「はぁ...」
深いため息が宇宙空間に漏れ出した。その主は、赤く輝く第四惑星・火星だった。
「なんだよ、また落ち込んでんの?」隣の軌道を回る地球が声をかけてきた。
「だってさ...」火星は弱々しく答える。「僕、存在感なさすぎない? 木星さんみたいにデカくもないし、土星さんみたいにカッコいい輪もない。せめて地球くんみたいに生命がいれば...」
地球は困ったように火星を見つめた。「おいおい、お前なりの魅力はあるだろ。ほら、オリンポス山とか」
「でも、誰も見に来てくれないじゃん...」
そんな会話を、太陽系の端っこで冥王星が聞いていた。
「ククク...」不敵な笑みを浮かべる冥王星。「あいつが落ち込んでる間に、僕が惑星に返り咲いてやるのさ!」
一方、火星の嘆きは続く。
「ねえ地球くん、どうしたら僕ももっと注目されるかな?」
地球は少し考え、「そうだな...体を鍛えるってのはどうだ?」と提案した。
「体を...鍛える?」
「そう、重力を増やしてさ。そうすりゃもっと存在感出るんじゃね?」
火星の目が輝いた。「それだ! でも...どうやって?」
「自重トレーニングってのがあるらしいぜ。地上の奴らが最近ハマってる」
「自重...僕の重さか」火星は真剣な表情になった。「よし、やってみる!」
こうして、火星の奇妙な自重トレーニングが始まった。
「フンッ...!」
火星が全身に力を込める。表面のクレーターがうねるように動き、赤い砂嵐が吹き荒れる。
「お、なかなかやるじゃん」地球が感心したように言う。
「これが...腹筋...ってやつ...かな?」火星は息を切らしながら答えた。
太陽系の惑星たちは、火星の奮闘ぶりを興味深く見守っていた。
「あらあら、頑張ってるわね」金星がクスクス笑う。
「無駄な努力だ」と木星。「小さい惑星の限界なんて決まってる」
そんな中、火星は黙々と自重トレーニングを続けた。
朝は「火山プッシュアップ」。オリンポス山を中心に、表面全体で上下運動。
昼は「公転スクワット」。太陽の周りを回りながら、上下動を繰り返す。
夜は「衛星リフト」。フォボスとダイモスを持ち上げる練習。
「くそっ...全然成果が出ねえ!」
何ヶ月経っても、火星の大きさは変わる気配がない。
「当たり前だ」と土星。「惑星の大きさなんて、そう簡単に変わるもんじゃない」
がっくりと肩を落とす火星。
そんな時、思わぬところから励ましの声がかけられた。
「諦めるんじゃない!」
声の主は、なんと冥王星だった。
「お前...なんで?」火星は不思議そうに尋ねた。
冥王星は少し照れくさそうに答える。「実は...お前の頑張りを見てたんだ。惑星じゃなくなった俺にとっては、まぶしいくらいでさ」
「冥王星...」
「それに」冥王星は意味ありげに続けた。「お前の中で、何かが変わり始めてる。気づいてないのか?」
火星は我に返ったように自分の姿を確認する。そして、驚愕の事実に気づいた。
「これは...まさか!」
火星の表面に、筋肉のような模様が浮き出ていたのだ。
「やったじゃねえか!」地球が声を張り上げる。
「ウソ...」金星も目を丸くした。
火星は興奮気味に語り出す。「なんか体の中から熱いものがあふれてくる! この感じ...マグマ...いや、筋肉だ!」
周囲の惑星たちもその変化に気づき始めた。
「おや? 火星くん、なんだか引力が強くなってないかい?」と水星。
「本当だ!」木星も同意する。「小さいのに、存在感がデカくなってる!」
火星は有頂天になった。「よっしゃー! これぞ筋肉は裏切らない!惑星も裏切らない!」
そんな中、地球がふと思いついた。「そうだ! この筋肉、いや、マッスル火星を見せに行こうぜ!」
「どこに?」
「決まってるだろ。地上の奴らに!」
こうして、火星は地球の人類に自らの肉体美...じゃなかった、惑星美を披露することになった。
天文台では大騒ぎになった。
「大変です! 火星の表面に未確認の構造物が!」
「いや、違う! あれは...マッスルだ!」
SNSでは「#マッスル火星」がトレンド入り。火星はまたたく間に宇宙のアイドルになった。
「火星に人類を送る計画を前倒しします!」
NASAが緊急会見を開く事態に。
「素晴らしい筋肉...いや、地形を研究せねば」
各国の科学者たちも血眼になった。
そんな騒動を、太陽系の端で眺めている者たちがいた。
「ククク...」不敵な笑みを浮かべる冥王星。「火星の次は、この俺の番だ! 見てろよ、火星。その筋肉に負けない、闇の筋肉を手に入れてやる!」
冥王星の横では、準惑星仲間のエリスとケレスもファイトを燃やし始めていた。
一方、すっかり自信をつけた火星は、得意げに宣言する。
「よーし! 次は土星のリングに負けない腹筋リングを作るぞ!」
「調子に乗るんじゃねえ!」土星が怒鳴る。
こうして、太陽系は筋トレブームに突入した。果たして、この先どんな珍事が待ち受けているのか。
...そう、全ては火星が「自重だけで鍛えた結果」だったのである。
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