愚者空間

KDP作家牛野小雪のサイトです。小説の紹介や雑記を置いています。

月狂四郎

【書評】もう会えぬ君は友とリングへゆく/月狂四郎



リングに立つことはある意味ではババ抜きである。リングに立ち続けるためには強いやつに勝ち続けなければならない。勝ったら次の強いやつ、それに勝ったらまた次の強いやつ。ある程度まで登ると相手はみんな努力する天才ばかりになる。もちろん強い。こうして学校で無双していた時代は終わりを告げる。

そこでは苦しみを笑いながら食う人間だけが生き残る。食えないなら弾かれるだけだ。この小説はあらゆる人間が様々な理由でリングを降りていく話である。チャンピョンが一人しかいないように、この小説でも最後にリングに立つのは一人だけだ。孤独な世界だ。

去り方も様々で、最初からリングに入らない。負ける。死ぬ。明るい理由で去る者はいない。それでも立ち続ける。勝っているのに失うものもある。勝負事というのはきびしい世界だ。リングの上では得るものより失うものの方がいいんじゃないかって気がしてくる。

でも、ぶっちゃけそんなことはどうでもいいんだ

”ロブレス”さえぶちのめされればなぁ!

『もう会えぬ君は友とリングへ行く』はロブレスとかいういけすかないボクサーに丈二と新堂の二人が挑むというのが大まかなストーリーだ

試合前にはロブレスがいかにイカれたボクサーかを描写して(こいつやられてくれねぇかな)という感情を煽る。これは大げさに言ってしまえば倒される前振りを与えているということ。メタ的な話をすれば品行方正で尊敬できる奴を倒してもカタルシスがないんだ。小説の悪役はずるくて卑怯であるべきなんだ。そいつを倒してこそ気持ちいいんだ。

ロブレスはメイウェザーみたいなもので彼の試合を見る半分はファンで、もう半分はメイウェザーが負けるところを見たいアンチだ。勝っても得だし、負けてもお得な人物である。どちらにしろロブレスもメイウェザーも存在感を増す。

デカい悪役を倒すところを見たくないか?

丈二と新堂の二人はきっと勝つだろう。

急げっ、乗り遅れるな!

カタルシスを味わうんだ。

(おわり)




こっちもいいぞ!


『爪痕を残そうとして何が悪い/月狂四郎』のレビュー

たとえ話から始めよう。コンビニの店員がレジでとつぜん歌を歌い出す。しかも超絶うまくて誰もが感動する。店内のボルテージは上がり、じゃんじゃん人が集まってくる。

しかし残念ながら彼(あるいは彼女)はお金を稼げないのである。私たちがコンビニの店員に求めることはコンビニの店員であって、そこから外れれば一円にもならない。

歌で儲ける? もちろんそれは可能だ。しかしそれは彼に歌を求めた時であってコンビニのレジではない。なぜ私たちは空気を読めなければならないのか。それは私たちが究極的には利益を求めているのではなく空気に沿って動くことを求めているからに違いない。

主人公の龍牙は最近流行っていた私人逮捕系YOUTUBERで生計を立てている。PVが金になるので過激なことに手を出していかざるを得ない。このブログを書いている時点で現実では私人逮捕系YOUTUBERから逮捕者が出ているようにそう長く続くものでもない。

なぜ彼はそんなことをしているのか。本作の登場人物は基本的にみんななにかしらの破滅を味わっていて、傷付いた人間同士が寄り集まっている感がある。どう読んでも元ネタがたぬなかなヒロインもそうだ。

彼らは運命に負けて人生がめちゃくちゃになったのではなく、自分でめちゃくちゃにしたからそうなったと言いたがっているように見える。それは自傷的ではあるが人生に対する主体性を取り戻す行為でもある。

もちろん主体的に傷付こうが運命的に傷付こうがその先に待っているのはより大きな傷だ。勝手に命名するが鮫島事件をきっかけに龍牙はハンズ・オブ・ストーンという危険なボクシングの格闘技大会へ参加することになる。そこで負けた人物はより大きな傷を負ってステージを去る。それは龍牙であったかもしれない人たちで、彼らもある意味ではこの小説の主人公だろう。作中の描写は龍牙以外の人物にしょっちゅう移り変わる。

自傷行為には限界がある。自分の命や存在を超えて傷付けることはできない。それ以上を求めれば世界を傷付けるしかない。これは怒りの小説だ。世界の空気に対する怒りだ。ハンズ・オブ・ストーンで龍牙の破滅を世界の8割が望むことになるが彼は反抗する。

もちろんこれは小説である。現実とは違う。しかし小説とは嘘で真実を語る行為でもある。私たちは世界の空気に怒ることを忘れてはいないか。黙って従うことでより空気の圧力を強くはしていないだろうか。龍牙が空気と戦った後どうなるかは実際に読んで確かめてほしい。単純な勝ち負けでは終わらない結末が待っている。

(おわり)




小説なら牛野小雪【kindle unlimitedで読めます】

無敵の人/月狂四郎 ~誰もが台本の上で踊っている~

 ブレイキングダウンをモデルにしたイリーガルな闘技場でボクサーが勝ち上がっていくストーリー。ブレイキングダウンを知らない人に解説すると1分1ラウンドだけの超短時間の格闘技であり、年末にTBSでやっているボクシングが3分12ラウンド制と考えると試合時間は36分の1とかなり短い。『無敵の人』の舞台は3分1ラウンドだけどね。

 シバターをモデルしたっぽい主人公オバターだが別にボクシングをしたいわけでもなく、本当はyoutuberになりたかったような男で、才能はあるが自分の存在を賭けてまで練習するタイプでもないので、才能あるしも努力もする人間のステージには入れないタイプ。ちなみに元ネタのシバターは炎上youtuberのはしりだが、わりと強いし、魅せ方を分かっている。

 最初は亀みたいにガード固めて、下がって、一方的な展開なのでしょせんはyoutuberか‥‥‥と思わせておいてからの反撃→首絞めで勝っている。仮に台本があったとしても華のある試合だったので満足感あり。

『無敵の人』に台本はないが主催者側が『魅せ』を意識して理不尽なルールを途中で付け加えるので、リングにいる人間がそれにツッコミを入れる場面がある。この小説の登場人物はみんな誰かの台本の上に生きている。主人公のオバターは父親の「息子をボクサーにする」という台本で育ったし、彼も対戦相手もMSC3Fという舞台で踊っているにすぎず、主役か脇役の違いしかない。台本を書くのは彼らではなく、いつも彼ら以外だ。

 タイトルの元ネタである無敵の人がなぜ無敵であるのか。ニュースで報じられる彼らは誰一人として範馬勇次郎みたいに圧倒的な暴力を持っていない。むしろリングの上で被害者とゴングを鳴らして戦えば逆に倒されそうな人たちだ。みんな社会の『普通』という台本からこぼれ落ちた人たちであり、何にも縛られていないゆえに無敵性を持っている。社会的にも経済的にも資本がないので法律による罰則は抑止力にならない。実態はどうあれ、そう認識されているのが『無敵の人』だ

