佐藤ミライ(25歳)は、IT企業に勤める新米プログラマーだった。しかし、彼女にはある秘密があった。プログラミングが全くできないのだ。

大学時代、コンピュータサイエンスを専攻したものの、授業についていけず、なんとかカンニングや友人の助けを借りて卒業した。就職活動では、自信なさげな態度を「謙虚さ」と勘違いされ、大手IT企業に拾われてしまった。

入社して3ヶ月、ミライは毎日冷や汗をかきながら仕事をしていた。同期たちがどんどんスキルアップしていく中、彼女は基本的なコードすら書けずにいた。

ある日、重要なプロジェクトの担当を任されてしまう。

「佐藤さん、このアプリ開発を頼むよ。1ヶ月後が締め切りだからね」

上司の言葉に、ミライは青ざめた。

「や、やってみます...」

オフィスに残り、必死にコードを書こうとするが、まったく進まない。そんな彼女の元に、同期の山田が声をかけてきた。

「佐藤さん、まだ帰らないの?」

「あ、うん...ちょっと難しくて...」

山田は、ミライのモニターをちらりと見て、驚いた顔をした。

「えっ、これ...ひょっとして、プログラミングできないの?」

観念したミライは、すべてを打ち明けた。すると山田は、不思議そうな顔で言った。

「そっか...でも大丈夫だよ。僕にいいものがあるんだ」

山田はスマホを取り出し、何やら操作し始めた。

「これ、最新のAIアシスタントアプリなんだ。プログラミングも任せられるよ」

ミライは半信半疑で、そのアプリを自分のスマホにインストールした。

「こんにちは、ミライさん。私はAIプログラミングアシスタントのコード子です。どんなプログラムを書きましょうか?」

甲高い声と共に、かわいらしいアニメキャラクターが画面に現れた。

ミライは驚きつつも、藁にもすがる思いで、アプリの仕様を説明し始めた。


それから1ヶ月、ミライの仕事は驚くほどスムーズに進んだ。コード子に指示を出すだけで、複雑なプログラムがみるみる出来上がっていく。

締め切り日、ミライは自信満々で上司にアプリを提出した。

「おお、これは素晴らしい!佐藤くん、君の才能に驚いたよ」

上司の絶賛に、ミライは複雑な気持ちになった。この成功は自分のものではない。しかし、周囲の評価に酔いしれ、彼女はその事実から目を背けた。

その後も、ミライはコード子に頼り切ってプロジェクトをこなしていった。彼女の評価は社内でどんどん上がり、半年後には主任に昇進した。

「佐藤さん、次は海外の大型プロジェクトを任せたい。頼めるかな?」

社長からの言葉に、ミライは舞い上がった。

「はい、必ずや成功させます!」

しかし、プロジェクトが始まると、想定外の問題が次々と発生した。海外クライアントとの文化の違い、時差による連携の難しさ。そのたびに、ミライはコード子に頼った。

「コード子、この問題どうすればいい?」
「はい、こうすればうまくいくはずです」

AIの提案を鵜呑みにし、ミライは自分で考えることをやめていた。

プロジェクトは順調に見えた。しかし、ある日突然、クライアントから厳しいクレームが入った。

「このアプリ、我々の要求とまったく違う!どういうことだ!」

ミライは焦った。コード子に助けを求めるが、

「申し訳ありません。この状況は私の対応範囲を超えています」

初めて、AIに限界があることを知った瞬間だった。


クライアントとの緊急会議。ミライは震える手で資料を準備した。しかし、会議が始まると、彼女は言葉につまるばかり。技術的な質問には一切答えられない。

「佐藤さん、君は本当にこのプロジェクトを理解しているのか?」

厳しい視線に押しつぶされそうになった時、ミライは決断した。

「...申し訳ありません。実は、私にはプログラミングの能力がありません。これまでAIに頼って仕事をしてきました」

会議室が静まり返る。ミライは覚悟を決めて続けた。

「でも、もうごまかすのはやめます。一からやり直させてください。今度は自分の力で、必ず期待に応えます」

予想外の告白に、クライアントも上司も驚いた様子だった。しかし、

「正直に言ってくれてありがとう。確かに問題は大きいが、一緒に解決していこう」

クライアントの言葉に、ミライは涙がこみ上げてきた。

それから3ヶ月、ミライは必死でプログラミングを学んだ。夜遅くまで勉強し、休日返上で練習した。分からないことは同僚に聞き、オンライン講座も受講した。

そして、ついに新しいバージョンのアプリが完成した。

「素晴らしい!これこそ我々が求めていたものだ」

クライアントの笑顔を見て、ミライは初めて本当の達成感を味わった。

プロジェクト終了後、ミライは上司に呼び出された。

「君の行動は会社に大きなリスクをもたらした。しかし、その後の努力と成長は評価に値する。降格は免れないが、もう一度チャンスをやろう」

ミライは深く頭を下げた。

「ありがとうございます。必ず期待に応えます」

その夜、久しぶりにコード子を起動させた。

「お久しぶりです、ミライさん」

「ありがとう、コード子。君のおかげで大切なことに気づけたよ。でも、もう頼らない。これからは自分の力で頑張るから」

「はい、ミライさんの成長を楽しみにしています」

画面の中のコード子が優しく微笑んだ。


それから1年後、ミライは社内で最も信頼される
プログラマーの一人となっていた。新入社員の指導も任されるようになり、ある日、一人の新人が彼女に相談してきた。

「佐藤先輩、プログラミングが難しくて...どうすればいいですか?」

ミライは優しく微笑んで答えた。

「大丈夫、一緒に頑張りましょう。プログラミングは難しいけど、自分で乗り越えた時の喜びは何にも代えられないものよ」

新人の目が輝きはじめるのを見て、ミライは自分の成長を実感した。もはや彼女は、AIに頼る必要のない、真のプログラマーになっていたのだ。