高校2年生の佐藤美咲は、クラスで一番の読書嫌い。国語の授業で本を読めと言われるたびに、ため息をつく日々を送っていた。

「もう!なんで本なんか読まなきゃいけないのよ!」

そんな美咲に、担任の山田先生が声をかけた。

「美咲、君はなぜそんなに本が嫌いなの?」

「だって、時間がかかるし、眠くなるし...それに、スマホで動画見てる方が楽しいもん」

山田先生は少し考え込んだ後、にっこりと笑った。

「じゃあ、これを試してみない?」

そう言って、山田先生は自分のスマートフォンを取り出し、イヤホンを美咲に渡した。

「えっ、これ...」

「ああ、オーディオブックアプリだよ。最近流行ってるんだ。本を朗読してくれるんだ」

半信半疑で、美咲はイヤホンを耳に入れた。すると、心地よい声が流れてきた。それは美咲の大好きな声優さんの声だった。

「えっ!これ、逢坂良太さんの声じゃない!?」

「そう、最近は有名な声優さんや俳優さんが朗読を担当することも多いんだ。どう?面白そう?」

美咲は驚きの表情を浮かべながら、うなずいた。


それから、美咲の生活は一変した。通学中も、家事の合間も、寝る前も、いつもイヤホンを耳にしている。

「ねえねえ、美咲!最近イヤホンばっかりしてるけど、何聴いてるの?」

親友の由香が尋ねた。

「これね、オーディオブックっていうの。すっごく面白いの!」

美咲は興奮気味に説明を始めた。

「今ね、『君の名は。』を聴いてるんだけど、神木隆之介くんと上白石萌音ちゃんが朗読してて...もう、世界観にどっぷり浸れるのよ!」

由香は目を丸くした。

「えっ、マジで!?私も聴いてみたい!」

そして、クラスメイトたちの間で、オーディオブックの話題が広がっていった。

ある日の放課後、図書委員長の健太が美咲に話しかけてきた。

「ねえ、佐藤さん。君、最近本をよく聴いてるって聞いたんだけど...」

「うん、そうだよ。どうしたの?」

「実は...図書室の利用者が減ってて。このままじゃ、予算削減されちゃうかもしれないんだ」

健太は悲しそうな顔をした。美咲は少し考えてから、パッと顔を明るくした。

「あのさ、いいアイデアがあるんだけど...」


数週間後、学校の図書室は大きく変わっていた。

「はい、これが私たちの新しい図書室です!」

美咲が晴れやかな表情で説明する。そこには、従来の本棚に加えて、小さなブースがいくつも設置されていた。

「これは...?」

校長先生が不思議そうに尋ねる。

「朗読ブースです!ここでオーディオブックを聴くことができます。もちろん、スマホで聴きたい人用にQRコードも用意してあります」

健太が補足する。

「そうそう!それに、この棚を見てください」

美咲が指さした先には、「今月のおすすめ朗読」という札が。

「ここには、紙の本と一緒にオーディオブック版のQRコードを置いてあります。本を読むのが苦手な人でも、朗読なら楽しめるかもしれません」

校長先生は感心した様子で頷いた。

「素晴らしいアイデアだ。これなら、みんなが図書室を使いたくなるね」

その言葉通り、新しい図書室は大人気となった。休み時間になると、多くの生徒が朗読ブースに集まるようになる。

ある日、美咲は図書室で本を手に取っていた。

「あれ?美咲、珍しく本を読んでるの?」由香が驚いた様子で聞いた。

美咲は少し照れくさそうに答えた。

「うん。この前聴いた本があまりにも面白くて...原作も読んでみたくなったの」

由香はにっこりと笑った。

「へえ、すごいじゃん。朗読のおかげで本も好きになれたんだね」

美咲は頷いた。

「そうなの。朗読を聴くうちに、頭の中でいろんなイメージが浮かぶようになって...今度は自分で読んでみたいなって思ったの」

そして、美咲は由香に向かって言った。

「ねえ、私ね、将来は朗読の仕事がしたいの」

「えっ、本当に?」

「うん。私みたいに本が苦手だった人に、朗読の素晴らしさを伝えたいの。それに...」

美咲は少し恥ずかしそうに続けた。

「いつか、自分の声で誰かを本の世界に連れていけたら...って」

由香は美咲の手を取った。

「素敵な夢だね。応援するよ!」


それから5年後、美咲は声優養成所を卒業し、朗読の仕事をするようになった。彼女の朗読するオーディオブックは、特に若い世代に人気だ。

そして、美咲の母校では今でも「朗読図書室」の伝統が続いている。読書嫌いだった生徒たちが、朗読をきっかけに本の世界に触れる。そんな光景が、今日も学校のどこかで見られるのだ。

美咲は時々、母校を訪れては朗読会を開く。そんな彼女の口癖は、

「小説を読むのは時間の無駄なんかじゃない。でも、朗読から始めてみるのもアリだよ。だって、時代は朗読だからね!」


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