【ヒキニートの豆知識】
ほとんどのひきこもりは朝起きられない

内容紹介
これは私とたくぴがハワイへ海を見に行くまでの物語
たくぴはハワイへ行く資格がないって言うけれど
そんなもの最初から必要ないんだよね
存在しない壁にぶつかるたくぴって本当にバカ
どうやったら分からせられるんだろう、やっぱり愛?
 

登場人物紹介

たくぴ
本作の主人公であり、引きこもり生活を送る青年。彼の内面は非常に複雑で、自己理解に苦しみつつも独自の世界観を持っている。現実の中での存在意義を探しつつも、しばしば皮肉やユーモアを交えた会話を繰り広げる。彼は日常の小さな出来事にも大きく反応し、その感情の揺れ動きが物語の中心となっている。彼の周囲の人々との関係性が、彼の成長や変化に影響を与える。

るか
たくぴの彼女であり、時には彼の良き相談相手でもある存在。ユーモアと現実感覚を兼ね備えた人物で、たくぴのひねくれた視点に対しても冷静にツッコミを入れることが多い。ライブ配信を行うなど、現代的な活動にも積極的で、たくぴとの対比として物語に明るさを加える。

三好さん
地域に住む謎多き老人。たくぴのことをよく知っているが、その情報源は不明。たくぴの父親や家族のことまで知っているが、どのようにしてその情報を得たのかは謎のまま。彼は常に明るく、周囲にポジティブな影響を与える存在でありながら、その裏には何か隠された事情があるように思わせる雰囲気を持つ。


「光の翼」という施設の理事長であり、たくぴが通う施設の責任者。余裕のある表情と良い香りのスーツが特徴。彼の存在が、たくぴにとって重要な役割を果たす。

DQNたち
たくぴとるかに対してトラブルを引き起こす不良グループ。彼らの存在は、たくぴが日常の中で直面する現実的な脅威として描かれている。彼らとの対立を通じて、たくぴの内面的な強さや変化が浮き彫りにされる。

たくぴとるかの関係性について

『たくぴとるか』の物語の核となるのは、主人公たくぴとるかのユニークな関係性である。この二人のやり取りは、単なる恋愛関係に収まらない、多層的で奥深い絆として描かれている。彼らの関係は一言では定義できないが、相互依存と個々の自由を絶妙なバランスで保ちながら進展していく。

 まず注目すべきは、たくぴとるかが互いにとっての「鏡」のような存在であることだ。たくぴは引きこもりとして現実世界から距離を置いている一方で、るかは配信活動を通じて多くの人と関わり、外の世界と積極的に接している。この対照的な立場が、彼らの関係に絶妙な緊張感とバランスをもたらしている。たくぴが現実から逃避することで心の平穏を保つ一方で、るかは現実に飛び込むことで自己を表現している。しかし、この二人はお互いの生き方を否定することなく、それぞれの立場を尊重しながらも、時には皮肉やユーモアを交えて互いの価値観に揺さぶりをかける。これが彼らの関係の面白さであり、物語に独特のリズムを与えている。

 また、たくぴとるかの関係性は、単なる相互理解を超えた「無条件の受容」によって成り立っている。たくぴはるかの奔放さや現実への積極性に戸惑いを感じながらも、それを批判することはない。逆に、るかはたくぴの引きこもりというライフスタイルを受け入れ、彼を変えようと無理強いすることはない。この無理のない自然な関係性が、二人の間に深い信頼感を生み出している。それはお互いが自分らしくいられる唯一の場所としての「居場所」を提供し合っていることを意味している。

 さらに、二人の関係はしばしば「現実と虚構の狭間」に位置している。るかが配信者としてのキャラクターを演じる一方で、たくぴはオンラインゲームの中で「悪魔の狼フェンリル」として別の顔を持っている。現実世界では互いに対等な存在である二人が、仮想空間やインターネットというフィルターを通じて、異なる自己を表現しているのは興味深い。この二重構造は、彼らの関係をより複雑で魅力的なものにしている。たくぴとるかは互いの本質を理解しながらも、それぞれの「もう一つの顔」を通じて新たな側面を発見し続けているのだ。

 また、二人の関係にはしばしば「ユーモアと皮肉」が交錯する。たくぴのひねくれた哲学的な視点と、るかの現実的で軽妙なツッコミは、物語全体に軽やかなリズムを与えている。深刻なテーマを扱いながらも、彼らの会話は決して重苦しくならず、むしろ読者に親しみやすさを感じさせる。こうしたユーモアの中に、時折垣間見える真剣な瞬間が、彼らの関係に深みとリアリティを与えている。

 さらに、たくぴとるかの関係は、現代における「新しい家族の形」としても解釈できる。血縁や恋愛といった伝統的な関係性にとらわれず、互いの存在を無条件に受け入れることで築かれる絆は、現代社会における多様な人間関係のあり方を象徴している。彼らの関係は、家族や恋人といった既存のカテゴリーに収まらない新しい形のパートナーシップとして描かれており、それがこの作品の魅力の一つでもある。

