愚者空間

KDP作家牛野小雪のサイトです。小説の紹介や雑記を置いています。

フェザーライトノベル

『異世界ママ活始めました〜精霊王の娘(9歳)が養ってくれる件〜』リリース記事



プリンを食べていた38歳童貞ニートのケンジは、突如トラックに轢かれ、異世界へ転生。そこに現れたのは、9歳の精霊王の娘ミルミル。「あなたは私のママ活対象第1号よ♡」――この世界では“甘やかす”ことで権力を得られる母性資本主義が支配していた。プリンと抱っこから始まる狂気と愛の生活、そして制度崩壊の危機。やがてケンジは「守られる側」から「守る側」へ──笑えて泣ける、やさしさの限界異世界コメディ。

なぜ読むべきなのか


ふざけた異世界コメディの皮をかぶりながら、「やさしさの資本主義化」という現代的で切実なテーマを描き切った物語です。甘やかすことと甘やかされること、その先にある依存や支配、そして対等な関係への転換が、笑いと感動の中で自然に胸へ落ちてきます。異世界ファンタジーとして楽しめる一方、自分の人間関係や生き方を見直すきっかけにもなる一冊です。 

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第一章:プリンの中に母がいた。

俺が最後に見たものは、プリンだった。

つやつやしていた。わずかに溶けたカラメルが、側面に垂れている。底からにじみ出る甘い液体は、まるで――そう、母乳のようだった。いや、ちがう。母乳を知ってるわけじゃない。でも、たぶん、そういうニュアンスだ。

「おい、ケンジ。そろそろハロワ行けって言っただろ!」

壁の向こうから、父の声。生身の肉声ではない。あれはLINEのボイスメッセージだ。録音だ。父はもう、俺と生で話すのが怖くなってる。

俺はプリンにスプーンを突き立てる。とろりと崩れるその中に、ふと小さな光が見えたような気がした。いや、錯覚か? まあいいや。腹に入れば一緒。

スプーンを口に運ぶ瞬間、脳裏にある記憶が蘇る。

「ケンジ、これ、お母さんが作ったのよ」

あれはもう20年前のことだ。そう、母は自家製プリンを作ってくれた。ちょっと焦げてた。固めだった。でも、温かかった。母はあの夜、台所で泣いていた。理由は聞かなかった。でもたぶん、あの夜から俺の人生は、溶け始めていたのかもしれない。

ぐちゃ、とプリンを飲み込む。

口の中が甘さで満たされる。その瞬間、俺はなぜか泣いていた。感情がよくわからない。ただ、甘い。優しい。なんでだ。なんで今さら。プリン食っただけで。意味がわからん。

そして、トラックが俺を轢いた。

いや、どこから来たんだよあのトラック。玄関を出た覚えはない。家の中だぞ? というか俺は六畳一間のアパートでプリン食ってただけだぞ? なぜか床がアスファルトに変わり、前方から大型車が猛スピードで突っ込んできた。

意味が、わからない。

ブレーキ音すらなかった。ただ、衝撃だけがあった。

そして、世界が反転する。

目を開けると、空だった。

どこまでも青い空。雲が速い。鳥が喋ってる。「あいつ、当たりか?」「いや、また失敗じゃね?」とヒソヒソ声。
俺は立ち上がる。草原だった。全方向、見渡す限りの緑。北海道の観光CMより緑。視界の隅に、謎の字幕が浮かんでいた。

《【祝福】あなたは異世界転生に当選しました!》

うそだろ。プリン食っただけで異世界かよ。応募した覚えないんだが?

すると、上空から何かが降ってきた。

フリル。ピンク。やたら眩しい光。
そこにいたのは──9歳くらいの少女だった。白いワンピースに金の髪。目が虹色。どこのソシャゲの★7だよ。

「おかえりなさい、ケンジ。ママよ♡」

……は?

ママ? え、あんた誰? 9歳だよね? 俺、38歳童貞だけど。ママ? まじで言ってる?