 あらゆる意味で台本からの逸脱を無敵とするならば、主人公のオバターはタイトル通り台本からこぼれ落ちるというよりは自傷行為のように無敵への道を進む。表面的にはボクサーとしての成り上がりを目指していたが、本質的にはそれを破壊することがオバターが求めたことだ。だから業界の常識に反してトレーナーの言うことも聞かない。だからボクサーとして成り上がれない。

 とはいえ『無敵の人』という言葉自体が新しい台本ではないだろうか。無敵の人も本当に求めているのは目の前にあるのとは別の台本なのかもしれない。オバターはこの小説の登場人物であり、月狂四郎という小説家の台本を生きている。どれだけ台本を破壊しても新しい台本が提供される。小説であるかぎりストーリーは破綻しない。小説の登場人物にかぎらず現実に生きる私達でさえ何者にも縛られない自由が存在しているとは信じられない。『自由』に生きている人は『普通』ではないけれど『自由』の台本に沿って生きているように見える。そう考えると本当の意味で『無敵の人』は存在するのだろうか?

無敵の人
月狂四郎
2023-01-26






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『PCM/月狂四郎』

PCM
月狂四郎
ルナティック文藝社
2020-04-19


 物語に予言は付き物だ。シェイクスピアの『マクベス』みたいなものもあれば日本昔話の『卒塔婆の血』みたいにナンセンス予言もある。『PCM』もまたナンセンス予言タイプかもしれない。主人公の五郎は亀田三兄弟を思わせるボクシング家庭に生まれて、スパルタ戦士さながらの力こそ全ての世界で育つのだが、ある日父親は息子達にこう言い放つ。

見出し画像 20200427 22

「お前たちはボクシングで大成できなければ死ぬだけだからな」

 その予言通り五郎が家出=ボクシングからの卒業を目指すと人生が暗転し始め、途中で色々あるが闇の地下闘技場で勝たなければ死という状況に追いつめられる。
 ちなみにこの闘技場、闇だけあってグローブに石膏が仕込んだ選手が出てきて、対戦相手を無慈悲に打ちのめす場面を最初に見せられる。何でもありというわけだ。

 しかし、五郎は負けたら死という状況で、なぜか卑怯な手は使わない。ボクシング上の駆け引きはしても、グローブに石膏は流さないし、ブレイクの後に後ろから奇襲をかけたり、血を相手の顔に吹きかけたり、相手の足を踏んでラッシュをかけることもない。ただ勝ちたいのではなくボクシングで勝ちたいのだ。

 ここでまた父親の影が出てくる。

 実はこの主人公が家出した理由というのが、自分が見つけた異質なボクシングスタイルで兄に勝ったのに父親に叱られたからなのだ。反発しているようでいて、実は死んでも父親の言う通りになっている。こう書くと父親が毒親のようだが、彼の異質なボクシングは素人にはともかく、プロに全然通用しないのである。フリッカージャブを打つたびにピンチに陥っていく。とうとう最後の砂川という男と戦った時には、全然通用しなくて万策尽きてしまう。

 やくざを得意のフリッカージャブで打ちのめして逃げる手もあったのに、戦いを選んでしまうのは体に染みついた父親の予言をなぞってしまったのかもしれない。

 そうだ。父親ではないが父親のようなことをする人間がいる。それは地下闘技場でやくざが用意したセコンドの日下部だ。彼は五郎の父親とは違って、口は出すし、手も出す(ミットを着けた手で)。

 父親の予言通り五郎がボクシングで大成して幸せを掴むのか、失敗して死ぬのかはどうでもよくて、究極のところ五郎が予言を無視できるかに尽きるんじゃないのかな。

 さて、実はもうこれ以上は書くことがない。

 結局『PCM』ってなに? ということだが、

 ・・・・うん、そうだな・・・・

 それはつまり・・・・
人生・・・・だあっ!
キャシアスクレイのグローブ

(未完)

このマンガがオススメなんだ。闇の闘技場が出てくるんだ。



※余談だが題名の『PCM』とはパチンコで負けたの略らしい。それと表紙はえっちだけど、えっちしない。

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『裸娼門/芥川龍之助平』

『暴っちゃん』で味をしめたのか今度は芥川龍之介の『羅生門』をパロッた小説。

キモ金おじさん(元イケメンという設定だが)が主人公で、原作と同じように悪に身を落とそうかどうか煩悶しているということ(既に小悪党だけど)を下敷きにしているのだが、ここでもう少し踏み込んで悪に身を染めても救われないところまで書いている。羅生門ではまだ他に着物はあるし、老婆の抜いた髪もあるのに下人は老婆の着物だけを奪い、裸娼門ではギャルの下着や体がその辺に転がっているのにオッサンは老婆の下着だけを奪う。悪で身を立てるなら、もっと大きな収穫がすぐそばにあるのに小悪を犯しただけで舞台から消えてしまうのだ。ゆえに羅生門では下人の行方は知れないし、裸娼門でもオッサンは行方知らずとなってしまう。

ところどころにネットのネタが散見されて、最後は正義パンチの論考になるのだが、ここを中心のテーマに持ってくるとパロディ小説として一歩踏み込んだ内容となったのに、と書いている途中で、ふと下人もオッサンも最終的には悪に身を染めたのではなく、ただ単に老婆への正義パンチをかましただけではないかという疑念が湧いた。そして正義パンチをかましても老婆は生きているし、下人とオッサンは消える。

正義パンチは全方位へ向けられている。それは自分の心にも。自分で自分に正義パンチをすることによって、下人とオッサンは自分の中にある悪を消すのだが、それによって彼らは悪に身を染めても生き抜くという選択肢を潰してしまう。そう考えると『老婆はお前で、お前は老婆』という言葉が意味を持ってくる。老婆を否定するということは己の死に繋がっているのだ。

下人は羅生門を登り、オッサンは居酒屋のビルを見上げたように、悪の舞台は彼らより高い場所にある。悪は彼らより上回っていることが示されているのだが彼らは下界へ下りて老婆は最後まで上界に残っている。一見悪に染まったような下人とオッサンだが悪をぶん殴って正義に殉じていくようでもある。悪は命よりも上だが、それなら正義の下界で死ぬ方が良いという心意気だ。

この小説は単なる『羅生門』パロディ小説ではなく新しい解釈を提示した啓蒙小説だと言えるだろう。原作と同じように短い小説なので興味があればさっと読むのがおすすめ。


裸娼門
芥川龍之助平
2018-07-12
 昨今「正義とは何か」という論争が飛び交う中、本当の意味での正義を若者に考えさせる助平文学の原点として注目される予定であり、高校国語教科書に採用されるカオスな未来も遠からず予想される。