 たくぴとるかの関係性は、現代社会における孤独や繋がりの在り方、自己の受容と他者との関係のバランスといったテーマを探求する上で不可欠な要素である。彼らの関係は一見シンプルに見えるかもしれないが、その背後には多くの層が隠されており、読むたびに新たな発見があるだろう。たくぴとるかの関係は、現実と虚構、孤独と繋がりの狭間で揺れ動きながらも、互いの存在を通じて自分自身と向き合うことの大切さを教えてくれる。


小説のモチーフについて

 本作『たくぴとるか』は、現実と虚構の境界を揺さぶりながら、「自己認識」と「現実逃避」を主要なモチーフとして展開されている。主人公たくぴの引きこもり生活と、彼の周囲で繰り広げられる出来事が、このモチーフを通じて深く掘り下げられている。

 まず最も顕著なモチーフは「現実の拒否と受容」である。たくぴは社会の中で居場所を見出せず、引きこもりという形で現実から距離を置いている。彼の部屋は外の世界との境界線であり、同時に自分自身と向き合う閉鎖的な空間でもある。たくぴの行動の多くは、社会との接触を避ける一方で、自己の存在意義を模索するプロセスとして描かれている。特に「現実禁止」の標識はこのモチーフの象徴であり、たくぴが直面する現実世界の不条理や重圧に対する彼なりの反抗心を表している。

 次に重要なのが「インターネットと仮想現実」というモチーフである。たくぴはソーシャルゲーム『マジェスティックドラゴン』のプレイヤーであり、その中で「悪魔の狼フェンリル」としての別の顔を持っている。彼が現実世界では何者でもない引きこもりである一方、オンラインの世界では影響力を持つ存在として認知されている。この二重生活は、現代社会における現実と仮想の境界線の曖昧さを浮き彫りにしており、たくぴの内面世界の複雑さを象徴している。また、インターネットでの繋がりや自己表現は、たくぴにとって現実世界での孤独を埋める一つの手段でもあり、このモチーフは彼の孤立感と同時に微かな希望を示している。

 また「哲学的探求」もこの小説の大きなモチーフの一つである。たくぴは日常生活の中でしばしば哲学的な問いに直面し、自分自身の存在意義や社会の構造について考え続ける。例えば、「なぜ働かないのか?」という問いに対する彼の答えは、単なる怠惰や無気力ではなく、社会構造や個人の自由についての深い内省から来ている。たくぴの視点は、現代社会に対する批判的な眼差しを反映しており、彼の考えは哲学者の思想と重なる部分も見受けられる。このモチーフは読者に対しても自分自身の生き方や社会との関わり方について考えさせる力を持っている。

 さらに「自己認識とアイデンティティの探求」も中心的なモチーフである。たくぴは、自分が何者であるのか、どのように生きるべきかという問いに対して明確な答えを持たない。彼の内面の葛藤や迷いは、読者に共感を呼び起こす要素となっており、たくぴの成長や変化は物語の進行と共に少しずつ描かれていく。彼が自分の居場所を見つけるまでの過程は、読者自身のアイデンティティ形成の旅とも重なり、この小説の普遍的なテーマとして機能している。


『たくぴとるか』は現実と虚構、自己と他者の関係を多層的に描き出すことで、現代人が直面するさまざまな問題に深く切り込んでいる。たくぴの物語は一見すると個人的な引きこもりの生活に過ぎないが、その背景には普遍的な人間の葛藤と希望が描かれている。この小説は、読者にとっても自己と向き合うきっかけを与える作品である。



他の小説と何が違うか
「たくぴとるか」が他の小説と異なる点は、主人公たちが極めて日常的でありながら、現代の社会問題や若者の孤独、無気力感と鋭く向き合っている点です。この小説では、無職で引きこもりのたくぴというキャラクターが、特別なヒーローや劇的な変化を遂げる存在ではなく、むしろ無気力でありながらも日常を淡々と生きている姿が描かれています。彼は「ポイ活」という現代の若者が取り組む小さな活動に熱心で、外に出ることも少なく、社会的な成功や大きな夢とは距離を置いています。しかし、その無気力感の中には、現代社会に対する静かな抵抗や反抗の要素が含まれており、日々の生活の中で小さな「自己肯定」を見出す姿が描かれています。

 たくぴは、自分が無職であることや、引きこもりであることを「存在の一つの形」として受け入れており、現代の労働市場や社会的な期待に対して独特の距離を保っています。彼は「ヒキニートは動詞じゃなくて名詞。やるものじゃなくて在り方だ」と語る場面からも、彼が無職でいることを単なる「怠惰」としてではなく、一つの生き方として認識していることがわかります。このようなキャラクターの描き方は、現代社会における「働くこと」「生産性」という価値観に対する問いかけとして非常にユニークです。