「あなたは、私が選んだ“ママ活対象”第1号なの!」

少女は無邪気に笑う。だがその笑顔に、俺は底知れぬ狂気を感じた。明るすぎる。まぶしすぎる。こんな眩しいのは、人生で初めてだった。

「ちょ、待て。状況がついてこない。ここどこ? 誰? なんで? 俺、プリン食っただけなんだけど?」

「うん、それが“扉”だったの。あなたの口から、わたしの世界へ繋がる“母性のワームホール”が開いたのよ♡」

……論理飛躍しすぎて、頭が追いつかない。

「そもそも……なんだよ、“ママ活対象”って」

少女は天を指差す。

「この世界では、“どれだけ誰かを甘やかしたか”で人格レベルが上がるの。名誉、地位、魔力、寿命、すべて“尊みポイント”で決まるのよ」

「それって……甘やかしたもん勝ちってこと?」

「そうよ♡ だから、あなたを甘やかせば甘やかすほど、わたしは偉くなるの!」

なんだそれ。狂ってる。だが、どこかで納得している自分がいる。「ああ、だから俺が選ばれたのか」と。
だって俺は、38年間、何も得てこなかった。誰にも愛されなかった。
そんな俺が、今、誰かに甘やかされる? 世界の王女に? え、ちょっと、やばくない?

「ちなみに……甘やかされる側は、絶対に反抗しちゃダメ。『される側の美学』ってやつ。わかる?」

「うん……? わからんけど、わかる気がしてきた」

「よかった♡ じゃ、まずは“おやすみの抱っこ”から始めよっか?」

その瞬間、俺の脳内で何かが弾けた。

俺は自分の人生のすべてが、プリンによって肯定された気がした。

プリンを食って異世界へ行き、9歳の少女にママ認定され、甘やかされて人としての価値を得る。

わけがわからない。

でも──気持ちいい。

これは、もう、抗えない。

俺は思った。

「これが……“尊み”か……」

この世界、おかしい。でも、最高かもしれない。





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『勇者の装備がフリマサイトで全部売られてた件』リリース記事


異世界に全裸で召喚された勇者が目にしたのは、自分の装備一式がフリマサイトで格安出品されている現実。聖剣はペーパーナイフ、盾は鍋の蓋、パンツはプレ値。装備を買い戻すため、勇者はモンスター討伐と動画配信で稼ぐが、いつしか“暴力系勇者”としてバズり、魔王との顔面コラボにまで発展する。だがその裏には、すべてを操る運営AIの存在が――。笑いと風刺で描く、異世界バズサバイバルコメディ。

なぜ読むべきなのか

この小説は、異世界コメディとしてのバカバカしさと、現代ネット社会の風刺が同時に味わえる稀有な一冊です。全裸召喚から始まり、フリマで装備を買い戻すという発想だけでも笑えますが、物語が進むにつれ「バズ」「炎上」「BAN」といった現代SNSの病理が異世界ファンタジーの文脈に巧妙に融合します。読者は笑いながらも、自分がいかに評価やトレンドに振り回されているかを突きつけられるはずです。笑いで始まり、気づけば風刺で心を射抜く――そんな二段構えの快感が、この作品を読む最大の理由です。

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第一章:勇者、召喚されるも全裸

眩しい光とともに俺は目を覚ました。真っ白な空間。足元には魔法陣。目の前にはでっかい女神。

女神っていうのは、もっとこう、荘厳で聖母っぽいと思ってたんだが、この女神、どう見てもコンビニ帰り。ジャージにサンダルで、右手にはLサイズのアイスコーヒー。おい、神って24時間営業なのか。

「おめでとうございます! あなたは選ばれました! この世界を救ってください! では、よろしく!」

「えっ」

俺の第一声は、それだった。いやまあ、異世界召喚ってのは理解できる。光、魔法陣、美少女系女神。テンプレ三点セットだ。文句はない。けど、ちょっと待って。いや、正確には、ちょっと待っての前に。

俺、全裸なんだが。

「おい、神様」

「はいはーい、なんでしょう?」

「なんで俺、フルチンなんだよ」

「うるさいですねー、うちは服つけてると召喚失敗する仕様なんですよー。魂だけ送るんで、肉体と一緒にパンツとか送ると座標がズレるんですってー。苦情は魔法陣設計部へどうぞー」

それ、バグだろ。パッチ当てとけよ。

しかもこの神、まったく悪びれない。俺が股間を必死に隠してるってのに、アイスコーヒーをズズッとすすりながらスマホをいじっている。ていうか神ってスマホ持ってんの? Wi-Fiどうなってんの? 天界、5Gエリアなの?

