ワイは典型的なニートや。25歳にもなって、毎日家でゴロゴロしとるだけの人生や。親からの小言もシカトしとるし、友達からの誘いも無視しとる。そんなんばっかりしとったら、友達もおらんくなったけどな。

「おい、いつまで寝とんねん!」

朝の10時、マッマの怒鳴り声で目が覚める。ワイは布団にもぐりこんだまま、スマホをいじり始める。

「はぁ...なんもおもろないわ」

なんJを見ても、ゲームをしても、全然楽しくない。でも、外に出る元気もない。そんな日々が続いとった。

ある日のこと。珍しくパッパが仕事から早く帰ってきた。

「お前なぁ、いい加減になんかせえへんか?」

パッパの声には疲れが混じっとる。ワイも心の中では分かっとる。このままじゃアカンって。でも、どうすりゃええんか分からへんのや。

「ワイにできるバイトなんてあらへんで...」

そう言うワイに、パッパは珍しく優しい顔をした。

「実はな、ええバイトがあるんや。ワイの会社の関連企業なんやけど...」

パッパの話を聞いて、ワイは目を丸くした。

「ウサギの穴に潜る...?それってどういう...」


翌日、ワイはパッパに教えてもらった会社に向かっとった。建物の前に立つと、なんか不思議な雰囲気や。

「ようこそ、『ワンダーランド』へ」

受付のお姉さんがニコッと笑う。なんやこの会社、怪しすぎるやろ...

説明を聞いてビックリ。この会社、ホンマにウサギの穴に潜るバイトをしとるんや。でも、ただの穴やない。VR技術を使った、全く新しい体験型アトラクションらしい。

「お客様に不思議の国を体験してもらうんです。そのために、ウサギの穴に潜れる人材が必要なんですよ」

担当者の説明を聞いて、ワイは興味津々や。こんなバイト、他にあらへんやろ。

「やってみます!」

ワイの返事に、担当者は満面の笑みを浮かべた。

研修は思った以上にキツかった。VR機器の使い方、お客様への接し方、緊急時の対応...覚えることいっぱいや。でも、なんかおもろい。

初めてウサギの穴に潜ったときは、ホンマにビビった。まるで本当に落ちていくみたいや。でも、そのスリルがたまらん。

「これ、案外ワイに向いとるかもしれんな...」


1ヶ月経って、ワイはすっかりウサギの穴マスターになっとった。

「おい、新人!今日のお客様、VIP様やで!しっかりやれよ!」

先輩の声に、ワイは緊張しながらもニヤリと笑う。

「任せてください!ワイがお客様を最高の不思議の国にお連れしますよ!」

VR機器を装着して、ウサギの穴に飛び込む。お客様と一緒に、不思議な世界を冒険する。トランプの兵隊から逃げたり、チェシャ猫と話したり...

「わぁ!すごい!本当に不思議の国みたい!」

お客様の歓声を聞くたびに、ワイの胸が熱くなる。こんなに人を喜ばせられるなんて、ニートのときは想像もできへんかった。

帰り際、そのVIPのお客様が言うた。

「あなた、とっても良かったわ。また来るから、その時もよろしくね」

ワイは思わず顔を赤らめた。こんな風に褒められるの、初めてや...

その日の夜、久しぶりに家族で飯を食うことになった。

「お前、最近イキイキしとるな」

パッパの言葉に、ワイは照れくさそうに頷く。

「そやな...なんかおもろいわ、このバイト」

マッマは嬉しそうに微笑んどる。

「良かったわ。これからも頑張りや」

ワイは決意した。もう、あのニートの日々には戻らへん。ウサギの穴に潜り続けて、もっともっとおもろい世界を見てみたい。

そして、いつかは自分で新しい不思議の国を作り出すんや。

「よっしゃ!明日も頑張るで!」

ワイは早々に布団に入った。明日はどんなお客様が来るんやろ。どんな冒険ができるんやろ。

そんなワクワクを胸に、ワイは目を閉じた。夢の中でも、きっとウサギの穴に潜り続けるんやろうな...


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