 また、もう一つの特徴として、この小説は現実逃避や虚無感をテーマにしつつも、常にコミカルであり、軽妙な会話が物語を引っ張っていく点が挙げられます。たくぴとるかのやり取りは、シリアスなテーマを抱えながらも、冗談や風刺的な要素で彩られています。たくぴは社会的に無力であるにもかかわらず、日常の小さな問題や挑戦に対して真剣に向き合い、その姿がユーモアを交えて描かれています。例えば、ポイ活やアンケートに取り組む場面では、彼が無気力でありながらも真剣で、その姿勢が面白おかしく描かれています。彼がアンケートに対して「三〇代女性のふりをする」という方法を見つけた際の真剣な態度や、それを正当化しない姿勢が、読者に笑いと同時に彼の価値観の一部を伝えています。

 さらに、社会からの孤立や孤独感がありながらも、たくぴは完全に絶望しているわけではなく、むしろその孤立を肯定的に捉えている点も特徴的です。彼の生活の中には、大きな事件や感動的な瞬間は少ないかもしれませんが、日常の中に潜む小さな達成感や満足感が描かれています。例えば、庭師にコーヒーを差し出す場面や、たくぴが小さな社会的役割を果たすことに喜びを見出す場面など、現代の複雑な社会で自分の存在を確認する方法が、非常にさりげなく描かれています。

「たくぴとるか」は、こうした点で他の作品とは一線を画しています。ドラマチックな事件や派手な成功物語ではなく、むしろ現代社会の一角にひっそりと生きる「普通の人たち」の日常を通して、社会のあり方や人間の生き方について問いかける深いテーマが隠されています。それが、この作品のユニークな魅力であり、他の多くの小説と異なる点です。


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試し読み

1 たくぴとるか

 変身とは世界に負けないための儀式。メイクしてウィッグを着けて、派手な服に着替えて、私はアイドルになる。

 スマホをセット。映りを確認。よしっ、顔は衣装に負けていない。今日もかわいい。録画ボタン、ポチッ

るか:こんるか~。現実をキャンセルするために降臨した堕天使るか。現実なんて捨ててチャンネル登録しろっ。いいね、コメントなしは人間失格。でも私が許す。さっそくだけど新曲『ぼくは好き好きなによりも』

るか(歌う):
僕は好き好き なによりも
ベッドの上でも 君が好き
心の底で きみを見つめる
別の女は おばかさん
すべて退屈なお約束
宇宙はステキ UFOにキス
きっとマジメ? においをかぐよ

どうでもいいよ そこがいい
絶対いない ウザイから
笑いものは 意識してる
百人抱いて殺し合い
すぐ謝って 話し合った
どうでもいいよ そこが好き
まだ続いている 現実の
日が落ちる 一フィートまで
どうでもいいよ どうでもいいよ
君が好き好き そこがいい

るか:今日も来てくれてありがとう。またね~

 ポチッ。録画を止める。ふぅ。私はウィッグを外す。アイドルもラクじゃね~ぜ。無限に乾いた承認欲求を追いかける無間地獄。再生数といいねが高速で回っているあいだだけ私は生きていることを許される。だれに? たぶん神。いつかは終わりが来る。分かってる。こんなことはいつまでも続かない。人気のあるうちに自殺しないかぎり死ぬまで人気者でいることは不可能。そして死んでも伝説はいつか風化する。

 花山るかチャンネルのトップページを開く。登録者数99999999人。あと一人で一億人。ほぼ日本の人口と同じなんだけど……たくぴ?

 たくぴはポイ活アプリのアンケートに答えている。日本、いや、世界一のユーチューバーアイドルが目の前で歌っていても、着替えていても見向きもしない。二〇分のアンケートで一〇〇〇ポイントもらえるんだってさ、バーカ。

 たくぴが私の視線に気付いてスマホから目を上げる。

たくぴ:なに?

るか:チャンネル登録

たくぴ:やだね

るか:日本制圧できるんだよ?

たくぴ:そんな悪事に協力はできない

るか:死ねっ。じゃあ結婚しよ

たくぴ:脳に羽でも生えてんのか?

るか:結婚して、ハワイへ海を見に行くぞ

たくぴ:昭和か?

るか:昭和でもしょうがでもいいからハワイ

たくぴ:資格ってあるよな? ハワイへ行く

るか:えっ、聞いたことないけど。たくぴ、脳バグってる?

たくぴ:そりゃ金を出せばいけるさ。でも資格なしで行っても、それは本当にハワイへ行ったことにはならないの

るか:分かった。じゃあ資格とって。一級ハワイ試験

たくぴ:んなもん、あるわけね~だろ

るか:三級でも大丈夫?