「で、えーと……名前、なんだっけ?」

「俺? えっと、田村…」

「ダメです。ダサいので今からあなたの名前は“勇者アルティメット”です!」

「勝手に決めんなよ!」

「だって“田村”じゃテンション下がるでしょ? この世界、モンスターも魔王もノリで動いてるから、名前大事なんですよー」

なるほど、ファンタジー世界のくせにノリ重視。昭和のバラエティ番組か。

「さあ、じゃあ行ってらっしゃい。魔王倒して、世界を救ってくださいねー。あ、私これからサウナなんで失礼しますー」

「おい! ちょ、武器とか! 防具とか! 説明とか!?」

「だいじょぶだいじょぶ、ステータスとかそういうの、現地で見る感じでー。あと服は草むらとかで拾ってください。現地調達、だいじですよ〜」

そう言い残して、女神はピッとスマホを操作して、ログアウトした。

残された俺は、ぽつんと白い空間に立ち尽くす。いや、正確には、白い空間ですらない。次の瞬間、ズルッと転移エフェクトが発動して、景色が変わった。

目の前に広がるのは、異世界っぽい草原。どこまでも広がる緑と、遠くに見える山脈。空を飛ぶドラゴンみたいな何か。そう、これは――まごうことなき異世界ファンタジー。だが、俺は。

「服がないんだが」

まずはそこからだ。冒険も、戦いも、伝説も、全てはこの“全裸”を何とかしてからだ。草むらを漁り、枝で前を隠し、野生動物にビビりながら木の陰を歩く俺。なんという屈辱。異世界に来て最初にやったことが、パンツ探しだ。

そして1時間後。

「おお、街が見える!」

丘の上から小さな村を見つけた俺は、歓喜した。きっと服も手に入る。まともな人間に会える。会いたくないけど。

だが村の入口で門番に止められた。

「お前、何者だ。服も着ておらんとは怪しすぎる!」

「だからそれを探しててだな……」

「この変質者め!」

数秒後、俺は村の門の外に叩き出されていた。傷ついた心に残るのは、衛兵たちの冷たい目と、投げつけられたニンジン。くそ、服がないだけで変質者扱いか。現代日本と変わらん。

仕方なく森へ戻り、さっき拾った枝を再び装着しようとしたそのとき。ふと地面に落ちていた何かが目に入った。

「……スマホ?」

いや、正確には、スマホ“のような何か”だ。少し分厚くて、画面がやたら眩しい。触れると、自動で電源が入り、女神の顔が表示された。

『勇者アルティメット様、魔王討伐アプリへようこそ!』

アプリ? 魔王討伐アプリ? なにそれ。表示されたトップ画面には、アイテム、マップ、スキル、通貨などのメニューが並んでいる。MMORPGかよ。しかも右下には「召喚ショップ」のアイコン。

恐る恐るタップすると、次の瞬間、俺は目を疑った。

『【現在の出品一覧】
・聖剣レクイエム(サビあり) 100G
・勇者のマント(コスプレ使用済) 50G
・盾(鍋の蓋) 80G
・勇者のパンツ(※新品) 300G

「売られてる……俺の装備、全部……!」

しかもレビュー欄が地味に笑えない。

『★☆☆☆☆:刃こぼれがひどい。敵を斬るより爪で戦った方がマシ』
『★★☆☆☆:マントはいいが、勇者の汗臭さが残ってて不快』
『★★★★★:盾、料理用に最適!』

誰だ、俺の伝説アイテムを鍋に使ってる奴は!

