俺の名前は佐藤健太。どこにでもいる平凡な大学生だ。いや、平凡以下かもしれない。身長165cm、体重は言えないくらいふっくらしていて、顔は・・・まあ、鏡を見るのが怖いくらいだ。
そんな俺が、まさか彼女ができるなんて思ってもみなかった。
あれは春の終わり頃だったと思う。大学の図書館で試験勉強をしていた俺は、ふと隣の席を見た。そこには、まるで絵から抜け出してきたような美少女が座っていた。
長い銀髪、透き通るような白い肌、そして宝石のように輝く紫色の瞳。彼女は本を逆さまに持ち、真剣な顔で読んでいた。
(ヤバい、見とれちゃった・・・)
慌てて目をそらそうとした瞬間、彼女と目が合った。
「あら、あなたもタコ星人?」
突然、彼女がそんなことを言い出した。
「え?タ、タコ星人?」
「違うの?ごめんなさい。でも、あなたから強いタコのオーラを感じたわ」
彼女は真顔でそう言った。俺は何が何だか分からず、ただ呆然としていた。
「私の名前は月城アリア。あなたは?」
「あ、佐藤健太です・・・」
「健太くん!私、あなたのこと気に入ったわ。付き合ってください!」
図書館内に彼女の声が響き渡った。周りの視線が一斉に俺たちに集まる。
(え?えええええ!?)
俺の頭の中はパニックに陥っていた。だが、アリアは構わず俺の手を取り、図書館の外へと連れ出した。
そして、俺の人生は思わぬ方向へと転がり始めたのだった。
それから一週間が経った。俺とアリアは毎日顔を合わせるようになっていた。彼女は本当に「変な人」だった。でも、不思議と居心地が良かった。
ある日、俺たちは大学の中庭でお弁当を食べていた。
「健太くん、この前ね、宇宙人と交信したの」
アリアは当たり前のように言った。
「へえ、それで何て言ってたの?」
馬鹿にされると思ったのか、俺が普通に返事をすると、アリアは目を輝かせた。
「健太くんは信じてくれるのね!嬉しいわ!」
そう言って、アリアは俺に抱きついてきた。周りの視線が痛い。羨望と軽蔑が入り混じった視線だ。
(俺なんかが、こんな美人と・・・)
そんな罪悪感と幸福感が入り混じる中、アリアは続けた。
「宇宙人はね、『地球の平和は君たち次第だ』って」
「そっか・・・って、それ重大じゃない!?」
俺が驚いていると、アリアは急に立ち上がった。
「そうだわ!私たちで地球を救いましょう!」
そう言って、アリアは俺の手を引っ張り、走り出した。
「ちょ、ちょっと待って!」
俺は慌てて付いていった。
それからの数日間、俺たちは「地球を救う」という名目で、街中をかけずり回った。公園の掃除をしたり、お年寄りを手伝ったり、時には道行く人に「愛と平和」を説いたり・・・。
正直、恥ずかしい思いをすることも多かった。でも、アリアの真剣な顔を見ていると、何だか楽しくなってきた。
そんなある日、俺たちは街の中心で「愛と平和」のスピーチをしていた。
「皆さん、聞いてください!地球の未来は私たち次第なのです!」
アリアの声が街に響く。人々は怪訝な顔で俺たちを見ている。
(ヤバい、警察呼ばれるんじゃ・・・)
俺がそう思った瞬間だった。
「お前ら、何やってんだ!」
見知らぬ男性が怒鳴りつけてきた。
「こんな場所で騒ぐな!迷惑だ!」
男性は明らかに怒っていた。俺は震える足で一歩前に出た。
「す、すみません・・・僕たち・・・」
「健太くん」
アリアが俺の肩に手を置いた。
「大丈夫よ。愛は必ず伝わるわ」
そう言って、アリアは男性に向き直った。
「おじさん、あなたも愛されていますよ」
「は?」
男性が困惑する中、アリアは優しく微笑んだ。
「世界中の誰もが、愛する価値のある人。おじさんも、きっと誰かを愛し、誰かに愛されている。そんな素敵な人なんです」
男性の表情が少しずつ和らいでいく。
「私・・・私たちは、そのことを伝えたかっただけなんです」
アリアの言葉に、周りの人々も足を止めた。
男性は黙ってその場を立ち去った。でも、最後にちらりと振り返った彼の顔は、柔らかな表情に変わっていた。
あれから1ヶ月が経った。俺とアリアの関係は、周りから見ればますます奇妙なものになっていった。でも、俺にとっては居心地の良い日々だった。
そんなある日、アリアが俺の家に来た。
「健太くん、話があるの」
アリアの表情は、いつになく真剣だった。
「実は・・・私、本当は宇宙人なの」
「え?」
「嘘じゃないわ。私は、この星の人々の心を観察するために来たの」
俺は黙って聞いていた。
「最初は、みんな自分勝手で、愛のない人たちだと思った。でも、健太くんと過ごすうちに、違うことに気がついたの」
アリアは俺の目をまっすぐ見つめた。
「人間には、素晴らしい可能性がある。それを引き出すのは、愛なのよ」
俺は、アリアの言葉の意味を少しずつ理解し始めていた。
「健太くん。あなたは自分のことを『弱者』だと思っているでしょう?でも、違うの」
アリアは俺の手を取った。
「あなたには、誰よりも大きな愛がある。それは、とてつもない強さなのよ」
俺の目から、涙がこぼれ落ちた。
「私、もう地球に残ることにしたの。健太くんと一緒に、もっとこの星のみんなに愛を伝えていきたいの」
アリアの瞳に、決意の光が宿っていた。
「アリア・・・俺も、一緒に頑張りたい」
俺はアリアをぎゅっと抱きしめた。
それから数年後。俺とアリアは結婚し、小さなNPO法人を立ち上げていた。「愛と平和を広める会」。最初は変人扱いされたけど、今では地域に欠かせない存在になっている。
俺はまだ、自分のことを完全に受け入れられてはいない。でも、アリアと過ごす毎日が、少しずつ俺を変えている。
弱者だと思っていた俺に、こんな幸せが訪れるなんて。
アリアが宇宙人だったかどうかは、今でもよく分からない。でも、それはもう重要じゃない。
彼女は俺の、かけがえのない伴侶だ。そして俺たちは、この星にもっと愛を広げていく。
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