たくぴ:分かんないけど、とにかく資格がないとハワイには行けないの

るか:たくぴがひとりでそう思ってるだけじゃん

たくぴ:ひとりで行ってこいよ

るか:たくぴ卑怯だよ。そんなことできないの知ってるくせに、どうしてそんなこと言う? イヤなことでもあった

たくぴ:ごめん

 私はたくぴに背を向け、泣いているふりをしながら配信ボタンを押す。さっき録画した動画の再生数といいねがたちまちのうちに炎上。インターネットが壊れそうな勢いで炎はふくれあがり、私の魂が潤っていく。

るか:たくぴってなにが嬉しくて生きてるの?

たくぴ:るかと一緒にいるのが嬉しくて毎日涙がちょちょ切れそうだ

るか:こんにゃろ

 たくぴは私が怒ると思っていたんだろうが、そうはいかないぜ。るか様はそんじゃそこらの女とは違うので、たくぴにぎゅーっと抱きつく。どうだ、まいったか。

たくぴ:だー、やめろ。アンケートもう終わるから

るか:てきとーにぷぷぷって押せばいいんだよ?

たくぴ:それはだめ

 急にマジメになるたくぴ。

たくぴ:そりゃあ、アンケートの攻略法は分かってる。三〇代独身女性の正社員に偽装すればアンケートのポイントはいっぱいもらえる

るか:そんなこと言ってない

たくぴ:話のキモはそこじゃない

るか:キモっ

たくぴ:キモくていいから聞け。もしみんなが三〇代女性のふりをしたらアンケートはアンケートの意味をなさない。それがずっと続いたらアンケートの信頼性は地に落ちてアンケート自体なくなる。だから正直に、ありのままに答える必要がある。てきとーにぷぷぷなんてもってのほかだ

るか:たくぴってさ

たくぴ:うん?

るか:小さいところでマジメで、大きなところでDQNだよね

 たくぴはなにか言い返そうとしたけど口をつぐむ。もちろんたくぴはDQNじゃない。だけど精神性はDQN、いや、それよりもワルだ。だって本当にマジメなら、たくぴと同じくらいの人はみんな働いている。なのにたくぴは明るい時間からスマホのポイ活アプリでアンケートやってる。今日は仕事が休みじゃなくて、昨日も明日もノージョブ。つまり無職。一〇年以上ヒキニートやってる……やってる?

るか:ねぇたくぴ。ヒキニートってやるもの?

たくぴ:違うね。ヒキニートは動詞じゃなくて名詞。やるものじゃなくて在り方

るか:眠くなりそうなこと言うな

たくぴ:存在を表す言葉ってこと。ヒキニートはやるものじゃなくて状態。元気とか病気とか、そういうものに近い

るか:じゃあ社長は? サラリーマンは?

 たくぴ黙る。

るか:ほらぁ、社長やる、サラリーマンやる。動詞的に使えるならヒキニートもやるものでしょ?

たくぴ:そんなこと言ったら、るかも動詞だ

るか:なにそれ

たくぴ:るかにるを付けてるかる。文脈沼に引きづり込むという意味

るか:食っちまうぞ

たくぴ:それなら俺はたくる

るか:どういう意味?

たくぴ:知らね~よ

玄関のチャイム:ピンポーン

 頭の悪い空気が断ち切られて、たくぴはシャキッと立ち上がる。ポイ活のアンケートは終わっている。

るか:こんな時間に誰だろ?

たくぴ:庭師の人だろ

るか:あぁ~、そうだった

 昨日、たくパパは庭師の人が来るから出迎えるようにって言ってた。だからたくぴは昨日からドキドキなのである。

 たくぴはビビりながら玄関まで歩き、ドアを開く。

庭師の人:あ、おはようございます。ムラマツ庭園です。予定していた庭木の剪定と芝刈りをさせていただきます

たくぴ:はい、よろしくお願いします

 へっ、急にまともになりやがって、それが嘘だってのはお見通しだぞ。たくぴはドアを閉めるとガッツポーズは、さすがにしなかったけれど、顔は一仕事やり終えた充実感に満ちている。バッキャロー。それぐらいでいい気になるんじゃね~。庭師イベはまだ終わりじゃね~ぞ。

 私はたくぴにグッと親指を立てて、いいねを送る。よくやったぜ。たくぴがニヤっと笑う。

 たくぴは一階のリビングでテレビを見る。でも内容なんて全然入ってこなくて外の音ばかり気にしている。

庭師の人:はよせぇ。昼までにこっかからあっこまで終わらせとかなあかんだろ

 返事はないけど何人かが急いで動いている音がする。ガシャン、ガシャン、ゴトン、ゴトンとあわただしい。たくぴの家はデカいのだ。玄関前の庭だけでテニスコートぐらいある。たくパパはサイトウ工業っていうアルミドア専門のドアを作る会社で社長をやっている。たく兄ぃは専務だ。たくぴは……さっき言った通りヒキニート。たくパパは息子に役職だけ与えて体裁をもたせる。なんてドラ息子仕草は許さない。たくぴだって望んでいない。

たくぴ:もしそんなことになったら僕は会社をめちゃくちゃにしてしまうだろうな

 いつかたくぴはそう言っていた。本当に?