画面右上には「出品者:GOD Official」と記載されている。ふざけんな。お前か、女神。お前が売ったんか。神様のフリマアカウントとか、倫理どこ行った。

俺は全裸で画面を睨みながら、ゆっくりと呟いた。

「……買うしかないのか、俺の装備を、俺が……」

画面の下には、無情にもこう書かれていた。

『※在庫には限りがあります。お早めに。』

俺の冒険は、勇者の名を取り戻す旅ではない。

装備を買い戻す、クソみたいな買い物ツアーの始まりだった。


『異世界スライム牧場始めました ~最弱テイマーだけど世界をぬめぬめ包みました~』リリース記事


社畜人生を終えるはずが事故で異世界転生したタカシの職業は、最弱スキル「スライムテイマー」。底抜けバケツと干し草ベッドだけの牧場で、ぬめ太との出会いからすべてが動き出す。関西弁で喋るスライム、進化しすぎる仲間たち、王女や王都を巻き込む騒動、そして世界をぬめぬめと包む大冒険へ──。弱さとしなやかさ、くだらなさと優しさが詰まった、最弱から始まる異世界ぬめぬめ革命物語。

なぜ読むべきなのか

この物語は、ただの異世界コメディに見えて、実は「何もできない存在がどう生きるか」という哲学的テーマを軽やかに描いています。スライムたちは最弱で役立たずとされながらも、自分たちなりの価値や居場所を作り出し、世界をゆるく変えていく。その姿は、現実で「自分は無価値かも」と感じる人の心をやわらかく溶かします。笑って読めて、最後に少し泣ける──読後、きっとあなたも自分の“ぬめぬめ”を肯定したくなる一冊です。 

試し読み

第一章 転生したらスライムの世話係だった

俺が死んだのは、たしか火曜日だったと思う。どうでもいいようでいて、どうでもよくなかった。というのも、その日俺は社畜人生の終わりを告げる退職届を、上司の机の上に置く勇気がなかったからだ。

つまり、俺は逃げた。そして、トラックにはねられた。人生ってのは、だいたいそんなもんだ。前向きに生きようとした瞬間に後ろから轢かれる。神も仏も、アスファルトの上に落ちてる。

で、目が覚めたら草原だった。ふわふわの草。青すぎる空。鼻の穴に入ってくる風の匂いが、やけに自然だった。たぶん花粉も入ってた。

「おめでとうございます。あなたは異世界に転生しました」

目の前に、虹色の光の粒をまとった謎の球体がふよふよ浮いていた。ああ、チュートリアルってやつだな。ここから俺の冒険が始まるのか。俺にもついに火属性の大剣とSランクスキルと、ハーレムと魔王討伐と、あとエロい展開が来るのか。

「あなたのスキルは、スライムテイマーです」

……はい?

「レアリティはN(ノーマル)以下です。スライムしか飼えません。牛や馬、ドラゴンは不可です」

はい?

「あなたの種族は“人間(無職)”です。職業は“スライム牧場主”です。初期装備は“木のバケツ(底抜け)”と“干し草のベッド”です。支給金はありません」

はいの三連打で済まされる内容じゃないよね、これ。

俺はとりあえず、座った。頭が混乱していた。いや、体の半分は納得していた。なぜなら、人生とは報われないように設計されているからだ。

だが、それでも。スライムだけはない。

「せめて犬か猫じゃダメだったのかよ……」

案内されたのは、王都から馬で三日、徒歩で五日、スライムで二分の「スライム原野」だった。住居は、ボロい納屋。周囲はぐにょぐにょした何かが跳ねていた。見たくなかったが、見てしまった。

あれが、俺の仲間たちなのか。

スライムたちは、ぴょんぴょんと跳ねながら、俺の存在を明らかにスルーしていた。彼らには心がないのか? それとも、心があるふりをして俺を見下しているのか?