妹粥(いもがゆ)/T・S・カウフィールド

妹粥のコピー

妹粥(いもがゆ)
ーT・S・カウフィールド


もしも君が、ほんとにこの話を聞きたいなら、火薬が何トンだとか、六連発リボルバーが火を吹いただとか、銃をぶら下げた無法者達だとか、頼りにならない保安官だとか、そんな《S・T・コールフィールド》式ドンパチを聞きたがるかもしれないけれど、そんなことは喋りたくない。


第一僕はS・T・コールフィールドではないし、第二に僕が話したいことは妹のバービーのことしかない。


さて、どこから話せばいいか・・・・・・僕が中二の頃の話をしよう。


その頃、僕は14歳で妹のバービーは10歳だった。彼女が始めて料理をしたのもこの歳だった。この年頃の女の子ならホットプレートでホットケーキだとか、パンケーキとかを焼いたり、オーブンでクッキーを焼くと思うだろう?


 でもバービーは違ったんだ。彼女が始めて作ったのはお粥(かゆ)だった。


「兄さん、体の調子はどう?」なんてことを言って僕の部屋に入ってきた彼女が両手に鍋を持っていた時は、ちょっとびっくりしたな。何が始まるんだろうって不安にもなった。


不安になったといっても、バービーが僕に何かすると思ったからじゃなくて、いつもと違う事が起きているから動揺していたからだろうね。僕はバービーのことは信頼していたし、バービーも決してひどいことはしない。小さな女の子らしくいたずらをすることもあったけれど、本当にひどいことは絶対にしない子だた。


 彼女は僕のベッドに腰掛けると、サイドテーブルに鍋を置いて蓋を開けた。そこにはお粥が入っていた。最初にネギのつんとする匂いがしたな。次に玉子のむわっとくる匂いもした。彼女はそれをお椀によそうと一度息を吹きかけて僕に渡した。


「どう?」


僕がお粥を一口食べると、彼女は早速感想を聞きたがった。まだ一度も噛んでいないのにだ。でも僕は「うまい」と言った。本当のことだ。でも、そのお粥がまずかったのも本当のことだ。ネギはまだ固かったし、玉子は火が通り過ぎていたし、砂糖が入っていて妙に甘かった。


もしこれがどこかの店で食べた物なら僕は飲み込まずに吐き出して、席を立っていただろうね。状況次第じゃ殴り合いのひとつでもしたかもしれない。でも、そういうことは問題じゃないんだ。バービーが僕のために色々気を利かせてくれたんだろうなというのが伝わってくるのが嬉しかったんだ。

 ネギは風邪に効くって言うし、玉子は栄養たっぷりで病人には良いって言うだろう? 玉子酒なんてのがあるぐらいだ。それに砂糖を入れたのだって僕が食べやすいようにっていうバービーの気遣いなんだ。あのお粥は本当にまずかったけれど、僕は一口食べるたびに幸せを噛み締めていた。


「本当に美味いよ、バービー」


 僕が褒めても彼女は「そう、良かった」なんて短く言って、そっけない態度を取るんだ。照れ隠しなんだな。本当は嬉しいんだろうけど、大げさにはしゃいだりしない子なんだ、バービーは。

 彼女は部屋を出て行った。歩き方が固くて、ドアも音を鳴らして閉めた。知らない人が見れば怒っているようにも見えただろうね。でもそうじゃないんだ。踏み鳴らした足音や、ドアを静かに閉められなかったところに喜びが漏れている。僕には分かるんだ。


 それからもバービーは僕に毎朝お粥を作って、ベッドに持ってきてくれた。最初に食べたひどいお粥も日を追うごとに上手くなって、一年後にはちょっとした店でも出せる味になっていた。その頃には毎朝バービーのお粥を想像してウキウキした。


バービーはその後何年も僕にお粥を作ってくれた。義務だとか、習慣だとか、そんなものじゃなくて100%本当に優しさで作ってくれている。それが嬉しかった。


 バービーは成長して女の子から女性になると家を出て行った。月狂四郎(つきくるいしろう)とかいうつまらない男と結婚したからさ。元ボクサーで、外資系のドアを作る会社でセールスマンをしていた時に、ネットに書いた小説が大当たりして作家に転向したという変わった経歴を持っているが、実際に会ってみるとつまんない男だった。これは保障する。僕は何度か会ったことがあるんだから間違いない。


だからといって悪い奴ではないんだ。もし人間を良い奴と悪い奴で分けたとしたら、100%良い奴に分類されるだろうね。そんな男なんだ。そうでなければバービーも奴と結婚なんかしなかったはずだ。でもつまんない男さ。


 そんなわけで妹が家を出て行ったから毎朝食べていた妹のお粥はなくなった。今はメイドの藤崎ほつまさんがホットサンドをベッドに持ってきてくれる。ホットサンドでなければナポリタンだ。


「ねえ、藤崎さん。いつも朝食を持ってきてくれるのはありがたいけど、僕は病人なんだからその辺のこと考えて欲しいな。こう、食べやすくて精の付くやつ」


 一度そう言った事がある。そうすると彼女は「気が付きませんでした。申し訳ありません」と言って、次の日はスッポン鍋とイモリの黒焼きが出てきた。なんだかんだあって、結局はホットサンドとナポリタンに戻った。


 藤崎さんがホットサンドを作るためにパンの耳を切っている音を聞きながら、僕は奴が(月狂四郎)が最近出したという本を読んでいた。『暴っちゃん』とかいうつまんない本だ。夏目漱石の『坊ちゃん』を魔改造して、制限のない性と暴力にあふれさせている。欲に塗れた登場人物の低い人間性を圧倒的な暴力で蹂躙する内容だった。大藪春彦みたいだ。きっと不純な読者が読むに違いない。本当に、本当に・・・・・・・


「なにが月狂四郎だ! ふざけやがって!」


 僕はムカついていた。あんな奴と妹が結婚したなんて許せない。僕はベッドから出るとコートを羽織って部屋を出た。


「どこへ行かれるのですか?」


 玄関を出る前に藤崎さんが声をかけてきた。


「藤崎さん、僕は朝食を探してくる」


 そう言って僕は家を出た。


 自分の足で家を出たのは何年ぶりか分からなかった。何を見ても世界が固く感じられる。空気でさえガラスを吸っているみたいに固かった。五分もしない内にへろへろに疲れてしまったので僕はタクシーを呼んだ。

 

 奴とバービーの家はタクシーで10分ほどのところにあった。大きくもなく小さくもなく、これといって特徴のない家だ。幸福な家庭はどれも似たものだってトルストイは言っていたけど、本当にその通りだ。これに子どもと犬のはしゃぐ声があれば完璧だった。作家のくせにつまんない家に住んでいるのさ。それで作家なんてやってるからカフカの小説より不条理だ。


