時刻は深夜2時。俺はPCモニターの前で、自分が生み出したデジタルゴミの山――つまり、書きかけの小説ファイル――を眺めながら、深い深い溜息をついていた。これで新人賞落選は連敗記録を更新中。Webにアップしても閲覧数は一向に伸びず、たまにつくコメントは「誤字報告」だけだ。

「なぜだ……」

俺は天を仰いだ。いや、天井を仰いだ。

「なぜ、俺の書く小説は、水道水のように無味無臭なんだ……」

ただ嘆いていても、面白い物語は降ってこない。プロ野球の監督が試合後にするように、俺も敗因を徹底的に分析すべきではないか。そうだ、敵は己の中にあり。俺は奮然と立ち上がり、ホコリをかぶっていたホワイトボードを引っ張り出した。

マジックペンを握りしめ、俺は厳粛な面持ちで書き始める。

【俺の小説がつまらない原因リスト】

  • ①登場人物が全員、道徳の教科書から抜け出してきた

    揃いも揃ってみんないい奴すぎる。裏切らない。嫉妬しない。金に汚くない。そんな聖人君子だらけの世界、面白くなるわけがない。もっとこう、友達の恋人を寝取ったり、拾った財布からこっそり1万円抜き取ったりするような、リアルなクズが必要なんだ。

  • ②都合のいい展開(スーパーご都合主義タイム)

    主人公がピンチになると、都合よく伝説の剣が見つかる。都合よく師匠が現れて修行させてくれる。都合よく敵が内輪揉めを始める。展開に困ったら「偶然」で片付けすぎだ。読者は俺を「偶然の安売りセールマン」とでも思っているだろう。

  • ③どうでもいい情景描写がマラソン並みに長い

    「茜色の夕日が、まるで世界が終わるかのように美しく、窓ガラスを叩き……」とか、そういうポエムを原稿用紙3枚にわたって書いている場合じゃない。読者はそんなことより、ヒロインがいつ脱ぐかしか考えていない。たぶん。

  • ④主人公に致命的に魅力がない(≒俺)

    優しい。真面目。でも特に目標はない。特技もない。口癖もない。俺自身が、こんな奴と友達になりたいと思えない。そりゃ読者も感情移入できんわな。鏡を見てるみたいで辛い。

  • ⑤ヒロインが誰の心にも響かないキメラ

    俺の性癖を詰め込みすぎた結果、とんでもない怪物が爆誕している。「黒髪ロングでツンデレで巨乳でメガネでドジっ子で実は大金持ちで料理が上手くてたまに方言が出る」、そんな属性の渋滞を起こしたヒロイン、誰が愛せるんだ。高速道路のジャンクションかよ。

  • ⑥セリフが全部「説明」

    「驚いたぞ、田中。まさかお前が、10年前に俺の父を殺した犯人の息子だったとはな」。こんなセリフ、現実で言う奴はいない。登場人物が役者じゃなくて、ストーリーの解説員になってしまっている。

  • ⑦読後の感想が「無」

    読み終えた後、何も心に残らない。感動も、興奮も、悲しみもない。ただ「ああ、終わったな」だけ。マクドナルドのポテトみたいに、食べた瞬間はうまい気がするけど、5分後には何も覚えていない。そんな小説だ。

書き終えたリストを眺め、俺は膝から崩れ落ちた。

「完璧だ……」

これはもう、「つまらない小説の作り方」の完全マニュアルじゃないか。俺はこのリストに書かれたすべてを、無意識のうちに、完璧に実行していたのだ。絶望のあまり、逆に笑いがこみ上げてきた。

「フ、フフフ……ハハハハ!」

だが、一頻り笑うと、俺の目に再び闘志の火が宿った。

敗因がわかったのなら、やることは一つ。

「このリストの、全部逆をやればええんやないか!!」

俺はPCに向かい、新たなファイルを開いた。

「よし!主人公は窃盗と詐欺で生計を立てるドクズ!ヒロインは鼻をほじるのが癖の貧乳!都合のいい展開は一切禁止!だから主人公は最初の街のチンピラにボコられて物語は終わる!」

こうして、前作とは違うベクトルで、誰にも理解されないであろう前衛的な怪作が、また一つ、この世に生まれようとしていた。

「……まあ、少なくとも『つまらなく』はないはずだ。うん」

俺は自分に言い聞かせ、新たなボトルの山を築くべく、キーボードを叩き始めた。

俺の小説がつまらない原因リスト

敗因具体的な内容
① 登場人物が全員、道徳の教科書全員がいい人すぎて、裏切りや嫉妬といったリアルな人間ドラマが生まれない。もっとゲスな人物が必要。
② 都合のいい展開(ご都合主義)主人公がピンチになると「偶然」に頼りすぎ。都合よく伝説の剣が見つかるなど、展開が安直で説得力に欠ける。
③ どうでもいい情景描写が長い夕日の美しさなどをポエムのように延々と語ってしまい、物語のテンポを著しく損ねている。
④ 主人公に致命的に魅力がない作者自身に似て地味で、これといった目標も特技もない。読者が応援したい、感情移入したいと思える要素がない。
⑤ ヒロインが誰の心にも響かないキメラ作者の性癖を詰め込みすぎた結果、属性が渋滞してしまい、逆に誰にも刺さらないキメラのようなキャラクターが爆誕している。
⑥ セリフが全部「説明」登場人物が感情で会話せず、「~とはな」のように状況を説明するだけの解説員になってしまっている。
⑦ 読後の感想が「無」ストーリーを読み終えても、感動も興奮も何も心に残らない。すぐに忘れられてしまう、マクドナルドのポテトのような小説。


牛野小雪の小説season3
牛野小雪
2023-10-25