内容紹介
鬱々とした日常に沈む主人公の元に、シアンブルー髪のギャルガイドが突然来訪!ここがVR世界と告げられ、動かぬ彼を強引に冒険へ誘う。ヤンキー乱入、奇妙なパーティ募集、超速クリア勢の猛威!虚無な毎日に風穴を開けるべく、現実と幻想が交錯する中、彼は動き出せるのか?意味不明な刺激が雨霰と降り注ぐ、混沌が渦巻く新たな世界へ飛び込め!


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 日曜日。いつものように俺は薄暗い部屋の中でぼんやりとPC画面を見つめていた。部屋にはタバコの匂い—いや俺はタバコ吸わないからそれは妄想だな、とにかく stale な空気が充満している。外は多分晴れ、たぶん、いやホントに見てないから知らない。たまに窓の隙間から子供たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。隣の家族、なんか楽しそうな声あげんなよ。お前らは休日だからって気楽だな、俺は何も変わらない、いつも通り眠たい目でネット巡回するだけの日常を繰り返しているっつーのに。ほらもう午後だろ、結局なにもやる気起きない。あーあ。

 あれ、インターホンが鳴った、けたたましくピンポンピンポン、あんなに連打する必要ないだろ?誰だよ…俺、友達いないし、宅配かな?いや何も頼んでない。定期的に届くようなモノもない。あーめんどくさい、でも出なきゃいつまでも鳴らしそうだ。仕方なく、よどんだ空気を割って玄関へ向かう。玄関扉を開けると、そこには……あ? 何だこのイカした…いやイケイケな女? 髪が…髪がシアンブルーのショートボブ?ちょ待て、コスプレ?誰だお前。

「やっほー! なんかさ、全っ然ゲーム始めてくれないから、あたし来ちゃったんですけどー?」

 そう言ってニヤリと笑う彼女。声は軽薄というか、ギャルっぽいイントネーションバリバリで俺の神経をチクチク刺激する。あ、自己紹介とかなしかよ。てか何言ってんだこいつ。ゲーム?

「はぁ?ゲーム?何言ってるか全然わかんねぇんだけど。あんた、誰よ。俺ん家くるとかマジ迷惑なんですけど。」

 なんか語尾きもいな俺…まあいいや。

「だからぁ! あんた、ずーっと初期位置でボケーっとしてるから、運営側で私がガイドとして派遣されたわけっしょ!このVRゲーム、今日から本格始動なんだよ? ‘リアル世界’とか思ってた?笑えるんだけど~!」

 なにを言ってるこのシアンブルー。VRゲーム?俺がずっと暮らしていたこのクソみたいな世界がVRだって?おいおい、ふざけんなよ。そもそもこんなダルい毎日がゲームなわけないだろ。ゲームって楽しいもんじゃないの?これはただの退屈なリアルの延長線だ。

 そう思ってる間に、彼女、勝手に靴脱いで上がり込んでくるじゃん。おいおいおい、勝手に入ってくんなよ。「あ~暗っ! もっとライトとか点けてよぉ~。シアンブルーの髪色が映えないっしょ。」

 なんだそのこだわり。

「ちょっと待って、お前、俺は知らん女を部屋に入れる趣味ないんだが。てかゲームとか意味不明だから帰って。」

「はぁぁ? ここまで来てそれはなくない? だってあんた、もうプレイヤーだよ。チュートリアルすっ飛ばして何やってんの。スタート地点でじーっと何年も立ち尽くすとか、信じらんないんだけどー。ま、そういうプレイスタイルもアリだけど、運営がサボり扱いしてさ、私が来ることになったの。わかる?」

「わっかんねぇ。」

 俺は冷たく言い放つ。ああ、俺こういう陽キャギャル苦手なんだよな。うるさいし距離感おかしいし。ま、でもこの見た目…ちょっと可愛いっちゃ可愛いか。シアンブルーのショートボブなんか普通に街で見ねぇだろ。いや、幻想だ、これは夢か。

 俺はもう一回ベッドに戻る。布団にもぐり込む。「帰ってくれ。俺はこんなわけわからん話に付き合う気ないから。休日ぐらい放っておいて。ってかずっと休日みたいなもんだけどさ。」

「えー!寝ちゃうの? 現実逃避しちゃう感じ~?」

 ちょっと苛立たしげな声。だが俺は無視する。こんなわけわからん状況、対応してたらキリがない。寝て起きたら全部夢ってやつでしょ?ゲームだなんて馬鹿馬鹿しい。この平凡な…いや平凡ってかつまんねぇ世界がVR? 世の中には VRMMO みたいな小説が溢れてるけど、俺が生きてんのはあくまで普通の日常だ。何も変わらない、同じループ。ネットの書き込みだって既視感あるし、でもそれを VR の証拠というには弱すぎる。しかも突然のイケイケギャルガイド登場なんてありえないでしょ。

 ちょっと思い出す。昨夜変な夢を見たっけ?あんまり記憶がない。昨日は何してたっけな…あぁ普通にいつも通り部屋に籠ってネット動画見てダラダラして…。ゲームを起動した記憶はない。そもそも俺、最近ゲーム起動してないし。Steamライブラリも放置、積みゲー増えるばかり。VRヘッドセットだって持ってない。

