孫氏の兵法で学ぶ小説の書き方
うしP
2025-01-07
99円
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内容紹介
本書では、孫子が説く各篇――計篇、作戦篇、謀攻篇、軍形篇、兵勢篇、虚実篇、軍争篇、九変篇、行軍篇、地形篇、九地篇、火攻篇、用間篇――を、小説執筆に応用する形で読み解いていきます。それぞれの篇に含まれる考え方を「物語の構成」「キャラクターの活かし方」「読者の心理をどう捉えるか」などに置き換えれば、ただ闇雲に書き進めるだけでは得られなかった新たな視点が手に入るかもしれません。

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■ 計篇――「勝利の方程式」を描くための戦略

第一節:目的と“道”の確立――作品の根幹を見据える

小説を書くうえで、最初に必要なのは「なぜ書くのか」という目的、いわば“道”を明確にすることだ。孫子の兵法「計篇」では、勝利を左右する要素として「道・天・地・将・法」の五事を挙げている。中でも「道」とは、民衆(読者)に寄り添い、心を掴む大義であるとされる。これを小説執筆に当てはめれば、「作者自身が真に描きたいテーマ」や「読者と共有したい価値観」を意味するといえるだろう。

多くの作家は、ジャンルやトレンドに合わせた作品づくりを意識する。しかし、まず「自分自身が心から描きたいものは何か」を問い直すことが重要だ。SF、恋愛、ファンタジー、時代小説など、あらゆるジャンルがあっていいが、「なぜそのジャンルで書きたいのか」「どんな思いを伝えたいのか」という根本的な問いを放置すると、執筆意欲が萎えたり読者の共感を得られなかったりする危険がある。

さらに、執筆中に迷うことがあっても、「自分のテーマは何か」を都度確認することでブレずに進める。これが小説における「計」の第一歩だ。いわば作品の羅針盤ともいえる“道”を明確にしておくことが、創作の指標となり、物語の一貫性を保つ上でも不可欠となるのである。



第二節:読者を知る――“天”の活かし方

「計篇」で示される「天」は、季節や天候といった自然環境を指すが、ビジネスや創作活動に応用するなら、タイミングや世の中の流れ、そして“相手”となる読者の求めるものを把握することと置き換えられるだろう。小説を書いたからといって、すぐに読者に受け入れられるわけではない。読者とはどんな存在か、どうすれば心を動かせるのかを知る必要がある。

たとえば、SNSや読書メーターのレビューを観察すれば、今どのようなジャンルが注目されているか、あるいは人気作にはどのような特徴があるか、ある程度の傾向をつかめる。もちろん流行に乗るだけではなく、そこに自分の独自性をどう折り込むかが作家の腕の見せどころになる。読者がどのような体験を求めているのか、どの程度の文字数や文体を好むかといった分析も行うと良い。

また、読者との直接的な交流を図る場として、SNSやイベント、読書会などを活用するのも有効だ。創作の段階からリアルな反応が得られるため、作品の方向修正やアイデアのブラッシュアップに役立つ。「天」をうまく読み取って流れに乗ることは、小説執筆においても欠かせない戦略と言えよう。



第三節:自分を知る――“将”を磨く

「計篇」の「将」は、将軍の能力や統率力を表すが、小説執筆においては“作者本人”の意識とスキルに相当する。自分がどのジャンルを得意とし、どんな文体で読者を惹きつけられるのか、あるいはどの部分が苦手で補強が必要なのか、冷静に把握することが必要だ。

作家という“将”が不安定であれば、作品全体もブレやすくなる。たとえば緻密な世界観構築は好きだがキャラクター造形が苦手な場合、コラボレーションやアドバイスを得る機会を設ける、あるいは意識的にキャラクターについて学習するなど対策を講じる。逆にキャラクターの会話シーンは得意だが、大きな舞台設定が苦手なら、取材や資料集めを徹底的に行い、「この作品はこういう背景を描いている」と自分自身を説得できるくらいの知識を身につけたい。

また、モチベーション管理や執筆習慣を整えることも、将軍としての資質を高める大切な要素である。日々のスケジュール管理から、執筆における目標設定、さらには生活習慣の見直しなど、自己管理がしっかりしていれば作品への集中力も維持しやすい。自らを磨くことで、小説という戦いを勝ち抜く準備が整うのだ。



第四節:フィールドを読む――“地”の把握

「計篇」の「地」は、戦場となる地形や距離、地勢といった要素を指す。これを小説執筆に当てはめると、「どの媒体で発表するのか」「どの市場をターゲットにするのか」といった執筆・発表環境の見極めにつながる。たとえば、紙媒体の文芸誌に掲載してもらうのか、電子書籍やウェブでの連載なのか、ライトノベルやWeb小説サイト向けのスタイルにするのかで、作風や文字数、イラストの有無などが大きく異なるだろう。

また、すでに人気作や似たような設定の作品が多数存在する分野に飛び込む場合は、差別化のポイントを明確にする必要がある。たとえば異世界ファンタジーが乱立しているなら、設定やキャラクター造形の新規性、ストーリー展開の意外性が求められる。あるいは、あえてマニアックな要素を掘り下げる戦略もあるだろう。

さらに、発表のタイミングも重要だ。WebサイトやSNS連載なら、読者のアクセスが多い時間帯を狙うこと、文芸誌なら締め切りや選考期間を把握することなど、「地」の特徴を踏まえて戦略を練ることが鍵となる。自分の執筆スタイルや作品の強みに合った「地」を選び取ることで、読者獲得のチャンスを広げられるのである。



第五節:法とシステム――執筆ルールの確立

孫子の兵法でいう「法」とは、軍隊の組織や制度、規律に相当する。小説執筆では、一見創造性を重視するあまり「自由に書く」ことが絶対視されがちだが、一定のルールやシステムを自分なりに確立しておくことは、スムーズに作品を仕上げるうえで大いに役立つ。

具体的には、プロット作成から推敲までの工程をステップ化し、締め切りや文字数の目標など“目に見える形”でルールを設定する。そして、それを必ず守る習慣をつける。たとえば1日に書く分量を決める、1章ごとにキャラクター相関図を更新する、複数の章にまたがる伏線を一覧化するなどは、執筆の漏れや混乱を防ぐうえで有効だ。

さらに、長期連載やシリーズものを視野に入れるなら、世界観設定や登場人物の年齢・経歴、用語集などを作って管理するのも重要。これらの“法”があることで、文章の一貫性や設定の整合性を保ちやすくなり、読者からの信頼感を得ることができる。しっかりと組織立った執筆体制があれば、どんなジャンルの作品にも応用可能だ。



第六節:総合力としての「計」――全体戦略を見渡す

「計篇」は、これまで述べた五事(道・天・地・将・法)を総合的に判断し、勝算を見極める章である。小説執筆においても、これらをバランス良く考慮しながら作品を仕上げていくことで、読者に支持される“小説の勝ち方”が見えてくる。

まず「道」として、作品のテーマや大義を決める。続いて「天」を読み、社会や読者のニーズ、トレンドを意識する。さらには「地」を見極めて発表形態や市場を検討し、自分という“将”の強み弱みを認識しながら、それを補うように“法”(執筆ルールや管理システム)を整えるのだ。この一連の流れを通じて、“何を、どこで、どう書き、どう届けるか”が明確になっていく。

そして最終的には、読み手の反応を得て軌道修正することも忘れずに。作品の完成とは、作者の手を離れ、読者に読まれたときに初めて真価を発揮する。計画を立て、綿密に準備し、スムーズに修正できる体制まで含めてこそ「計篇」の真髄に基づいた小説の勝ち方と言えよう。



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