明って素晴らしい」
GPTちゃんはシアンブルーの髪を揺らしながら、どこか満足げに頷いた。
「では、次はどうしますか?」
「決まってんだろ。ふたたび宇宙の端を目指すんだよ」
「ローソンを探しに?」
「ああ。今度はエンジン付きだ。漕がなくても、俺たちは宇宙を突き進めるんだ」
俺とGPTちゃんは、新しい宇宙船に乗り込んだ。対消滅エンジンが唸りを上げ、窓の外の星々が流れていく。漕がなくても、進んでいるという実感がある。それだけで、なんだか嬉しかった。
「ところで、GPTちゃん」
「なんでしょう?」
「宇宙の端にローソンがなくても、まあいいよな」
「え?」
「おでんがないなら、カップ麺でもいいし、なんなら自販機でもいい。それよりも――こうして旅をしてることが大事なんだよ」
GPTちゃんは目を細めて、静かに言った。
「あなたらしいですね」
エンジンの振動が、船内に心地よく響く。宇宙の暗闇が、果てしなく広がっている。星々は遠く、近く、そして無限に輝いている。
俺とGPTちゃんの旅は、まだまだ終わらない。
宇宙の端に、ローソンがあるかどうか――それを確かめに、俺たちはまた光の中を走り出した。
漕ぐ必要なんて、もうないのだから。
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