牛野小雪はラップサークルの主人公に厳しすぎる。どうして最初から最後までハッピーハッピーにしてやれないのだろう。この小説において私は神だ。2+2を5にもできるし、鴨川を逆さに流すこともできる。死んだ人をよみがえらせることもできるし、永久機関も作れる。すべてが可能だ。小説の中で私にできないことはない。でもこの小説は晴人君が海に落されるところから始まる。

映画『マトリックス』でエージェント・スミスが言う。この世界は君達が作った、と。マトリックスとは機械が見せる仮想空間のことで、人間は夢を見ながら機械の電池になっているという設定だ。機械は最初幸福に満ちた世界を作ったが人間がそれを拒否した。そして作中の世界になっているというわけだ。

日ノ本晴人君を中2でありながらラップの神でユーチューブで100億回再生。チャンネル登録者数は10億人。女子にもモテモテなんて風にも書けるはずだ。これは技術的な問題ではない。心の問題だ。そんなの絶対に書きたくないと私自身が思っている。晴人君はあんまり幸せそうじゃないし、メタ的な話をすると私は故意に艱難を彼に与えている。もし神が後ろで糸を引いているとバレたら殺されるかもしれない(笑)。

小説ってなんなんだろう。もしかしたら小説に限らず人は自分から不幸を作り出している側面もあるんじゃないかな。どう考えても幸せになれそうにない選択を自分から選ぶ人がいる。もしかしたら意識で気付けないだけで全ての人がそうなのかもしれない。だとしたら不幸を必要とする理由ってなんだろう。みんな幸せでいられたらいいのにね。あるいは幸せではなく、幸せを求める状態を求めるために不幸を求めていたりして。だって、幸せになってしまったら小説は終わってしまうから。

(おわり)

ナンバーワンラップができるまで
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