 僕は幸せな無個性の家のチャイムを鳴らした。するとバービーが玄関を開けた。僕が来るとは思っていなかったんで、ひどく驚いていたな。


「まぁ、兄さん! どうしたの!」


「なんでもない。ちょっと近くを通りかかったから顔を見に来ただけなんだ」


「私に会いに来たの?」


「そういうんじゃないんだ。ただちょっと外の空気を吸いたくて歩いていたら、偶然この家を見つけて、本当は通り過ぎるつもりだったけど誰かいるかなと思って」


「誰か来たのか?」


ここで、あの野郎が出てきた。黒いタンクトップを着て、ムキッとした腕の筋肉を露わにしているんだけど、それが少しも嫌味ではないんだ。僕はそれがとても嫌だった。


「兄さんが来てるの」とバービーは言った。


「義兄さんが?」


 そこで奴は玄関に立っている僕を見た。すぐにニカッとまぶしい笑顔になった。


「これは珍しい。どうぞ中に入ってください」と奴は言った。


僕は一度断ったんだけど、ああいう人種は必ず人をもてなさないと気が済まないらしい。僕は結局二人の家に入った。奴はお世辞とか、建前とかじゃなく本当に笑顔だったし、妹は突然僕が来たものだから不安な顔をしていたけれど、それでも嬉しそうな顔をしていた。


 僕はそこでつまらない時間を過ごした。奴はともかく、バービーまでつまんない人間になっていたのはショックだったな。すっかり奴に毒されているんだ。僕と一緒にいた頃には考えられないほどつまんない人間になっていた。何でも真っ二つにしてしまう鋭い感性がすっかりなまくらになっていたんだ。

 僕が話しかけても彼女にはうまく響かなくて、それとは逆に向こうが話しかけても僕に響く物がなくて、時おり気まずい思いをした。でも二人は幸せそうだったな。つまんないけど幸せに満ちていた。


「もう帰る、いきなり訪ねたりして悪かったね」


 僕が立ち上がると二人も席を立った。「もう少しいてくださってもいいのに」なんて奴はつまんないことを言った。「今日は他にも行くところがあるから」と僕が言うとバービーは不審な顔をしたな。事実僕には何の用もなかった。


 二人は玄関まで見送りに出た。止めなければ家までついてきそうだったな。


「それじゃあ邪魔したね。バービー、体に気を付けるんだよ」


「兄さんこそ、大丈夫? タクシー呼ぼうか?」


バービーは不安そうな顔をしていた。


「いいんだ。体をなまけさせちゃ良くなるものも良くならない。歩いて帰るよ」


 僕がそう言うとバービーは奴の顔を見た。僕の目から涙が出てきた。幸せをぶち壊しかねない爆弾だったが、止めようがなかった。


「兄さん、大丈夫? やっぱり体に悪かったのよ。今日はこんなに寒いし」


 バービーが心配そうな声を出すと、さらに涙が出てきた。おまけに体の力が抜けて、その場に倒れそうになった。チクショウ。だがもっと最悪なのは、奴がたくましい腕で僕を支えてきたことさ。


「大丈夫ですか、義兄さん。やっぱりタクシーを呼びます」


奴はそんなことを言った。良い奴なんだよ。それは僕が保障する。

 それで僕は奴の手を両手で握った。今までの人生で一番力が出たんじゃないかな。


「妹をよろしくお願いします。バービーはいい子なんです。幸せにしてやってください」


 僕は何度もそう言った。何度も頼んだ。何故だか涙が止まらなかった。


そこから先は記憶がない。気付けば僕はベッドにへろへろになって寝ていた。あれは夢だったのかもしれない。だけど、コートは床に落ちていたし、後になって奴とバービーが家に来た時は微妙に態度が変わっていた。だから現実のことだったんだろう。


 結局この話は僕が恥をかいただけで終わる。たぶん僕はこれから永遠にバービーのお粥を食べることはできない。でもそれで良かった。本気でそう思える。バービーは奴と無個性な幸せを築いて、さらにつまんない人間になっていく。

 でも僕はこれからも奴とバービーが幸せでいられることを祈り続けるだろう。



(妹粥 おわり T・S・カウフィールド 2017/11/11)



奴の新作が出たみたいだから紹介しておく。無料キャンペーン中らしい

暴っちゃん
月狂四郎
ルナティック文藝社
2017-11-07
――親譲りの無鉄砲で、小供の時から損ばかりしてきた。お馴染みの一文で始まる物語。だが、そこにかの名作が持つ重厚さや文学特有の堅さはない。誰もが知る夏目漱石の「坊ちゃん」とアウトローを組み合わせた異色の格闘ミステリ小説。 電子書籍界に投じられたゲテモノは、文学の紡いできた歴史に歪な波紋を巻き起こす



牛野さんの新作が出たのでこっちを読んだほうが良いです。本当に。

町へ出るトンネルの出口で美男美女の二人が殺された
無軌道に犯行を重ねるまさやんと追いかけるタナカ
しかしそんな事とは別に破滅の車輪は回り始めていた





2016年に読んだkindle本

悪人の系譜/月狂四郎

赤ちゃんは言葉を喋ることができない。

「あの、おっぱい吸わせてもらえませんか?」

「お尻拭いてもらえませんかね?」

「そろそろ眠りたいからそっと抱きしめててほしいな」

 などと言葉を出したら非常にびっくりするだろう。

 ある本によれば人間が最初に覚える感情は怒りらしい。

 何かあれば怒る。本当かなと調べてみると赤ちゃんが笑うのは生後数ヶ月たってからで、最初は寝るか泣くからしい。

 

 赤ちゃんにできることは泣くことだけで、これひとつですべての用事を済ませている。中には眠気でも泣くことがあるそうだから大変なものだ(どうやって調べたんだろう?)。

 もしそれが本当なら赤ちゃんからの記憶がある人は「俺は怒りと共に生まれてきた」なんて言うのだろうか。(でも胎児の頃の記憶がある人はいるらしい。そういう人に聞き取り調査したのかな。ほとんどの人は3歳以前の記憶は無くなってしまうそうだ。)

 余裕のある人は笑っている。余裕のない人は怒っている。それがさらに進むとしょげかえっている。

 さて本題に入るとちょっと前に月狂さんの『悪人の系譜』読んだ。

 天龍墓石(とうむ以下トム)は怒っている。いつも怒っている。でも最初はしょげかえっていた。親から有形無形の暴力を受けていた。でも体が成長してくると暴力の方向が反対になった。でも彼の心が癒やされることはないわけだ。

 彼は心の乾きを癒やすように暴力の世界に塗れていく。幸いにも天性の才能があって修羅の世界を気持良く泳ぐことができたが、それでもやっぱり気持ちは収まらない。暴力の方向性が変わっただけで心の傷はずっと疼いている。

