俺の名前は不細工太郎。そう、親が本気で付けた名前だ。「不細工に生まれたんだから、それを逆手に取って生きていけ」なんて言われても、そんなの無理に決まってる。
高校デビューを夢見て必死に髪型や服装を工夫してみたけど、どれも空しい努力に終わった。そりゃそうだ。顔の造形からして詰んでるんだから。
今日も鏡を見て落ち込む。でこボコした額、豚鼻、そしてあご髭は剃ってもすぐに生えてくる。ため息が出る。
「ったく、こんな顔に生まれたおれが悪いのかよ!」
思わず壁を殴る。痛みで正気に戻る。
「クソッ...」
涙が頬を伝う。もう18歳。高校生活もあと少しで終わる。でも、俺には何も残らない。友達もいない。彼女なんて論外だ。
「...生きてる意味なんてあるのかな」
ベッドに倒れ込み、天井を見上げる。そんな時、スマホが震えた。
「おい、不細工太郎!今すぐジムに来い!」
同じクラスの筋肉バカ、岡田からのLINEだった。
「は?なんでだよ...」
返信しようとした瞬間、次のメッセージが届いた。
「お前の人生変えてやる。信じろ」
俺は半信半疑で返事を送った。
「わかった。行く」
ジムに着くと、岡田が待っていた。相変わらずムキムキだ。
「よく来たな、不細工太郎」
「...なんだよ」
「お前を救いに来たんだよ」
岡田は真剣な顔で言った。
「お前、鏡見て落ち込んでただろ?」
「なっ...!どうして...」
「バレバレだよ。お前の目を見りゃわかる」
岡田は俺の肩を掴んだ。
「お前の顔は変えられない。でも、体は変えられる」
「は?」
「筋トレだよ。特に、僧帽筋を鍛えろ」
岡田は俺を鏡の前に立たせた。
「見ろ。お前の肩、貧相だろ?ここを鍛えるんだ」
岡田は自分の僧帽筋をむきッとさせた。確かに、かっこいい...!
「でも、俺みたいなブサイクが筋トレしても...」
「バカ野郎!」
突然の岡田の怒声に、俺は驚いた。
「お前、ブサイクだからって人生諦めてんのか?」
「...」
「顔はどうしようもない。でも体は変えられる。そして、それが自信になる」
岡田の目は真剣そのものだった。
「...わかった。やってみる」
その日から、俺の筋トレ生活が始まった。
最初は辛かった。筋肉痛で動けない日もあった。でも、岡田が毎日励ましてくれた。
「お前、僧帽筋ついてきたぞ!」
一ヶ月後、岡田がそう言った時、俺は初めて鏡を見て喜べた。
確かに、肩周りが少し逞しくなっている。
「これが...俺の体?」
「そうだ。お前の努力の結晶だ」
岡田は満足そうに頷いた。
「でも、まだまだこれからだ。もっと鍛えろ」
その言葉に、俺は必死に頷いた。
それから半年が経った。
毎日の筋トレで、俺の体は見違えるように変わった。特に僧帽筋は立派に育ち、Tシャツを着ても分かるほどになった。
顔は相変わらずブサイクだ。でも、それを気にしなくなった。
「おい、不細工太郎!」
廊下で岡田が呼び止めた。
「どうした?」
「お前、告白されたって本当か?」
「あぁ...」
実は昨日、クラスメイトの佐藤さんから告白されたのだ。
「おめでとう!どうする気だ?」
「いや、断ったよ」
「は?なんでだよ」
俺は少し照れくさそうに答えた。
「俺には、好きな人がいるんだ」
「マジか!誰だよ」
「山田先輩...」
「バレーボール部のマネージャーか!」
岡田は驚いた顔をした。
「告白するのか?」
「ああ、今日放課後に」
「応援してるぞ!」
岡田は俺の背中を叩いた。
放課後、俺は山田先輩を呼び出した。
「不細工くん、どうしたの?」
相変わらず、俺のあだ名で呼ぶ山田先輩。でも、もう気にならない。
「先輩、俺と付き合ってください!」
真っ直ぐに目を見て言った。
山田先輩は少し驚いた顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。
「うん、いいよ」
「えっ、本当ですか!?」
「ずっと気になってたの。最近の不細工くん、なんだかカッコよくて...」
照れくさそうに言う山田先輩。
その日から、俺たちは付き合うことになった。
卒業式の日、担任の先生が俺に声をかけてきた。
「不細工くん、大きく成長したな」
「はい...」
「顔のことで悩んでいた君が、こんなに自信に満ちた顔になるなんて」
確かに、鏡を見る俺は笑顔だった。
「先生、俺、分かりました」
「何をかな?」
「ブサイクな男が生きる意味です」
先生は驚いた顔をした。
「それは何かな?」
「...僧帽筋を鍛えることです」
思わず吹き出してしまう先生。でも、俺は本気だった。
「冗談です。本当の意味は...自分を愛することです」
先生は満足そうに頷いた。
「よく頑張ったな、不細工くん...いや、太郎くん」
初めて、名前で呼んでくれた先生。
俺は胸を張って答えた。
「ありがとうございます」
そう、俺は不細工太郎だ。顔はブサイク、名前も不細工。でも、それが何だというんだ。
僧帽筋を鍛え、自信をつけ、自分を受け入れた。
これからの人生、胸を張って生きていく。
だって俺には、立派な僧帽筋があるんだから。
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