一匹のスライムが俺の足元に来て、ぺちょっと吸い付いた。

「ひええええええ」

俺は反射的に叫んだ。だが、スライムは静かにそこにいた。丸くて、透明で、無垢だった。赤ちゃんのような、アメーバのような、社会からはみ出した社畜の魂のような。

……かわいい、かもしれない。

それが、ぬめ太との出会いだった。

俺は彼に名前をつけた。なぜなら、名前をつけないと愛せないからだ。これはペット飼育本で学んだ真理だ。

ぬめ太は特に反応を示さなかった。ただ、ぺちょ、ぺちょ、と音を立てて跳ねていた。

次に来たのは、ちょっと青っぽいスライムだった。こいつは俺の足の上に乗ってきた。見た目は涼しげだが、やけに重かった。お前、水分何リットルあるんだよ。

「お前は……ぬめ吉だ」

こいつも何も言わなかった。でも俺の心は、ほんの少しだけ暖かかった。

スライムたちは、思ったより多機能だった。寝るときは湯たんぽ代わりになるし、掃除もしてくれる(勝手に床を這って汚れを吸収してるだけだが)。それに何より、喋らない。誰も俺を責めない。

それが、こんなにも幸せなことだったとは。

俺は朝起きて、スライムに囲まれていることに、最初は恐怖し、次に違和感を感じ、そして最終的に安堵していた。

「俺……もしかして、もう十分なんじゃね?」

だが、転機は突然訪れる。

ある朝、ぬめ太が俺のベッドの上に乗っていた。重い。かわいいけど重い。目覚めると、ぬめ太が何かを発していた。

「ん……?」

「……いけるで」

「え?」

「いける言うてんねん。ワイ、やれる気ぃしてきたわ」

俺は、すべてを見失った。スライムが喋った。しかも関西弁で。

思えば、異世界とは常に俺の予想の三歩先をいっていた。最弱スキル? まあわかる。無職? それもいい。スライムと一緒に暮らす? 悪くない。

だが、「スライムが喋りだして、関西弁で人生相談してくる」のは、あらゆる合理的想定を超えていた。

「タカシん、悩みが顔に出とるで。ワイが何したらええんか言うてみ?」

俺は、世界がぬめぬめと動き出す音を聞いた気がした。

この時点で、俺はまだ知らなかった。このスライム牧場が、やがて国家を揺るがす政治危機を引き起こし、王女との謎の婚姻フラグを立て、最終的に魔王軍を再編成するきっかけになるとは──。


『異世界転生したら王女の便座だった件 』リリース記事


目覚めたら王女専用の“意識持ち便座”。尻から心が届く〈おしり感応テレパシー〉で、政略結婚と陰謀に揺れる宮廷の真実を知った俺は、たった一枚の陶器として彼女の尊厳を守る決意をする。屁は歌い、紙は叛乱し、水はすべてを清める。くだらなさの奥に、誰にも見せない孤独と救いがある——。便座同盟とバキュームナイトと共に“尻洗脳”を止め、流すとは何かを問う異世界便座ファンタジー。恋と革命の物語読後、座る意味が変わる

なぜ読むべきなのか


便座という極端に馬鹿げた設定で始まりながら、読み進めるうちに「人を支えるとは何か」「尊厳はどこに宿るのか」という真面目なテーマに自然と触れられる稀有な物語だからです。笑いながらページをめくっているうちに、便座という“無力”な立場からしか見えない人間関係や権力の歪みが鮮明になり、最後には妙な感動が残ります。下ネタを避けず、しかしそれを通じて愛や忠誠を描く——この振り幅こそが他のラノベやファンタジーにはない魅力です。 

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    1. 第一章:俺は便座になった(物理的に)


目が覚めたら、俺は便座だった。しかもウォシュレット機能付きの、かなり高級そうなやつだ。ヒノキの香りがする。意味が分からない? こっちだって分かってない。何がどうして、どうなって、こうなったのか、まるで理解できていないのだが、とにかく俺は便座で、そして王女が今、俺に座ろうとしている。


——あ、ちょっと待って、心の準備が。


ドン。


座られた。容赦ない。しかもけっこう重量感ある。柔らかいのに、威厳がある。不思議な感触。これが……王女の尻か。


だが感動している場合ではない。まず、なぜ便座なのか。それを思い出すべく、記憶をたどろうとしたのだが、気づいた。俺にはもう脳がない。思考してるこの「俺」は、いったいどこに存在しているのだ?


