彼は夜空を見上げるのが好きだった。
町のはずれにある小さな家の屋根に横たわり、星々の煌めきを眺めるのが日課だった。彼の家族はその趣味を理解できず、彼を夢想家呼ばわりしていた。しかし彼にとって、星空はただの美しい風景ではなく、自分だけの逃避場所だった。仕事での失敗、友人関係のもつれ、日々の生活の中で感じる圧倒的な孤独。星空の下では、それらがちっぽけなものに思えた。彼はそこで、自分だけの平和を見つけていた。
「また星を見てるの?」隣家の彼女が声をかけてきた。彼女はいつも、彼の趣味をからかうような口調だった。
「ああ、今夜はオリオン座がはっきりと見えるんだ。都会ではこんなに星は見えないだろう?」彼は返した。
「ふーん、でも、そんなに星を見て何が変わるの?」
彼は少し考え、笑みを浮かべながら答えた。「何も変わらない。でも、それでいいんだ。変わらない夜空が、僕には必要なんだよ。」
星空には変わらない安定を求める彼の心。地上の変わりゆく日常とは対照的に、星空はいつも同じ顔を彼に見せてくれた。彼にとって、それが唯一無二の慰めだった。
「残念だったな。その日常も今日で終わりだ」
予想外の方向から声が聞こえる。彼が振り返ると全身銀色タイツの男が立っている。
「お前は誰だ?」
「バッツ君。君はこれからシリウス星人と戦わなくてはならない」
「シリウス星人と? 宇宙人か、あんたもそうなのか」
「私はM4星人。宇宙の秩序を乱すものを成敗するために派遣された宇宙保安官だ」
「あんたが戦えよ」
「そうはいかない。シリウス星人は全星人の運命を賭けた移住計画を実行中だ。数は多く私一人では無理だ」
「宇宙保安官も大したことないんだな」
バッツがそう言った瞬間、山の向こうが吹き飛び、爆炎が立ち昇る。
「私を怒らせない方がいい。しかしシリウス星人は私よりも怒りやすいぞ。この星を救いたければ君は戦うしかない」
「無理だろ。俺にはあんな力はない。人類はジエンド。世界中が団結したってあんたにはかなわない」
「あきらめてはいけない。君にこれを渡そう」
「これは?」
「クリスタル。これを持っていれば君は新しい自分に生まれ変わることができる」
「FF5のジョブシステムみたいなものか」
「のみ込みが早いな。では猫魔人になってくれ」
こうしてバッツは職業猫魔人となりシリウス星人と戦うことになる。
バッツはクリスタルを手に取ると、体中に奇妙な力が満ちていくのを感じた。瞬く間に彼の姿は猫魔人へと変わり、未知の力に満ち溢れていた。彼は自分でも信じられないほどの敏捷性と力を手に入れていた。
「さあ、行くぞ。シリウス星人がこの星に迫っている。君の力で彼らを食い止めなければならない」
「わかった。でも、どうやって戦うんだ?」
「心配するな。クリスタルが君を導く。そして、私もサポートする」
そう言うと、M4星人はバッツを連れて空高く舞い上がった。彼らはシリウス星人の艦隊が迫る方向へと急いだ。空中から見下ろすと、町は平和そのもので、この戦いが地球上の生命の存続を左右するとは思えないほどだった。
「こんな戦い、本当に勝てるのか?」
「勝たなければならない。それに、君はもう普通の人間ではない。猫魔人だ」
戦いは突然始まった。シリウス星人の艦隊から発射される無数の光線。しかしバッツはクリスタルの力でそれを躱し、反撃する。彼は自分がこんなにも強くなれるとは思ってもみなかった。戦いは激しさを増し、バッツは次第にその力を信じ、楽しむようにさえなっていった。
「これが俺の新しい日常か…」
戦いの最中、彼はふと思った。星を眺める静かな夜から、宇宙の運命を賭けた戦いへ。彼の日常は完全に変わってしまったが、それでも彼は新しい自分を受け入れていた。
戦いが終わり、シリウス星人の脅威が去った後、バッツは屋根に戻り星空を見上げた。星々は変わらず輝いている。しかし彼にとって、それらはもはや逃避の場所ではなく、守るべき美しい世界の一部だった。
「星空が、こんなにも違って見えるなんてな…」
「バッツ。どうしていつも空をながめているの」
屋根の下からレナが声をかけてくる。
「知っているか。あの星々の中には俺たちが思いもつかない宇宙人たちが住んでいて、想像もつかない技術を持っているんだ。猫魔人とか」
「バッツたらまた夢みたいなこと言って」
「猫魔人なんて馬鹿らしいよな」
「バッツ、いつまでも変わらないでね」
「どういうこと?」
「そういう夢みたいなことを語るバッツでいてね」
夢じゃないんだけどな。俺は猫魔人になってシリウス星人と宇宙で戦った。M4星人とはなんだったのか。今となっては分からない。本当に夢を見ていたのかもしれない。
流れ星が一筋走る。そう思ったのも束の間、光は瞬く間に近付いてきてバッツたちの近くに落ちる。その衝撃でバッツは屋根から落ちそうになる。
「なんだあれは」
「隕石?」
バッツとレナは流れ星が落ちた場所へ行く。そこには家一軒分ぐらいの隕石が地面をえぐっている。
「こんなに大きな隕石見たことがない」とレナは言う。
「でもこの大きさが落ちたらこのへん吹き飛ばないか。変だな」
それに熱くない。これだけの質量が地面に落ちたら巨大な熱量が発生するはずだ。