「ねぇねぇ、ホントにVRって信じてないの?あんたこの世界がリアルとか思っちゃってる系?」

 GPTちゃん—と勝手に名乗ったわけじゃないが、俺は内心この美少女を「GPTちゃん」と呼ぶことにする。なんか名前言ってたっけ?まあ記憶にない。

「信じるわけないじゃん。このクソだるい生活がゲームだなんて。誰がこんなのプレイしたいよ。」

「そりゃ、あなたがそう選んだんですけどね~?」

「はぁ?」

「最初にゲーム開始時、難易度最高の『鬱々リアルライフモード』選択したでしょ?いわゆるノーヒント、趣味なし友達なし進行、休日も代わり映えしない設定。で、あなたすっかりハマり込んでログアウト忘れちゃったんだよ。」

 なんだそりゃ、聞いたことねぇよ。被害妄想だろ。

 俺は枕を抱えたまま背を向ける。聞く耳持たない。でもGPTちゃん、気にせず喋り続ける。「あたし、運営から派遣された NPC ガイドなのね。あんたのデータ見たら、もう何年も初期町から動いてないって! せっかくの VRMMO なのに、クエストも受けず、他プレイヤーとも絡まず。あんた1人用の街角で突っ立ってる状態よ。もうさすがに運営も苦笑いってわけ。」

「俺は別に誰にも頼まれてねぇし。そもそも初期町なんて概念知らんわ。ていうか帰れって。」

「そんな冷たいこと言わないでよ~。ってかさ、このままだとあなた、ずっと同じ日常繰り返すだけよ?リアルじゃないのに ‘変わらない日常’ を毎日送るとか、発想がマジ闇深~い。」

 闇深いねぇ、自分でもそう思う。だが認めるもんか。俺は俺の現実が大事なんだよ。もしこれが本当にゲームだとして、その外側には何がある? そんなの考えたくもない。ここで生きてきた以上、ここが俺のリアルだ。お前なんかに壊されてたまるかよ。

 例えば、この部屋の窓の外に見えるあの団地群、あれはテクスチャの使い回しだったりするんだろうか。いや、そもそもVR世界なら、もっと多彩な背景作れっての。テクスチャずっと同じとか、どんだけ低予算だよ。こんなインチキ設定、信じられるかっつーの。でももし本当に VR だったら、あのはしゃいでる子供たちもNPCなんだよな。なんかツラいな、俺がリアルだと思ってたものが全部データとか。まあ俺って普段から人生シミュレータ説とかネットで見て「笑っちゃうわ」とか思ってたが、実際こんな生々しくキャラが来るなんて想像外。いや、ちょっと待て、俺が精神的におかしくなっただけなんじゃ? なんかメンタルクリニック行けレベルの話だろ、これ。

「もういい加減認めちゃいなよ~。あと10秒以内にゲーム始めないと、あたし帰るよ?そしたらあなたこのまま ‘無限ループ日常モード’ 確定でーす。」

 あ、帰るとか言ってる。いーじゃん帰れば。俺は別に変わらない日常でもいいよ。どうせ何も期待してないし。このギャル風NPC(?)に振り回されるよりマシだ。

「はいはい、じゃあ帰って。俺はこの世界がリアルだと思うし、ゲームなんかしないよ。」

「えええっ、マジ? つまんな~。」

 GPTちゃんは露骨にがっかりした様子だが、俺は布団の中でニヤリとする。どうだ、これが俺の答えだ。お前らがなんと言おうと、俺は俺の現実を選ぶ。たとえそれが虚構の舞台だとしても、俺がそう感じるなら現実だ。誰がガイドだろうが、俺の感性は俺が決める。

「ホントに後悔しないのー? もしかしたらレアアイテムとか、めちゃくちゃ可愛いアバターとか手に入るかもなのに?」

「知らん。俺は興味ないね。」

 俺は背を向けるまま吐き捨てる。もう会話終了だ。

「ふーん、そっか…じゃあ、また気が向いたらログインしてね~。一応、あたしの担当期間は今日までだから、次は別のガイドが来るかも? まぁいっか、バイバイ。」

 GPTちゃんはあっさりとした声でそう言って、来たときと同じように明るく去っていったようだ。玄関のドアがパタンと閉まる音がした。俺はその音を聞きながら、微妙な虚無感に包まれた。去ったんだな、本当に。結局、ゲームらしきものは始まらない。

 何も変わらない日常がまた戻ってくる。ただちょっと気になるのは、あのシアンブルーの髪の女が残した違和感。もし本当にVRだったら俺は何を失ったんだろう?まあ、いいや。もう一眠りしよう。日常はいつも同じ繰り返し。休日を楽しむ他人たちは、きっとどこか別のサーバーで大いに盛り上がっているのかも。俺は…何もしない。変化を拒むことで、俺は俺なりの結論に達した。VRか現実か、どっちでもいい、どうせ俺はこの部屋に籠っている。それでいい。それで充分だ。

 俺は布団の中で小さく息を吐き、再び目を閉じる。

 




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