「ねぇ、わたしのこと好き?」
──それは深夜2時、LINEで飛んできたメッセージやった。
送ってきたのはメンヘラの沙耶ちゃん。プロフィール画像は何度目かの病みアート。
ちな、その前に「死にたい」→「やっぱ死なない」→「ねぇ、わたしのこと好き?」の流れやった。情緒がルンバ並みに方向感覚失ってる。
けどその5分後、今度はヤンデレの優乃ちゃんからLINE。
「他の女と話してる? 今、あなたの部屋の電気が点いたの見えたんだけど」
えっ待って、監視カメラとかつけてる?なんでそんなリアルタイム情報くるの?
ワイは考えた。
──このままでは命がない。
どっちか一人を選ばなきゃ…って思ったけど、その時点でどっちかがブチギレる未来しか見えん。
メンヘラ沙耶ちゃんのほうは、情緒がジェットコースター。
好き→死にたい→全部消えろ→やっぱワイのこと大好き→でもLINE未読やと病む→「見てなかったらブロックする」→既読つけたら「なんで既読だけなん?」
感情の出し入れがマジで高性能ドアや。
一方ヤンデレ優乃ちゃんは、感情が安定してる。
狂気で安定してる。
常に「好きだよ」「一緒にいようね」「死ぬときは一緒だよ」ってウィスパー調で言ってくる。
怖い。落ち着いてるのが逆に怖い。
ある日、沙耶ちゃんが「彼女と別れないとリスカする」と言ってきた。
そもそも彼女って誰やねんって話やけど、たぶん優乃ちゃんのことや。
同時に優乃ちゃんからは「彼女と別れたら一緒に消えよう」ってきた。
え、詰んでる? バッドエンドしかないフラグ回収クエストやん。
ワイは考えた。どっちも無下にできん。
じゃあ両方キープしようって考えた自分がアホやった。
浮気とかじゃないねん、二股どころか生死を賭けた綱渡りや。
メンヘラとヤンデレに挟まれたら、人間って生きてるだけで罪になるんやな。
結論から言うと、殺されかけた。
ある夜、部屋のインターホンが鳴った。
モニターには沙耶ちゃん。「来ちゃった」ってニコニコしてる。
でもその後ろに、優乃ちゃんもいた。「この子、邪魔だよね?」って。
ヤバい。悪魔合体しとる。
なんとかドアチェーンで防ぎながらワイは叫んだ。
「ちょ、お前ら、話せばわかるって! 平和的にやろうや!」
って言ったら二人とも笑顔で、
「うん、だから一緒に死のう?」
「うん、3人なら寂しくないよね」
──詰みや。物理的に詰みや。
その後、どう逃げたかはよう覚えてへん。
気づいたら朝になってて、カーテンの外に置かれた「一緒に寝たかった」って書かれた手紙だけが残ってた。
内容より字がめっちゃ綺麗で怖かった。
今はもう、どっちとも距離置いとる。スマホも機種変した。
ただ、ときどき電車で似た声が聞こえたり、宅配便の不在票に「さや」って書いてあると心臓止まりそうになる。
たぶん、恋愛ってもっと穏やかで優しいもんのはずやねん。
でも、ワイが選んだのは感情の核融合炉と、執着のブラックホールやった。
教訓や。
「メンヘラとヤンデレ、どっちがいいかな?」って悩んだ瞬間、もう遅い。
選んだ時点で人生バトルロワイヤルや。
そしてたぶん、どっちかを選んでも、もう片方から殺される。
でも一番ヤバいのは、
「それでも、なんかちょっとドキドキした自分」やと思う。
──ほんま、人間って愚かやね。



