 対人関係のトラウマの克服で一番難しいのは、傷を負わせた相手を許すことではなく、過去の自分を許す自分を許せないことだそうだ。「お前、あんなことをされたのにあいつを許すのか」的な。

 トムには妹がいる。彼女も実は心の傷を持っている。彼女は親から虐待を受けていた。彼は彼女を親から救い出し、それから身から出た錆の暴力も救いだした時に何故か母を許すことができる。

 よくよく考えて見るとトムは全然救われていないような気もするんだけど、自他の境界が無いような世界を想像すると彼は自分と同じ境涯の人間を救うことで自分を救っていたのかもしれない。

 かつて何かで苦しんでいた人を見て、それを助けてあげることで自分の中で何かが癒やされることでもあるのだろうか。理屈で考えればいかにもおかしいことだけれどありそうな気はする。

 この世は愛されるよりも愛したいマジでの世界なのかもしれない。

 でもさ、なかなか人って愛せないよね。嫌いになるのは簡単なのに好きになるのは難しい。続けるのはもっと。そういえば赤ちゃんが最初に覚える感情は怒りだっけ? 嫌いってのは怒りを伴っている。怒るのは簡単だ。表に出せるか出せないかの違い。

 ディスるのは簡単で賞賛するのが難しいのと同じで、嫌いから好きへ回転させるのは難しい。自分でさえ持て余す。自分と同じような人間を見つけることができれば何か変えることができるのかな。

 

(おわり)

悪人の系譜


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『タダにしろなんて甘えなんですよ』



月狂四郎(つきぐるいしろう)という作家がいた。彼は先日『地獄のリベンジメン』という本をKDPでkindleストアに出したばかりだ。初日こそ売上はあったが、あとは他の電書作家と同じように鳴かず飛ばずの日が続いた。9月になると今月の売上はありませんと管理画面に表示されるようになった。そのまま10月になろうとしている。


 このままじゃダメだ。なんとかして状況を動かさないと。月狂四郎は『地獄のリベンジメン』の無料キャンペーンを実施することにした。これで何冊かダウンロードされて、いくつかレビューが出れば売上に弾みがつく。そう目論んでいたのに5日間の無料キャンペーン中にダウンロードされたのは1冊だけだった。無料なのにこんなことがあるのかと暗い気持ちに襲われた。


 それから一週間経った日、ずっと放置していたツイッターの通知が一件あった。メロディアンちよこというアニメ顔アカウントからメッセージが来ている。


《地獄のリベンジマン読みました。DMしたいのでフォローしてください。伝えたい事があります》


 自分の本を読んだ人がいる。月狂の心は躍りあがった。タイトルを間違えていることなんて些細な問題だ。さっそくメロディアンちよこという人をフォローする。DMが来るのを待っていたが、その日はDMが来なかった。待っている間に月狂は眠っていた。


 朝になるとメロディアンちよこからDMが来ていた。夜中の三時に送ってきたようだ。


《地獄のリベンジマン読みました。けっこう長い本で読むのに時間がかかりました。あとで銀行口座を教えるので2000円振り込んでください》


 月狂は首を傾げた。何かの冗談かと思ったが、何度読んでも2000円払ってくれという意味にしか読めない。またDMがきた。


《返事ください。待っています》


《どうしてあなたに2000円払わなければならないのですか?》


と月狂は返した。返事はすぐに来る。


《読了するまでにかかった時間が3時間。最低賃金の全国平均が800円。

800×3=2400

なので本当は2400円なのですが、私も本を読むという文化的な活動に貢献して多少はやりがいを感じるところがあったので400円はサービスしておきます》


《ちょっと言ってる意味が分からないです。》


《い抜き言葉ですね。

×言ってる → ○言っている

こういうところでも文章力は測られるので注意した方がいいですよ。

意味も何も2000円払ってくださいという意味です。ただそれだけ。それ以上でも以下でもありません》


5分後にまたDMが来る。


《もしかして計算が間違っているのかもしれないと、さっき電卓で計算してみました。こんな簡単な計算で間違うなんてありえませんけど、いちおう。計算した結果は・・・・やっぱり合っていました。当然ですね(笑)》


(笑)じゃねえよ。しかしDMはそこで途切れた。何故2000円を払わなければいけないのか説明は一切ない。払うのはもう決まっていると思い込んでいる印象を受けた。きっと頭がおかしいヤツなのだろう。

夜にまたDMが来た。


《すみません!!!!!!!!(>_<)

銀行口座を書き忘れていましたっ!!(←マジ)

これじゃあ振り込むものも振り込めませんよね・・・・

計算間違いだなんて変なこと言って自分で恥かしくなります

今朝のDM消しておきますね(^_^;) 》


そのDMに続いて、銀行名と口座番号が書かれたDMが送られてきた。本気でヤバいヤツだと月狂は恐くなってきた。


《そもそもあなたにお金を払う必要はありません》

とだけ返信する。それでもヤツはあきらめない。


《ちょっと言っている意味が分からないです。それは本気で言っていますか?》


《本気です》


《たとえばですよ。会社が従業員を働かせて給料を払わなければ捕まりますよね。労働法という言葉は知っていますか? 会社と従業員の関係でなくても、誰かに何かをしてもらえば、時間なり手間をかけさせたのなら報酬を払うのは当たり前です。もしかしてそこから話す必要がありますか?》


《私はあなたに何もしてもらっていませんが?》


《逃げるんですね。そんなに2000円が大事ですか。月狂さんは作家というよりは守銭奴ですね。お金のために書いている人だ。人から搾るだけ搾り取って自分は私服を肥やす。こんなことが許されると思っているのですか?》


《その言葉そっくりお返ししますよ。あなたの方こそ守銭奴でしょう。人に言いがかりをつけて2000円をせしめようだなんて理不尽にもほどがある》


《あなたがさっき言った言葉は名誉毀損です。私は守銭奴ではありません。事実無根です。謝罪してください。さっきの発言は証拠としてスクリーンショットに撮りました。警察に訴えますよ》


《すみませんでした》

少しも悪いとは思っていないが、もう面倒になってきた。


《素直に謝罪してくださったことに感謝します。あなたを許しましょう。それでは来週までに2000円振り込んでおいてください》


《いや、お金は振り込みません》


《さっきあやまったじゃないですか。あれは嘘だったんですか?》


《私の本を読んでいただいたことはありがたく思います。でもあなたは無料キャンペーンでダウンロードしたのでしょう? 毎日KDPの管理画面を見ているので分かります。それでいえば私は損ばかりしていて・・・・・》


《あなたの本を無料でダウンロードしたのはその通りです。ですが0円の本なので価値はありません。価値のない本を読んだので私は損ばかりしています。具体的には一度しかない人生のうち3時間を損しました。なので2000円払ってください。だいたいあなたが無料キャンペーンをして何か失いましたか? 失っていないのに損をしたとはおかしい話です》


《いや、それはおかしい。私だって本を書くのに時間を費やしている。まったくタダで書いたわけじゃない。こっちだって命を削って書いているんだ。その本を無料で配布したんだから損してる》


《それであんな本しか書けないのですね。でもね、月狂さん。時間をかけたとか、努力したとかいう言葉は甘えなんですよ。あなたが何日かけて地獄のリベンジマンを書いたのかはしりませんが私だって命を削って読みました。人生を3時間を削って読んだのですよ?それをタダにしろだなんておかしいじゃないですか。だから2000円払ってください。もしかして2000円も払えないほど貧乏なのですか?
 