たくぴ:自信はある。だから今が正しい

 だってさ。なんていうか。欲がないんだな。世間のドラ息子なんか会社の二代目を継いで好き勝手してるんだから。

 正しくヒキニートしてるんだってたくぴは言いたいんだろうけどヒキニートなんて正しくないぞ。あ~あ、なんで私はこの男を嫌いになれないんだろう?

 たくぴはさっきから何度も立ち上がっては窓の外をちらちら見ている。庭師の人たちが休憩するのを待っている。さっきまで聞こえていた枝を切る音は聞こえない。私も窓の外を見る。

るか:たくぴ、いまがチャンス

 たくぴは唇の皮をむしっている。ビビってるな、こいつ。庭師の人たちは壁にもたれてぼそぼそとなにか話している。スマホでなにかを見ている人もいる。ぜんぶで三人。こっちは二人。一人足りないけど、ここはたくぴの家だから有利だ。

 たくぴは突如として冷蔵庫へ向かい、扉を開けると、ジョージアエメラルドマウンテンの缶を三つ手に取る。たくパパが事前に用意していたものだ。たくパパにぬかりはない。

 たくぴは合戦へおもむくように足音を立てて進む。すべての動きが荒々しい。玄関で靴を履いていると傘立てが倒れる。事件が起きたような激しい音が鳴る。たくぴは傘立てを元の戻そうとしたけれど、やっぱりやめてドアを開ける。

たくぴ:ごくろうさまです。もしよかったらこれ飲んでください

 たくぴが缶コーヒーを庭師の人たちに手渡している。缶コーヒーはなぜかジョージアエメラルドマウンテンでなければならないらしい。妥協は許されない。何年か前にたくパパは近所のコンビニにもスーパーにもエメラルドマウンテンがなかったので徳島市まで車を走らせて、たった六本の缶コーヒーを二時間もかけて買いに行ったことがある。なぜエメラルドマウンテンでなければならないのかとたくぴはたくパパに聞いたことがあるが「そんなの当たり前だ」って有無も言わせない口調だった。いや、ホントに。たくぴがその疑問を発した時、たくパパは、たくぴが「地球は平らだ」って大マジメな顔で言い出したような顔をしていた。だから差し入れのコーヒーがジョージアエメラルドマウンテンなのは地球が丸いのと同じぐらい常識で、それに疑問をもつことは正気を疑われることなんだって、たくぴは飲み込んだ。でも、なんでなのかなってまだ考えている。たくぴは疑問の物持ちがいいのだ。

たくぴ:飲み終わったらここに置いといてください。こっちで捨てるので

庭師の人:ありがとうございます

たくぴ:いえ、こちらこそ。ごくろうさまです

 たくぴは家に入ると靴を脱ぎ捨て、猿のように飛び回る。叫びたがってもいるけど、それはさすがにおさえて自分の腕を噛む。傘立ては倒れたままだ。

 たくぴはソファーに飛び込んでごろごろ転がる。なにしてるんだ、この男は? 頭がおかしい。コーヒー渡したくらいでバグるな。

るか:あっ、豊臣秀夫だ

 テレビに豊臣秀夫が映っている。たくぴはピタッと動きを止める。豊臣秀夫は令和の今太閤と呼ばれている。ネクストワールドというAIの社長をやっていて、たくぴと同い年だ。かたやヒキニート、かたや社長。あいつの言っていることは全部デタラメ。詐欺師だってたくぴは言ってる。でもこの前この人の『豊臣語録』という本が三〇〇万部売れたってニュースになってた。たくぴ以外にも嫌っている人は多いけど好きな人も多い。しょっちゅう発言が炎上しているけれど人気はむしろ炎上するたびに大きくなっている。本人も「アンチは味方」と言っている。

るか:ラグビーチーム買収だって

たくぴ:静かにしてくれ

豊臣秀夫:いちじるしい近代化を行いながら他の先進国が体験している事実が存在しない点において日本は評価されています。しかし同時にパラダイム転換が非合理な理由で行われました。日本礼賛のすべてが間違っているわけではありませんが強いリーダーを望む誤った理由が政治レベルでは合理性を持ってしまっています。現代日本に生きるアナーキストは満足するべきですね。文化に依存したプレゼンスによって規則や基準なしに進む対立合理性が言語的に不明確になっているのだから。これを議論したいのであれば西洋的なリーダー像のイメージを輸入しなければならないでしょう

