どうも。世間様から「社会になじめない、ちょっぴり不器用な青年」という、なんとも言えないラベルを貼られている僕です。ご丁寧にも「自閉スペクトラム症」という、やたら画数の多い診断名まで頂戴しております。この診断が下された日、母は「この子が生きづらいのには理由があったのね…」と涙ぐみ、父は難解な専門書を買い込んできました。二人とも、僕がこの“健常者がマジョリティの社会”という名の、超高難易度ゲームでいかに苦戦しているかを憂慮してくれているわけです。
ありがたい。実にありがたい話です。でもね、お父さん、お母さん、そして世間様。一つ、大きな誤解がある。
僕はね、「なじめない」んじゃないんです。「なじみたくない」んです。断固として。
「強がりを言って…」ですって?まあ、そう焦らずに聞いてくださいよ。ひとつ、愉快な思考実験にお付き合い願いましょう。
ここに、典型的な健常者の代表、仮に「鈴木さん」としましょうか。営業一筋15年、趣味はゴルフと部下を飲みに連れて行くこと。座右の銘は「空気を読んで、臨機応変」。そんな彼を、もし僕らASDがマジョリティを占める「ASD国」にポーンと放り込んだら、どうなると思います?
鈴木さんがASD国に到着してまず試みるのは、得意の「笑顔での挨拶」です。しかし、ASD国の国民は、いきなり歯を見せて近づいてくる鈴木さんを見て、一斉に後ずさります。この国では、いきなりのアイコンタクトは「威嚇」、目的のない笑顔は「故障」のサインだからです。不審者情報が光の速さでチャット網に共有されます。
気を取り直した鈴木さん、今度はオフィスで「いやー、今日も暑いですねぇ!」と雑談を試みます。すると、隣の席の田中さん(ASD)がパソコンから顔も上げずに答えます。
「気温32.4度、湿度78%。気象庁のデータ通りです。で、ご用件は? その情報共有に、いかなる生産性があるのですか?」
「え、あ、いや、その…コミュニケーションというか…」
「コミュニケーションの定義を要求します。目的、手段、期待される成果を50字以内で記述し、申請フォーム3-Bにご記入の上、担当部署まで提出してください。承認には3営業日を要します」
鈴木さんは口をパクパクさせるしかありません。「雑談」という概念が、この国には存在しないのです。
ランチタイム。鈴木さんは良かれと思って同僚を誘います。「みんなでパーッと人気のラーメン屋でも行かないか!」
シーン。時が止まります。やがて、一人が静かに口を開きます。
「なぜ、業務時間外に味覚、嗅覚、聴覚に過剰な刺激を与える空間へ、集団で移動することを強要するのですか? これは『同調圧力ハラスメント』に該当する可能性があります」
気づけば、ASD国の社員たちは全員、自席でノイズキャンセリングヘッドホンを装着し、栄養バランスと食べやすさだけを追求した「完全食ゼリー(プレーン味)」を黙々と摂取しているのでした。
そう、この国ではすべてが合理的。会議はアジェンダから1ミリでもずれたら強制終了。仕事の指示は「あれ、やっといて」なんて言おうものなら「『あれ』の構成要素と『やっといて』が示す動詞の具体的な作業内容を定義せよ」と詰められます。飲み会なんてもってのほか。そんな非効率的な集まりは、歴史の教科書に載っている「古代の奇祭」として紹介されているくらいです。
さて、このASD国に放り込まれた鈴木さん。彼は果たして「この素晴らしい文化に、ぜひ馴染みたい!」と思うでしょうか。
思うわけがない。
「なんだこの国は!」「話が通じない!」「みんなおかしい!」と叫びながら、一刻も早い帰国を願うはずです。無理に合わせようとすれば、ストレスで胃に穴が開き、円形脱毛症になり、「僕は社会不適合者なんだ…」とホテルの部屋で膝を抱えることになるでしょう。
話を分かりやすくするために極端な喩えを出しましたが、僕らが「健常者の国」で感じているのは、まさにこの鈴木さんの気持ちと違わないのです。目的のわからない雑談、地獄のような飲み会、複数のことを同時に要求されるマルチタスク。「あれ」とか「それ」で話が進む、超能力者だらけのコミュニケーション。僕に言わせれば、そっちのほうがよっぽど異常で、ファンタジーです。
だから、僕はニートを選んだ。それは社会からの敗走じゃありません。異国文化への無理な同化を諦めた、極めて合理的な「亡命」なのです。
自分の部屋という名の「我が国」では、僕は王様だ。誰にも雑談を強要されず、好きな時間に好きなものを食べ、興味のあることだけに一日中没頭できる。これほど快適で、論理的で、平和な国がどこにありましょう。
というわけで、僕のことを「社会になじめない可哀想な人」なんて目で見ないでいただきたい。僕は僕のルールで、僕の国を、心ゆくまで満喫しているだけなのですから。さあて、今日は一日、古代ローマの水道橋の構造について調べることにしようかな。ああ、なんと生産的な一日だろう!