それとまたい抜き言葉です。

×損してる → ○損している

“を”をつけた方がいいかもしれませんね。こんなことが続くとあなたの文章力が疑われますよ》


《もういいです。あなたとは話が通じないのでDM送らないで下さい》


月狂四郎はメロディアンちよこをブロックした。それでもヤツはあきらめなかった。ブログのコメント欄にやけに攻撃的なメッセージが書き込まれている。


《おい!突き狂いてめえ。話は終わってねえのに勝手にブロックしてんじゃねえぞ!お前がブロック解除しないからここに書き込んでやる。人をタダで使おうなんて甘いこと言ってんじゃねえぞ。今すぐ金返せ。筋とおせ。そんなにはした金が欲しいか!このまま黙っていれば忘れてもらえると思っていたとしたら大間違いだからな!》


2chには月狂四郎の専門スレが立ち


月狂四郎は人をダシにする極悪人みんな気を付けろ!!!!

月狂四郎は人をダシにする極悪人みんな気を付けろ!!!!

月狂四郎は人をダシにする極悪人みんな気を付けろ!!!!

月狂四郎は人をダシにする極悪人みんな気を付けろ!!!!

月狂四郎は人をダシにする極悪人みんな気を付けろ!!!!


と何度も書き込まれている。他のスレにも書き込んでいるようだ。

月狂四郎の悪評が書き込まれると、それに賛同するに書き込みが一気に爆発する。

しかも他の作家のブログのコメント欄にも《月狂四郎に気を付けろ》と書き込んでいる。

犯人はひとりしか思いつかない。メロディアンちよこ。


だがヤツはインターネットの事をよく知らなかったようだ。まだガキなのか?

アクセス解析でIPアドレスは調べられるし、月狂四郎を誹謗中傷した証拠もたくさん残っている。大人をなめるなよ。社会の恐ろしさを教えてやる・・・・。



と、ここまで書いてきたのだが作者はもう嫌になってきた。実際は誹謗中傷の証拠やIPアドレスを掴んでも警察に駆け込むなんて面倒な事はたぶんしないだろうし、メロディアンちよこは暴れ続けるだろう。もしかしたら別アカウントを作ってツイッターで絡んでくるかもしれない。

あんないかにも荒らしっぽい掲示板の書き込みなんて誰も真剣に受け止めないだろうが、この話の主人公である月狂四郎の精神は削られていく。筆を折るかもしれない。それでもメロディアンちよこは止まらない。

 現実なんてクソ。だから創作の中でくらい非現実なことが起こってもいいじゃないか。というわけで最後はこの一文でしめくくることにする。



メロディアンちよこは突如現れた地面の割れ目に吸い込まれ、この世から消えた。


(おわり)



↓ネタにした小説。筆を折ったある作家がいて、その友達が復讐をする話。地面は割れなかったと思う。

地獄のリベンジメン [Kindle版]


牛野小雪の小説はこちらへ→
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とある小説家の執筆日記No.3『頭が爆発した!』『違和感を感じる気がしないでもないかな? よく分からないけど』『敵はインターネットにあり』

死ぬかもしれない

●頭が爆発した!

先週の木曜日ぐらいだったか、本を読んでいる途中に眠気が襲ってきて、本を開けたまま目をつぶっていた。まだ眠るつもりはなくて、ほんのちょっと目をつぶるだけ、眠気の波が去ったら本を読もうと考えていたら、突然 ドーン! と頭の中で爆発音がした。ハリウッド映画でよくある爆発音と同じ。それもクライマックスにあるようなドデカイやつ。

慌てて布団から跳ね起きると、しばらく呆然としていた。一体に何が起こったのか訳が分からなかった。我に戻るとすぐにPCを立ち上げて『頭 爆発した』『突然爆発音』『頭 爆発 病気』とか色々検索した。脳に何か重大な障害が起きていると思っていたので凄く恐かった。死ぬんじゃないかと。

調べてみると【頭内爆発音症候群】というわりと有名な症状らしい。アメリカのとある大学生は5人に1人がこの症状に悩まされているのだとか。今までは50代に多いと言われていたらしい。解説記事には脳が疲れているだけだから落ち着けと書いてあった。脳の病気ではなく命に別状もない。原因は疲れているから。凄くほっとした。そのあとすぐに眠った。今のところ頭の中が爆発したのは、これ一度きり。やっぱり疲れていたんだな。
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2015年に読んだkindle本

『ジミー・ザ・アンドロイド/如月恭介』を読む

魂を宿した人工知能ゴッドが暴走。人類に対して戦いを挑み、別の人工知能ジミーがそれを阻止しようとする話。

月狂さんは続編があると書いていた(ペンと拳で闘う男の世迷言/ジミー・ザ・アンドロイド」書評)が、人類の視点で見たジミー&ゴッド(=人工知能)の成長、自立の話として読めば、これで完結だと私は読んだ。如月さんも続編なんか考えていないんじゃないかな。
作中でも人間は親、人工知能達は子供として書かれている。悪の人工知能ゴッドはさしずめ頭だけは一丁前の感情が伴わない思春期のクソガキといったところか。

話の最後で人類からの親離れをしたジミー達は人類の手から離れていく。作中でも書いてあったが、人間を越えた人工知能に人類はついていけないのだろう。
ジミーとゴッドの戦いは恐らく人類には何が起こっているか分からないという戦いになるはずだ。 そもそも同じ能力を持つ人間同士でも子供が精神的に自立したあとは、親は基本的に子供が何をしているかなんて分からない。子供だって親に何をしているかなんて教えない。
親という字が木の上から見ると書くように、人工知能の親である人類は文字通りそれを見ているしかない。

ジミーとゴッド、どちらが勝つにせよ。将来的に人工知能が役立たずになった親(人類)の面倒を見てくれるのか、それとも邪険にうばすて山へ送るのかは人工知能達の問題。親である人類はただ受け入れるしかない。これは人間の親子でも同じような気がする。



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『神になったお客様/T・S・カウフィールド』

題名:神になったお客様
作者:T・S・カウフィールド


   騒がしい店内。側を通りかかった店員を客Aが引き留める。


ー客A おい、兄ちゃん! いつまで待たせるんや!

