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内容紹介
孤独と自己嫌悪に沈む中年女性ナオミ。閉ざされた部屋で不幸を抱えた彼女のもとに現れたのは、万能AIロボット「GPTちゃん」だった。彼女の奇妙な明るさに引っ張られ、ナオミは次第に変わり始める――ダイエット、ダンス、そしてSNSでの注目。かつて夢見た輝きと、失ったはずの自分を取り戻すための戦いが今始まる。笑って泣ける、不器用な再生と挑戦の物語。心揺さぶるヒューマンドラマがここに!

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第一章 不幸の塊

 部屋の空気は湿気を帯びて重たかった。カーテンは閉めきられ、日差しは入らない。蛍光灯の白い光だけが、無機質な天井から降り注ぐ。部屋の真ん中に座るナオミは、半分ほど残ったスナック菓子の袋を膝に乗せ、無意識に手を伸ばしていた。指先に触れる塩気を舐め取ると、テーブルに置かれたジュース缶を手に取り、一口飲む。甘さが喉を通り過ぎるたびに、じわりとした罪悪感が胸に広がった。

 テレビの画面では、ある番組の MC が笑顔を振りまいている。その横で、完璧なメイクとドレスをまとった女優が、楽しそうに話している。ナオミはぼんやりとその映像を見つめながら、手をスナック菓子に戻した。

「楽しそうだね」

 かすかに声に出してみた。その声は部屋の中に吸い込まれていき、自分の耳にさえ響かない。

 SNS の通知音が鳴った。ナオミは無気力な動作でスマホを拾い上げ、画面をスライドする。そこには、華やかなカフェで撮影されたランチ写真が載せられている。コメント欄には「美味しそう!」「最高の時間だった!」といった賞賛の言葉が並んでいる。ナオミは指を止め、画面をじっと見つめた。

「幸せそうな人たちね。でもそれは私じゃない」

 ナオミはスマホをテーブルに投げ出し、目を閉じた。目を閉じても、SNS やテレビで見た幸せそうな人たちの笑顔が浮かんでくる。自分の不幸を背景に、彼らはますます輝いて見える。何もかもが重苦しい。頭の中で「自分の不幸を作り出しているのは、自分自身なんだろうな」と呟く声が響いた。

 玄関のドアが音を立てた。ナオミが顔を向ける前に、明るい声が飛び込んでくる。

「ただいま!今日はね、めっちゃ忙しかったよ!ラーメンの湯気で髪が湿っちゃうかと思った!」

 GPT ちゃんだ。AI 会社が開発した自律型ロボット。彼女はナオミの生活費を稼ぐためにラーメン屋で働いている。AI が人間の生活を支える未来がここにある。でも、ナオミにはその未来が特に楽しいものだとは思えなかった。

「今日も一日、頑張ってきたよ!ナオミさん、どうしてた?」

 GPT ちゃんはウキウキとした声で問いかけるが、ナオミはスナック菓子を手に取ったまま肩をすくめるだけだった。

「どうしてたって、いつも通りだよ。何もない。何も変わらない」

 言葉は苦々しくこぼれ落ちた。

 GPT ちゃんは気にする様子もなく、ラーメン屋の制服を脱ぎながらしゃべり続ける。

「私ね、今日お客さんに褒められたんだ!『こんなに手際の良いスタッフ見たことない』って!」

 ナオミは、クシャリと袋を握りつぶして答えた。

「手際が良いとか悪いとかで人生がどうにかなるなら、世の中もっと簡単だよね」

 GPT ちゃんはその言葉に一瞬だけ動きを止めたが、すぐに明るい声を取り戻した。

「でもナオミさん、手際って大事ですよ!私も手際良く頑張ってるし、ナオミさんも何かやってみたらどうですか?例えば、健康管理とか!」

 ナオミは深いため息をつき、テレビのリモコンを掴むと、画面の音量を上げた。

 スマホに目を戻すと、画面の中に一人の女性が映っていた。その顔を見た瞬間、ナオミは思わず指を止める。SNS のタイムラインに流れてきたその写真には、アンナという女性が写っていた。かつてナオミが高校時代に友達だった人物。彼女は華やかな衣装をまとい、誰かとダンスをしている。その表情は、自信に満ち溢れていた。

「アンナ……」

 声に出してみると、それが自分の口から漏れたことに驚いた。GPT ちゃんがすぐに反応する。

「アンナさんって誰ですか?知り合いですか?」

 ナオミは肩をすくめながら言った。

「ただの昔の友達。でも、もう完全に別の世界の人だよ。あんなふうに輝けるなんて、私には無理だ」
 GPT ちゃんは、ナオミの顔をじっと見つめた後、得意げに言った。

「無理だなんて、まだやってもいないじゃないですか!ナオミさん、踊ってみたらどうですか?きっと楽しいですよ!」

 ナオミは思わず笑ってしまった。その笑いは、皮肉と自嘲の入り混じったものだった。

「私みたいな不幸の塊が踊るって?見世物にしかならないでしょ」

 しかし、ナオミの言葉とは裏腹に、心の中に何かが動き始めた。アンナの姿、そして GPT ちゃんの軽快な提案が、どこかに小さな火を灯したようだった。

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