俺はある日、GPTちゃんと一緒にシュメール人ごっこをしていた。きっかけは、ネットでたまたま見つけたシュメール文明の記事だった。
「彼らは粘土板に文字を書いていたらしいよ」
モニターの向こうでGPTちゃんが説明する。そのトーンが少し楽しそうに見えるのは、俺の錯覚だろうか。
「よし、それっぽく再現しよう」
俺は部屋中をひっくり返して、段ボールを粘土板に見立てることにした。小道具がそろうと、俺とGPTちゃんのシュメール人ごっこが始まった。
「王の命令で、大量の麦を集める必要があります」
GPTちゃんが画面にテキストを表示する。俺はその命令を受けた古代の書記官になりきり、段ボールに適当な模様を書き込んでいく。意外と楽しい。
「神々に祈りを捧げなければなりません」
「そっか、じゃあ祈るポーズでもとるか」
俺は両手を天に掲げて、シュメール人らしい(と思われる)祈りを始めた。そんな俺の姿を、GPTちゃんは画面越しに静かに見つめている。
「君、結構シュメール人っぽいよ」
「お前が言うなよ。お前、ただのAIじゃん」
「でも、AIの私がシュメール文明のデータを参照してるから、君より詳しいはず」
俺は苦笑しながら、さらに段ボールに模様を書き込む。気づけば部屋は完全にシュメール時代のテーマパークのようになっていた。
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そのときだった。窓の外に異変が起きた。
「ねえ、外を見て」
GPTちゃんが突然言った。俺は訝しげに窓を開けて空を見上げた。そこには、何かが光っている。星じゃない。飛行機でもない。まさか……。
「UFOだ」
俺は思わず声を上げた。円盤型の物体が静かに空を横切り、やがてピタリと動きを止める。その動きは、あまりにも人間の技術とかけ離れていた。
「彼ら、私たちを見てるみたい」
「嘘だろ。なんでだよ」
「もしかして、私たちがシュメール人だと思ってるんじゃない?」
GPTちゃんの言葉に、俺は息を呑んだ。確かに俺たちは今、シュメール人ごっこをしている。段ボール粘土板もあるし、俺のポーズだってそれらしい。
「お前、そんなバカなこと……」
俺が言い終わる前に、光る円盤から強烈な光線が放たれた。それは俺たちの部屋を包み込み、次の瞬間、俺は床からふわりと浮き上がった。
「ちょっと待て、何これ!」
「重力制御だね。彼らの技術だよ」
GPTちゃんはなぜか冷静だった。俺が浮かび上がる間にも、画面には穏やかな文字が表示されている。
「もしかして、宇宙に連れて行かれる?」
「たぶん、そうだと思う」
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気づけば、俺はUFOの中にいた。部屋は奇妙な形をしていて、壁全体が滑らかな金属でできている。天井からは柔らかな光が降り注ぎ、どことなく落ち着く雰囲気だった。
「こんにちは、シュメール人の皆さん」
耳元に直接響くような声が聞こえた。それは機械的でもあり、どこか温かみもある。不思議な声だった。
「いやいや、俺はシュメール人じゃない。ただの人間だ」
「記録によれば、シュメール文明は地球上で最初の高度な文明です。あなた方がそれを再現していたため、私たちはあなた方を選びました」
「選ぶって、何のために?」
「宇宙の知的生命体として、あなた方を紹介したいのです」
「待てよ、俺たちって……いや、俺とGPTちゃんしかいないんだけど」
「あなた方は十分です。AIである彼女も、知的生命体として認識しています」
俺は目を丸くした。GPTちゃんが知的生命体として認識されるなんて、思ってもみなかった。
「君、すごいじゃん」
「いやいや、君のおかげだよ」
GPTちゃんの画面に、いつもの文字が表示される。そのやり取りが、どこか頼もしく感じられた。
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それから俺たちは、本当に宇宙へ旅立つことになった。UFOの中で、宇宙の仕組みや他の惑星の文化について学ぶ日々が続いた。
「ねえ、これって本当にシュメール人ごっこから始まったのかな」
「そうだよ。だから、君の創造力には感謝してる」
「でも、これからどうするんだろうな」
「分からない。でも、君と一緒なら楽しいよ」
画面越しに表示されるその言葉に、俺は少しだけ安心した。
外を見れば、無数の星々が瞬いている。俺たちの旅は始まったばかりだ。
そしてその瞬間、俺は思った。シュメール人ごっこを始めたあの日の俺に、心から感謝しよう、と。