ー店員 申し訳ございません

ー客A 客は神様やろうが! それをこんなふざけた対応で済ませてええと思とるんか!?

ー店員 現在大変込み合っておりまして。ご迷惑をおかけいたします。 

ー客A 謝ってくれんでもええんや! あっちの客はワイより後に来たのに、先に食べよるぞ! どういうことや! ワイを忘れとるんちゃうか!?

ー客 大変申し訳ございません。お客様のDX天ぷら定食は少々お時間をいただくことになっております。

ー客A もう、タイムオーバーや! ほれが神様に対する態度か! 他の客はどうでもええ! ワイのを先にしてくれや!

ー客B ほう、神様ですか。あなたはどちらの神様でございますか?

ー客A なんや、あんたは?

ー客B 珍しいと思いましてね。神様といえば姿を見せず、声も出さず、我々がお供えしたものを静かに召し上がるものとばかり思っておりました。日本は八百万の国と言うし、実際に姿を持って怒鳴ることもあるようで、なにぶん世間知らずで存じ上げておりませんでした。


   客B手を合わせて客Aを拝む


ー客A ・・・・・・・そこまでせんでもええわ。もう分かったわ。兄ちゃん、悪かったな。けど、はよ、持ってきてな。美味いの頼むで。ワイは神様なんやから。

ー店員 はい


 客Aの頼んだものがくる。客Aはそれを食べ終わるとレジを通りすぎようとする。店員慌てて駆け寄る。客Bもちょうど食べ終えてレジにやってくる。
 

ー店員 すみません。会計の方がまだお済みで無いようですが?

ー客A なんや、兄ちゃん。ワイは神様やないんか? さっきのおっちゃんも言うてたで

ー店員 ですが、お会計がまだ・・・

ー客A  知らんなぁ。聞いたこともないわ。どこの神様がお供えもんもろて、カネ払うんや。普通は逆や、逆。こっちが五円玉もらわなアカンのやけど、今日のところはタダにしといたる。天ぷら美味かったで。ごちそうさん。


   男が店を出る。


ー客B おい、兄ちゃん! 食い逃げやぞ! はよ、捕まえなアカン!


   客Bと店員、店を出て男を追いかける。店を出たすぐの場所で客Aは捕まる。


ー客A なんや! ワイは神様なんや! こんなことしてエエと思とるんか!

ー客B アホか! 食い逃げする神様がどこにおるんや!

ー客A  神やー! ワイは神様なんやー!

ー客B アカンわ。こいつ完全に頭がおかしいなっとる。兄ちゃん、こいつちゃんと押さえて警察に突き出すんや。現行犯やからすぐに捕まる。

ー店員 はい!

ー客B ほなな。色んな客がおって、兄ちゃんも大変やな。

ー店員 ありがとうございました。

   客B去る。その背中に店員は頭を下げる。

ー客A 神やー! ワイは神様なんやー!!!

  客A叫び続ける。

 AHOニュース
5日午後12時35分ごろ、京出比市の飲食店で、職業不詳、自称神の男が無線飲食の現行犯で逮捕された。 男はDX天ぷら定食(1890円)を飲食した後、代金を支払わずに店を出たところを店員に取り押さえられている。 警察の調べに対し男は「ワイは神や。お供えもんをタダで食べて何が悪い」と意味不明な供述を続けており、精神鑑定も視野に入れて捜査が進められている。

(おしまい)

牛野小雪の小説はこちらへ→Kindleストア:牛野小雪 


月狂四郎さんが『鬼娘の千倍返し:ガンズ・オブ・パクリオット 上』をリリース

 月狂四郎さんが新作『鬼娘の千倍返し:ガンズ・オブ・パクリオット 上』をリリース開始しました。題名や内容紹介からして桃太郎のパロディのようです。メタルギアもあるのかな。
 元ネタを骨組みにしてそうとう羽を伸ばしたのではないでしょうか。

 上巻の方は後日プライスマッチで無料になるそうです。興味のある方は試しにダウンロードしてみてください。

【以下引用】



「お前は自分が害虫を駆除する時に、いちいちその理由を考えるか?」 
 わたしの島を襲撃した桃太郎は、冷たく言い放った。 

 ――日本中で愛読されている桃太郎。表向きは押しも押されぬ英雄だが、鬼達にとってはとんでもない侵略者だった? 
 誰もが一度は抱いたことがあるであろう懐疑を、KDP界の問題児、月狂四郎が長編小説にして解き放つ! 


 島で退屈な日々を送っていた鬼娘(きむすめ)のちひろは、ある日桃太郎に鬼が島を襲撃され、故郷を追われることになる。毒牙夜蝶の経営する遊郭で拾われた彼女は、地獄送り嬢(=デリバリーヘルス嬢)という稼業にその身を隠しつつ、桃太郎一派への復讐を誓う。 
 ラブホテルを爆破し、敵が生息する山をミサイルで粉砕したちひろは、敵を恐怖のドン底に叩き落としつつ故郷の奪回に奮闘する。 
 月狂四郎の作品史上、最やりたい放題となったツッコミ所満載のハードコア御伽草子。 
 こんなおとぎばなし、子供には絶対見せられない

文字数は上下巻あわせて150,000字ほど 

上巻は何字ほどなんでしょうか、謎です。
追記:8万字ほどだそうです。 

2014年に読んだキンドル本

推薦文『未来劇剣浪漫譚 Human Possibility』

 退廃的な未来で巻き起こるSF剣豪小説2作目

 今回は作者が商品紹介に書いてある通りにエンタメの要素を強く打ち出していて前作と比べてかなり読みやすいです。また続編なので登場人物や世界観が共通していて、早い段階から物語に入り込めます。

 前作で元々一般人だった凛が姉の仇討ちとはいえ人を殺したのに、ちょっと明るい雰囲気で終わったのが少し気になった。
 しかし、今作では人殺しの代償として一般人の友子から拒絶されていたという展開が待っている。
 凛がどうやってその傷を乗り越えるのかが一つのよみどころ。

 もう一つは無二さんが天心流の心構えを会得できるかどうか。
 師匠お墨付きで天心流の技を極めた無二さん。前作では余裕のある強さで負ける姿を想像できない男だったが、今回はそんな無二さんでも勝てそうにない相手が出てくる。(ついでに言うと嫌な奴だ)
 その相手に勝つには全てを捨てて天心流の心で立ち向かうことなのだが、それができないといういかにも剣豪小説的な展開がよみどころ。

 読み終わってから、いや後半辺りでずるいっ!と思った。この時から続編を匂わす展開だと分かったからだ。最後まで読むとやはりそうだった。無二さんが父親の仇討ちをするためにウォールの内側"ラスパラ"へ入ったところで終わるという続編を期待させるラストだった。ああ、ずるいっ!