 たくぴはふっと鼻息をもらす。テレビも消す。あんなやつ詐欺師に決まっている。そんなことを言っても豊臣秀夫は何千億も稼いで、本も売れて、ラグビーチームを買収している。たくぴは庭師の人にコーヒーを出しただけで猿になるぐらい脳が焼ける。人としての価値は月とスッポン。もちろん月はたくぴ。だって月に値段はついてないもんね。ノープライス。

 庭師の人がお昼を食べていてもたくぴはゲロ吐く寸前まで緊張していたから水しか飲まなかった。というか飲みまくった。夕方にはおしっこを出しすぎてフラフラになっていた。体の水分三回ぐらい入れ替わったんじゃないかな。荷台を枝と葉っぱでいっぱいにしたダンプカーも同じくらい家の前を行き来した。

庭師の人:ありがとうございました

 夕方に仕事を終えた庭師の人が玄関のドアを開ける。たくぴは玄関に出る。

たくぴ:ごくろうさまです

庭師の人:またなにかあったらいつでもご連絡ください

たくぴ:はい、ありがとうございました

 庭師の人が頭を下げてドアを閉める。

たくぴ:あっ

 玄関のドアの擦りガラス越しに、庭師の人がかがんで玄関に置いたジョージアエメラルドマウンテンの空き缶を拾う姿が映る。たくぴはあわあわして、出ていって止めるべきか、出ていかざるべきか迷う。

るか:いっちゃいな

たくぴ:忘れていたわけじゃない。あの人たちが帰ったら外の水道で洗おうと思ってた

 ダンプカーのエンジン音が玄関のドアを揺らす。

たくぴ:仕事している時に洗ってたら負い目が湧くだろ

るか:もう遅いね

たくぴ:枝を切ってる時にさ、背中で空き缶洗ってる音がするんだ。しかもそれはさっき自分たちが飲んでたやつでさ

 ダンプカーがガルガルと音を立てて走り去る。ざらざらした沈黙。たくぴは猿から人間に戻る。人がいなくなったら正気に戻りやがったぜ、こいつ。そわそわしていた体も落ち着く。

たくぴ:腹減った。昼なんにも食べてない

 たくぴはキッチンへ行くとボウルに小麦粉を出す。だいたい目分量だ。そこに水とドライイーストを入れてこねる。五分ほどこねて、塩ひとつまみ。生地がべとつくようなら、さらにひとつまみ。生地がまとまったら丸く固めてラップで包み、レンジでチン。そのあいだに玉ねぎ、ウインナー、パイナップルを切る。生地をレンジから出すと手で伸ばして、ケチャップを塗り、玉ねぎ、ウインナー、パイナップルをのせ、チーズをふりかけてオーブンへ。生地をこねる前から予熱していたので中は250℃に温まっている。

るか:たくぴの計画性って人生にちっとも生かされないね

たくぴ:ありすぎるから困ってる

るか:もしたくパパが死んだらどうする?

たくぴ:兄ちゃんが跡を継ぐ

るか:たくぴは?

たくぴ:どのルートを行っても結末は一緒なんだぜ?

るか:結末までの道のりってあるよね?

たくぴ:もしるかと出会わないルートだったら、とっくに自殺してるね

 たくぴ……ぎゅーってしてやる。と思ったら、たくぴはすっと私の手をすり抜ける。死ね……計画性。

るか:なんでもお見通しか?

たくぴ:ピザが焼けるから

るか:ピザよりぎゅーっだろ

たくぴ:生地がふくらんできた

るか:心がしぼんでもいいのかバカヤロー

 ぎゅーっ。不意打ちのぎゅーっ。これも計画のうちか? 脳が破壊されるだろ、いいかげんにしろ。このままでは頭がバカになってしまう。私はたくぴの腕から風のように脱出。

るか:いきなりぎゅーってセクハラなんですけど

たくぴ:炎上したっていい

るか:アカウント持ってないくせに

たくぴ:燃えるためだけに作ってもいいんだぜ

るか:自分がいまなにを言ってるか分かってる?

たくぴ:分かってない。ノリで言ってる

 チーン。オーブンのタイマーが鳴る。

たくぴ:あちち

 たくぴはなんにも分かってない。ピザを取り出そうとして指が天板に触れてしまったたくぴを私は見る。

『登録者数99999999人のユーチューバーアイドル花山るかの熱愛発覚!』なんてニュースが流れたら炎上どころかインターネットが爆発しちゃう。別に爆発してもいいけど、この家は週刊誌のパパラッチに囲まれちゃうよ。ワイドショーのカメラも来るよ。分かってる、たくぴ? 庭で枝を切るよりすごいことになるよ。たくぴがいるって知られたら世界は放っておかないよ。体の水分なんて十回ぐらい入れ替わるんだから。