カラコォーン
弾けるような音がして隕石が開く。中は空洞だ。そこから金髪ポニーテールの女の子が出てくる。
「バッツ、レナ。ようやく見つけた」
「え、俺たちを知っている?」
「ええ、でも説明している暇はないの。私はクルル。夢の世界が滅びそうなの」
「もしかして俺たちはそれを救うに行くのか?」
「いまから私すっぴんなんだけど?」とレナは言う。
「メイクする暇はないの。デスタムーアに夢の世界が支配されちゃう」
「どうやら行くしかないようだな」
こうしてバッツとレナは隕石に乗って夢の世界へ旅立つ。
隕石は内部に隠された機構を駆使して、空を飛び始めた。バッツとレナは、クルルの導きで未知の世界へと足を踏み入れることになる。彼らの目の前に広がるのは、想像を絶する光景だった。色とりどりの光が交錯し、現実世界では見ることのできない奇妙な生物が彼らを迎える。
「これが夢の世界か…」
バッツは息をのむ。レナも同じく、目を丸くして周囲を見渡していた。
「そう、ここが夢の世界。でも今、デスタムーアによってこの美しい世界が脅かされているの」
クルルの声には緊迫感が漂っていた。彼女はバッツとレナを連れて、夢の世界を守るための冒険に出る。
途中、彼らは夢の世界を形作る「夢の結晶」を集めながら、デスタムーアの送り込む悪夢の生物たちと戦いを繰り広げる。バッツとレナは、クルルから授かった特別な力を使いこなしながら、次第に夢の世界を救うための鍵を握る存在へと成長していく。
「こんな冒険、本当に現実なのか?」
レナが不思議そうに言うと、バッツは笑って答えた。
「夢の世界だからこそ、何でもあり得るんだ。ここでは、すっぴんの君もヒーローになれるんだから」
彼らの前には、デスタムーアが待ち受ける最後の戦いが迫っていた。しかし、バッツとレナはもはや迷いはなかった。夢の世界を救うため、そして自分たちの夢を守るために、彼らは全力で戦う覚悟を決めていた。
夢の世界での冒険は、バッツとレナにとって忘れられない体験となる。彼らは自分たちの現実世界でも、どんな困難にも立ち向かっていける強さを手に入れていた。
「夢を追いかける勇気、それが僕たちを強くするんだ」
バッツ、レナ、クルルの三人は夢の世界を救い、元凶であるデスタムーアの城へたどり着く。
「愚かなり人間ども。しかしここまで来たことはほめてやろう。3ターン。3ターンだけ時間をやろう。そのあいだに私を倒せるかな」
「甘いな」とバッツは言う。「お前には1ターンの猶予もない、やれ、レナ」
「クイックメテオクイックメテオクイックメテオ‥‥‥‥‥」
レナが呪文を唱え始めると無数の隕石がデスタムーアに降り続ける。
「ばかめぇ、わたしをほんきに‥‥‥ほげぇ!」
デスタムーアが本気になろうがなるまいが隕石は降り続ける。
「お前が勝つ道は始めからなかったんだよ。俺たちが存在したこと。それ自体がお前の敗因だ」とバッツ。
「え、これはなに‥‥‥?」
あまりの強さにクルルもドン引き。その間もレナは呪文を唱え続けている。
こうして1ターンが終わる前にデスタムーアはなにもできずに死んだ。夢の世界は守られた。
デスタムーアが倒れ、その巨大な体が地に崩れ落ちると、夢の世界から暗雲が晴れ、再び色とりどりの光が空を埋め尽くした。周囲の生物たちも、恐怖から解放されたかのように、安堵の息を吐き出す。バッツ、レナ、クルルの三人は、夢の世界を救った英雄として、その場に立っていた。
「やったね、バッツ! デスタムーアを倒したよ!」レナが喜びを爆発させる。
「ああ、でもレナのクイックメテオがなければ無理だった。お前の魔法が全てを決めたんだ」とバッツはレナに感謝の言葉を述べる。
クルルは二人を見て微笑んだ。「私の世界を救ってくれてありがとう。あなたたちがいなければ、夢の世界は滅びていた。これからは、夢に悪夢が入り込むことはないでしょう」
「でも、こんな力、現実世界に戻ったら使えないんだろう?」バッツが少し寂しそうに言う。
「それでも、君たちは大切なことを学んだはずよ。夢の中で得た勇気と力は、現実の世界でも君たちの中に生き続ける。夢と現実、どちらも大切な世界。それを守る力が、君たちにはある」とクルルは優しく語る。
その言葉に励まされ、バッツとレナは新たな決意を胸に、夢の世界から現実へと戻る準備を始めた。隕石の内部に隠された機構が再び動き出し、二人とクルルを現実世界へと送り返す。
現実世界に戻ったバッツとレナは、夢の世界での冒険がまるで夢のように感じられたが、彼らの心には確かな変化が生まれていた。夢の世界での経験が、彼らをより強く、勇敢な人間に変えていたのだ。
「夢を追いかける勇気、それが僕たちを強くするんだ」とバッツが言った言葉は、彼らの新たな旅の始まりを告げるものだった。夢の世界での冒険は終わったが、バッツとレナの物語はまだまだ続いていく。彼らは現実世界での新たな挑戦に向かって、一歩を踏み出すのだった。
(おわり)
小説なら牛野小雪【良い本あります】
(おわり)
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