俺の名前は佐藤健太。27歳、独身。IT企業でコードを書く毎日を送る、いわゆる底辺エンジニアだ。

「はぁ...またか」

スマホの画面を見つめながら、俺は深いため息をついた。マッチングアプリで送ったメッセージ。既読すらつかない。これで10人目だ。

「やっぱり俺みたいなヒョロガリじゃダメなのかな...」

鏡に映る自分の姿。細い腕、薄っぺらな胸板。確かにこれじゃモテないわけだ。

その時、ふと目に入ったのは、部屋の隅に置いてあるダンベル。大学時代に買ったきり、ほこりをかぶっていた。

「そうだ...筋トレだ!」

俺は突然立ち上がった。もう、こんな自分から変わってやる。でも...

「ジムか...高いしな。それに人の目が気になるし...」

悩んだ末、俺は決意した。

「よし、自重トレーニングで行こう!金もかからないし、家でできる。これなら続けられるはずだ」

こうして、俺の自重トレーニング生活が始まった。


「1...2...3...うっ!」

プッシュアップで腕が震える。最初は5回が限界だった。

「くそ...まだまだだ!」

スクワットで足が笑う。10回でへたり込む自分が情けない。

「負けるもんか!」

腹筋で腹が焼けるような痛み。でも、3日目にして回数が増えてきた。

毎日の積み重ね。辛いが、確実に体が変わっていく。1ヶ月が過ぎ、2ヶ月。気づけば半年が経っていた。

「おお...」

鏡の前で思わず声が漏れる。引き締まった腹筋、大きくなった胸板、たくましくなった腕。

「これが、自分の体...?」

驚きとともに、自信が湧いてきた。

マッチングアプリ? もう見向きもしない。むしろ、外を歩くのが楽しくなった。

「あの...すみません」

ある日、街中で声をかけられた。振り返ると、可愛い女の子が立っていた。

「もしかして、モデルさんですか?」

俺は思わず吹き出しそうになった。底辺エンジニアの俺が、モデル?

「いや、ただのエンジニアです」

「え?でも、その体...すごくかっこいいです」

照れくさそうに言う彼女。俺は思わず頬が緩んだ。


あれから1年。俺の人生は大きく変わった。

マッチングアプリ?もう必要ない。街を歩けば、自然と声がかかる。筋トレ仲間も増えた。

「健太さん、次の技術書典で筋トレ本出しませんか?」

会社の上司が真剣な顔で言う。どうやら、社内で俺の変貌ぶりが評判になっていたらしい。

「えっ、でも僕はただの...」

「いや、君はもう『ただの』エンジニアじゃない。筋肉エンジニアだ!」

そう言って、上司は大笑いした。

結局、その企画は通った。『エンジニアのための自重筋トレ入門 〜コードと筋肉は同時に鍛えろ〜』

予想外にヒットし、俺は「筋肉エンジニア」として有名になった。

講演依頼も来るようになった。そこで出会ったのが、今の彼女だ。

「健太さんの話、感動しました。私も頑張ろうって思えました」

彼女はトレーニング後の俺に、そう言って笑顔を向けた。

今じゃ二人で筋トレするのが日課だ。マッチングアプリなんて、遠い過去の話。

自重トレーニングが教えてくれた。大切なのは、自分を信じること。そして、コツコツ努力すること。

それさえあれば、人生はどんどん面白くなる。

俺は今日も、自重トレーニングに励む。未来の自分に、また会うために。


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