 育ちのいいたくぴは手づかみでピザにかぶりついたりはしない。ナイフとフォークで食べる。

るか:ねぇ、ハワイ

たくぴ:またそれか

るか:行きたいくせに

たくぴ:行く資格がないから行けないんだ

るか:パイナップルをのせたピザはハワイアンピザって言うんだって

 たくぴはテーブルの中央に置いてあるペッパーミルを手に取ると、それをひねってピザにコショウをかける。

るか:つまりそれってさ、たくぴはハワイに生きたくてしかたないってこと

たくぴ:ハワイアンピザは珍しくない。三日前にも食べた

るか:フロイト先生なら、たくぴのハワイへ行きたい欲求がピザになって表れたって言うね。この世に無意識なんてなくて、すべては形を変えて表出する。この世に隠されたものなんてなにひとつないんだよ

たくぴ:明日は違うの作る

るか:また作るけどね

たくぴ:パイナップル食う?

 ピザで使わなかったぶんのパイナップルがお皿に詰まれている。たくぴは指で一枚つまんで、それを食べる。ハワイの匂いが私の鼻に入り込んでくる。

 私はパイナップルの空になった缶を見る。それはキッチンで洗われて、逆さに干されている。原産地のところには台湾の二文字がある。

たくぴ:台湾ってどこにあるか知ってる?

るか:どこ産かは大事なことじゃない。パイナップルはハワイなんだよ。たとえ台湾でもアラビアでも南極でもパイナップルの香りは世界中どこからでもハワイにつながっている

たくぴ:原産地はブラジルだって

 食事中にスマホをいじるマナー違反のいじわるたくぴ。ブラジルのカバに蹴られろ、バーカ。

 ピザを食べた後は紅茶タイム。茶葉はリプトンのイエローパック。一度湯を入れて二〇秒待ち、カフェインを抽出させてから湯を捨て、ふたたび湯を入れるのがたくぴ流。中学の時にイギリスから来た英語の先生がそういう淹れ方をしてるって聞いてから、それが唯一の正しい紅茶の淹れ方だってたくぴは信仰している。砂糖と牛乳を入れて、ちょっとぬるくなったのを一分以内に飲み切る。これもたくぴ流。イギリス人でもないのにマナーにきびしい。でも時々考えたりしてるみたい。あれはもしかしたら、なにも知らない日本の中学生をからかったジョークなんじゃないかって。特に熱々の紅茶で喉の奥がヒリヒリ焼けている時なんかにはね。

るか:あ~そういうことか

たくぴ:なに?

るか:紅茶の原産国は中国だけど、紅茶のイメージはイギリス。それってイギリスが紅茶のイメージを生産してるってこと。つまり想産国

たくぴ:へんな造語作るな

るか:パイナップルも想産国はハワイ。だから原産国はどこであろうとパイナップルはハワイなんだよ

たくぴ:へーへー分かりやした

 たくぴは洗いものを済ませると、戸締りをして日課の散歩をする。私も一緒に行く。ブルートゥースのイヤホンを半分こして同じポッドキャストを聞く。

 たくぴはすごく速く歩く。速いというよりは大股で歩く。こうすると時間あたりの歩数が稼げるんだって。ポイ活アプリのカウント上限二万歩を二時間かけて歩く。一〇〇〇歩ごとにポイントが加算されて、広告を見るとポイントが六倍になるから途中で休憩&広告タイムがある。

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 たくぴに関係ない広告がいくつも流れる。たぶん広告からなにかを買ったことって一度もないんじゃないかな? たくぴは画面をじっと見つめてスキップボタンが出るのを待っている。ムダな時間ゼロでスキップ、次の広告、スキップ、次の広告、スキップ、次の広告、スキップ……もはや何の広告が流れているのか分からなくなる。今夜は月が出ていない。なんてことを私は考える。

イヤホン:‥‥‥でね。ナルドーの食べすぎで冒険隊は食欲を満たしながら、そして大量のうんこを毎日出しながら餓死していったわけなんですよ、これってすごくないですか?

 さっきまで聞いていたポッドキャストの音声が耳に入ってくる。

イヤホン:この話が面白いのは現地に住んでいる人、原住民の人たちは普通に暮らしているってことなんですよ

るか:行く?

たくぴ:うん

イヤホン:いや、あなた、死んだ人のことを面白いとか、そんなこと言っちゃいけません

 私とたくぴは月のない夜を歩く、歩く、歩く。風で冷えた体もすぐに暖まる。

イヤホン:ちょっと冷静に考えてみてください。たとえばもしアメリカ人が日本に来て、サイフとかスマホとか落っことして、なにも分からなくなって、まぁそれってたしかに大変なことなんですけど、でもそれで何日か後くらいにパタッと餓死したらどう思います? バッカだなーって思いません?

るか:今日はそっち?