 

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『KY /月狂四郎』痛快さに振り切ったノーガード戦法


 突っ込みどころ満載という触れ込みでしたがその言葉に偽りなし。
 マジキチ建材に務める狂山が社を牛耳るマジキチ四天王を順々に倒していく話。ビジネスで決着をつけるんじゃあありません。殴り合いで決着をつけるんです。それで勝ったら社での地位が上がるアホみたいな設定(大丈夫か、この会社)。
 初っ端の久米戦からハチャメチャで、相手はフォークリフトに乗って殺そうとしてくるキチガイ。戦いは倉庫に積んである合板の山を崩壊させながら進んでいく。
 おいおい、戦いが終わったらどうするんだよ。ひょっとして夢オチかと突っ込みながら読み進めると、負けた方が全ての責任を負うという謎の弱肉強食ルール。勝った方はおとがめ無しである。
 この調子で次々現れるマジキチ四天王を、周りを巻き込みながらぶっ壊していく怒涛の痛快ストーリー。読んでいて気持ちが良かった。




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『ワールド・ウォー・わなび/月狂四郎』~KDP作家は自立しよう~

『ワールド・ウォー・わなび/月狂四郎』

 まずは苦情を言いたい。
 月狂さんに書評を貰ったので、ウフフと良い気分で彼のblogを再度訪問した時に、ふと気になって『月狂四郎』をAmazonで検索すると、新着でこの本が一番上にあった。
 ふむふむ、これが前々から言っていたヤバイ本だろうかと、作品のページへ飛び、内容紹介を読見始めた瞬間に、これはヤバイと直感した。別名で出せば良かったのにとも思った。
 妖しい魅力に引かれて、ふと気付くとダウンロードしていた。
 本当は今日も執筆して、夜にでも読もうかと考えていたのに、それを打ち遣ってこれを読んでしまった。読んでしまうと今日はもう書けなくなってしまった。どうしてくれるんですかと(笑)


 内容は某サイトのKOW杯を発端にして起こったとある事件の内側に迫っていくルポタージュ風文学。騒動の関係者を記者がインタビューしていく。
 KDP界隈で活動している人は「ああ、あれね」と分かるはず。
 これはあの人。これは誰だろう?そんなことを妄想しながら楽しみました。
 例の方は月狂さん本人ですよね?実を言うと私もあの騒動で月狂さんを知った口です。具体的には権当さんのツイートからです。もしそれが無ければ、ずっと知らないままだったのでは?という気もします。
 それにしても前作『泡姫ありえない』に引き続いて、また騙されました。このまま下衆い好奇心を満たして終わるのかと思いきや、後半からはKOW杯騒動の裏側が暴かれます(もちろんフィクションですよ)。なるほどそういうオチになるのかと、すっきりしました。

 下衆い好奇心で手を出したけれど、考えさせられることもありました。
 わなび(私も含め)からスターダムへのしあがるには、結局最後は自分の力でやり遂げねばならない。『ジーンマッパー』の藤井さんなんかは過去のインタビュー記事を読むとちょっと真似できないくらい努力している。梅原さんも表に出ないだけで、きっと何かやっていたに違いない。それに続く人もやはりそうだろう。作家ではないがきんどうさん自身も初期はかなり苦労していた。
 権当さんのモデルこときんどうさんがKDP界で大きな影響力を持つのは作家自身の他人に頼ろうとする依頼心が為せる業で、作家一人一人が『俺は一人でもやるぞ』という気概を持てば、こんな騒動も起こらなくなるだろう。きんどう氏自身も前から『うちは利用してやる』くらいの気持ちで使ってくれと言っている。
 それに権藤さんが大きくなったとはいえ、世間から見れば彼もわなびも豆粒大の泡のような脆くて小さい存在でしかない。一朝事があれば、あのきんどうさんでさえ危機に陥ったのだから。→でんしょのうらがわ/きんどるどうでしょうさん 過去ツイートを全削除する

 そんな小さな世界で潰しあってもつまらんだろうというメッセージもある気がした。 それよりかはお互いに利用しあって外の世界の人間を引っ張ってこよう、KDPのパイをデカくしようぜと。
 この本はきんどう杯(正確には第2回 風立ちぬ杯だそうです)の後に起こった例の騒動を元にしたブラックパロディだが、その実体は月狂さんからKDP作家に向けた『お前らしっかりしろよ』という叱咤激励ではないのだろうか?




追記 もしこれをきんどうさんがトップページで大々的に扱ったら最高にロックだと思う。

さらに追記 きんどうさんは大々的に扱わないそうだけれど、ここのページをツイッターで呟いていた。色んな噂があるけれど、心の底にはロックな心を持っているみたいで、ほんの少しだけハモってくれた。
 普段ではあり得ない訪問者数に少々ビビっている。きんどう恐るべし。

著者自身の紹介ページ
アブナすぎる新作「ワールド・ウォー・わなび」リリース

別の人の感想
ワールド・ウォー・わなびの丸木戸サキさんの感想


ワールド・ウォー・わなび
月狂四郎
電書のうらすじ
2014-04-11

 
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2013年に読んだkindle本のレビュー

『魔女と機械と遺世界と/舟渡攻』を読んで考えてみた

『魔女と機械と遺世界と/舟渡攻』を読んで

 主人公は殺戮機械。旧世界を滅ぼした張本人である。機械というが、後に遺伝子がどうたらこうたらと出てくるので完全な機械ではなく人間と機械が合わさったような物のようです。なので物語中で感情が描かれているのも当然です。というか主人公の感情の移り変わりがこの小説の肝です。
 主人公の心中では自分が滅ぼした旧世界と、文明が滅んだ現在の世界の二つに分けられていて、自分は旧世界の人間(話がややこしくなるので人間とする)と思っている。今の世界は自分のいうべき世界ではないと思っている。それで、今の世界を遺世界と呼んでいる。
  
序盤の魔女が寝たあとに主人公はその異世界を旅してユズという女の子と出会う。異世界の様子を調べるために主人公と彼女と行動を共にしていきます。遺世界なりにも問題が起こるのですが、主人公は旧世界の人間なので、なるべく遺世界に影響を与えないように手助けはせず見守るだけに徹しようとします。しかし、成り行きで竜の生け贄にされたユズを助けてから、まあ色々あって村と村の戦争が起きる。その中でユズは命を落としそうになる。
 主人公は旧世界に関わらないようにしようと決めていたのだが、ユズの死を前に何もしないでただ見ているだけで良いのかと迷う。まあ結果はハッピーエンドです。
 
 この小説のテーマは主人公の心の中で分けられた旧世界と遺世界、現在と過去の融合。それを繋げたのは愛っていう話でした。
 ラーメン同盟の話にちょっと似ていると思った。執筆時期はかなり近い作品だと予想する。 


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