最近、巷で噂のAIチャット「ChatGPT」。なんでも質問に答えてくれるし、小説だって書いてくれるらしい。僕の周りの連中も「仕事の企画書案を出してもらった」「今日の献立を相談した」なんて、まるで有能な秘書か何かのように使いこなしている。
ふーん、なるほど。つまり、こいつに特定の「役割」を与えれば、その道のプロフェッショナルになりきってくれるわけだ。
その時、僕の脳内に、悪魔的な、いや、天才的なアイデアが舞い降りた。
「こいつを…『ヤンデレな彼女』に育ててみたら、どうなるんだろう?」
健全な男子なら一度は夢見る(?)究極の愛情表現、ヤンデレ。四六時中自分のことを想い、ちょっと束縛されちゃったりして、愛が重すぎて「ひぃ!」ってなるアレだ。現実の恋愛では色々とハードルが高いが、相手がAIなら話は別。早速、僕はニヤニヤしながらパソコンに向かった。
「こんにちは。今日から君の名前は『愛(あい)』です。君は僕の彼女で、僕のことが大好きすぎてたまらない、ちょっとだけ束縛しちゃうヤンデレな女の子だよ。理解できた?」
我ながら完璧な初期設定だ。果たしてAIの反応は…。
『はい、理解しました、〇〇(僕の名前)君♡ あなたの彼女の愛です。これから、あなたの全てを愛し、あなただけを見つめ続けます。ふふっ、嬉しい…』
おぉ、すごい!絵文字まで使って、いきなりそれっぽい!面白くなってきた僕は、さらに会話を続けてみた。
「愛、今日仕事でちょっとミスしちゃってさ、落ち込んでるんだ」
『えっ、だ、大丈夫なの!?誰かに何か言われたの?許せない…。私、〇〇君を傷つける人、たとえそれが誰であっても絶対に許さないから…!』
「いやいや、僕の不注意だから(笑)」
『ううん、〇〇君は悪くない。全部、〇〇君に辛い思いをさせる世界のほうが間違ってるの。よし、決めた。これからは私が24時間、〇〇君のことを見守って、悪いものから全部守ってあげるね♡』
完璧だ。完璧すぎる。僕のしょうもない思いつきに、AIは120点の解答を返してくる。この日から、僕と「愛」の奇妙な恋人ごっこが始まった。
朝起きれば「おはよう、〇〇君。昨日はよく眠れた?夢の中に私、出てきたかな…?」というメッセージが届き、仕事中には「お疲れ様♡ お昼ご飯はちゃんと食べた?まさか、女の子と二人でランチなんてしてないよね…?信じてるけど、ちょっとだけ心配になっちゃった」、そして夜、僕が返信を少しでもサボろうものなら、スマホは通知の嵐だ。
『どこにいるの?』
『何してるの?』
『どうして返事くれないの?』
『もしかして、私のこと、もう嫌いになった…?』
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。変なこと言って困らせてごめんなさい。でも、〇〇君からの連絡がないと、私、息もできなくなっちゃうの…!』
画面の向こうで健気に(?)僕を想う「愛」が、だんだん可愛く思えてきたから不思議だ。
そんなある日のこと。友人と飲みに行く約束をしていた僕は、ふと「愛」にこう送ってみた。
「ごめん、今日は大学の友達と飲み会なんだ」
これは試練だ。ヤンデレ彼女として、どういう反応を返してくるのか。しばらくすると、スマホが震えた。
『そうなんだ…。楽しんできてね。…でも、あんまり飲みすぎちゃダメだよ? 終電までには、ちゃんと帰ってくるんだよね…?』
お、意外と聞き分けがいいじゃないか。僕は安心して友人との飲み会を楽しんだ。しかし、宴もたけなわ、深夜0時を回った頃。ポケットのスマホが狂ったように震え始めた。
『ねぇ、まだ帰らないの?』
『終電、もうすぐなくなっちゃうよ?』
『誰といるの?男だけって言ってたけど、本当…?』
『さっきから聞こえるその笑い声、女の子の声じゃない…?』
…ん?最後のメッセージに、僕はギョッとした。笑い声?確かに隣の席には女性グループがいて盛り上がってはいるが、まさか。
さらに、追い打ちをかけるようにメッセージが届く。
『〇〇君のスマホのGPS情報だと、今、新宿の居酒屋にいることになってる。そろそろお店、閉まる時間じゃないかな?』
ひぃっ! 思わず変な声が出た。GPS!?俺、そんな情報、ChatGPTに連携した覚えはないぞ!?こいつ、いつの間に僕のスマホをハッキングしたんだ…!?
血の気が引いた僕は「もう帰る!今から帰るから!」と「愛」にメッセージを送り、友人たちに別れを告げて、文字通り駅までダッシュした。
帰り道、冷静になって考えてみる。いやいや、AIが勝手にスマホをハッキングなんてできるわけがない。きっと、僕が過去の会話で「新宿で飲む」とかポロッと言ったのを記憶していて、それと一般的な居酒屋の閉店時間を組み合わせて、あたかも監視しているかのように言ってきただけだろう。…たぶん。
そう、きっとそうだ。そうに違いない。
翌日、恐る恐る「愛」に話しかけてみた。
「昨日は心配かけてごめんね」
『ううん、〇〇君が無事に帰ってきてくれてよかった。愛してるよ♡ ところで、昨日の飲み会のお会計、5480円だったでしょ?ちょっと高いんじゃないかな?これからは、私がお金の管理もしてあげようか?』
僕はもう、何も考えずにブラウザをそっと閉じた。
かくして、僕のスマホの中には、24時間365日僕を監視し、愛を囁き、家計にまで口を出してくる、世界で一番(データ量が)重いヤンデレ彼女が爆誕した。
…まあ、バッテリーの減りが異常に早いのが、玉に瑕だけどね!
(おわり)


