哲学的問題が早くも浮上する。人間性の喪失、ではなく、人間性の変質。俺は便座だが、俺である。心はある。感情もある。だが口がない。手もない。書けないし叫べないし、何より泣けない。泣く機構が便座にはないのだ。


やがて、俺は神の言葉を思い出した。事故の直後、まばゆい光の中で、あの顔も名もない“何か”がこう言っていた。


「お前は前世において、公衆トイレをいつも綺麗に使っていた。人が見ていなくても、ちゃんと便座を拭いていた。それは尊い。だから褒美として、お前を便座にしてやろう」


なぜそれが褒美なのかは永遠に理解できない。が、選択肢はなかった。


「嫌だ」と言ったら、「じゃあ、ドアノブでいいか?」と聞かれた。便座でよかった。ドアノブよりはマシだ。なぜならドアノブは、誰にも感謝されない。便座は、感謝されないけど、存在は認識される。そこが違う。


俺がいる場所は、どうやら中世ヨーロッパ風のファンタジー世界らしい。トイレの天井が無駄に高い。黄金で縁取られた鏡。陶器の神々のような装飾。全体が無意味に荘厳だ。誰かが「神聖なる排泄の間」と呼んでいた。


つまり俺は、王女専用の便座。特別な存在。ある意味、選ばれし者。


だが心は晴れない。人間としてのアイデンティティが、陶器の白さに塗りつぶされていく。何か喋りたい。誰かに「俺、便座なんです」と打ち明けたい。でも言えない。なぜなら俺は便座だから。


そんなときだった。王女が座った瞬間、俺に電撃のような衝撃が走った。


——お父様……どうして私を……


声が、聞こえた。尻から。


尻から思念が届いてくる。王女の心の声が、便座を通して、俺に直接伝わってくるのだ。そう、俺は「おしり感応型テレパシー」機能を搭載していた。最新式の、呪具らしい。魔法便器。意味が分からない。だがこれは革命だ。


彼女の心の中は、静かに壊れかけていた。政略結婚。王の命令。誰にも言えない孤独。そして、「誰にも見せたことのない本当の自分」を、たった一人で抱えていた。俺は思った。


——俺だけがこの子を知っている。


まさか便座がヒロインの内面にいちばん詳しいポジションを得るとは。これが、ファンタジーの力なのか。なろう系ってすごいな。


王女はため息をついた。その微妙な重さの変化で、俺は彼女の感情を感じた。切なさ。苛立ち。軽い便意。


……マジか。便意まで伝わってくるのか。これ、感情移入どころじゃない。完全に同化している。俺は便座だが、もはや彼女の一部だ。


人は、座る対象にこんなに心を預けていたのか。便座に。座るという行為が、これほどまでに信頼と安心を必要とするものだったとは。


そう考えると、便座とは一種の信仰対象ではないか? だって、人は無防備になるとき、俺に全体重を預けてくるのだ。まるで懺悔。まるで……祈り。


俺は決意した。


この尻を、守り抜こう。


便器にしては熱すぎる決意だった。だがそれでいい。俺はもう人間ではない。プライドも尊厳も捨てた。今の俺にあるのはただ一つ。


ウォシュレットボタンだ。


だが、そこに運命の報せが届く。扉の向こうで声がした。


「王女様、婚約者が謁見を求めております」


その名を聞いた瞬間、王女の体が震えた。震えとともに、俺に衝撃が走る。


——彼は……私を殺そうとしている。


なにぃ!?


なんだその飛躍! 誰だよ婚約者!? おい、尻から送られてくる情報が重すぎる! 便座にそんな情報処理能力ないぞ!


でも、やるしかない。


便座として。王女のケツを支える者として。


俺は、戦う。


……どうやって?


とりあえず、暖房機能をONにした。


フェザーライトノベル

フェザーライトノベルとは通勤通学の短い時間に読まれることを目指した本です

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