たくぴ:うん

 たくぴは週に三度、散歩の途中で神社へ行く。鳥居にぶらさがって懸垂するのだ。腕だけじゃなくて、足を上げて腹筋も鍛える。どれもごく短い時間だけど、たくぴはへろへろになって息をハーハー吐く。筋トレが終わったら二人でおまいり。お金は持っていないからお賽銭はなし。

 二時間歩いた私とたくぴは家の近くまで帰ってくる。すると道の向こうから知っている影が歩いてくる。

三好さん:あぁ、こんばんは

たくぴ:こんばんは

三好さん:毎日がんばんりょんでぇ。お父さん元気にしょん?

たくぴ:はい

 声をかけられたので、たくぴは足を止めてイヤホンを耳から取る。

 三好さんは散歩中に出会う謎の老人で、なぜかたくぴのことを知っている。たくぴ以外のことも知っている。たとえばたくパパのいとこのお嫁さんの妹の息子さんが通っている習字教室の先生が高校生の頃に通っていたアルバイト先の店長の孫がおばあちゃんの介護施設に行った時にオレンジジュースをこぼした事件まで知っている。インターネットでは絶対に知ることができないローカルネットワークの権化みたいな存在だ。外見はカラッとした好々爺で、赤ら顔。根元まで白い前髪を真上に立てている。誰からも好かれていそうで、いつも笑っている。

 実のところ三好さんが三好さんかは分からない。ずいぶん前に家に入っていくところを見て、別の日にその家の前を通ったら表札に三好とあったから三好さんと認識しているだけで、本当は別の名前かもしれない。町内でならどこにでも出没して、いつもどこかに行っている雰囲気がある。

 三好さんは一〇分ぐらい喋りに喋る。そのあいだにたくぴは「うん」とか「はい」とか「そうなんですか」と相槌を打っている。それ以外の言葉を口にしないが三好さんはどんどん喋り続ける。


三好さん:ナベシマがつぶれたらしいけど、ほうなったらますます景気ようなるなぁ。徳島県で大きいとこいうたらもうお父さんのとこだけでえなぁ?

たくぴ:はい

三好さん:サイトウ君もがんばりよ。じゃあ

たくぴ:じゃ

 ようやく話が終わり、三好さんはどこかへ行く。

るか:たくぴは徳島県のドア業界なんて知らないから、もし聞かれたらどうしようかってドキドキだったね

たくぴ:二代目のボンボンと思ってるんじゃないか?

るか:いつもあれだけ喋るのに「お仕事は?」って即死級の言葉が出たこと一度もないもんね

たくぴ:ヒキニートなんて常識外れの存在だから想像もしていないんだろう

るか:いまから追いかけてたくぴの正体教えにいこっか?

たくぴ:俺は普通を愛してるんだ。誰かの普通を壊したくない

るか:やめちゃえばいいのに

たくぴ:そうしたいよ、本当に

 たくぴは家に帰るとすぐお風呂に入る。たくぴの肉体は毎日二万歩歩いて、神社の鳥居で懸垂してるせいか筋肉モリモリゴリラというわけではないけれど無駄な肉が付いていない、かといって貧弱ではなく筋肉の盛り上がりがそこここにある引き締まった体をしている。別に体が好きってわけじゃないけど、たくぴが良い体をしているのは嬉しい。

たくぴ:えっ

 たくぴが体を洗っているところに私も侵入。あわてるたくぴに私はご満悦。二人とも体を洗った後は湯船に重なって入る。社長の家でも湯船は一人分なのだ。

スマホ:はっきり言って人間はザコです。無人島に何の準備もなく猫と人間を投下したら、猫は三か月後でも生きているけど、人間は死にます。これはもうほぼ確実と言ってもいいぐらい。いや、ロビンソンクルーソーとかあるじゃんって言うけど、あれって現実の裏返しで、普通はありえなからこそ物語になるんです。じゃあどうして人間が地球を支配しているのかと言うと……

 ドアの向こうから音量を最大にしたポッドキャストの声がする。

るか:もし人類が滅んで私たちだけになったらどうする?

たくぴ:子どもつくる

るか:何人?

たくぴ:五〇億

るか:マンボウでも無理だよ

 たくぴの珍回答で私の笑い声が浴室に響く。

るか:五〇億はいいけどどうやって育てる?

たくぴ:それぐらいいないと元に戻らない

るか:地球の人口ってもっといたような

たくぴ:それぐらいでちょうどいいよ

 たくぴはお風呂を出る。ソシャゲの体力が回復しているので消費。ログボは朝に取っているし、イベント周回も済ませているから他の人と話すのがメイン。でも今日は他の人がログインしていないので五分で切り上げる。それが終わるとポイ活アプリで広告を見て、今日歩いた分のポイントを六倍にしていく。

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 たくぴはじっと画面を見つめスキップボタンが出現するとゼロタイムでプッシュ。次の広告、スキップ、次の広告、スキップ、次の広告、スキップ……こうして一日が過ぎていく

つづきは本編で