夏の暑さが頂点に達する8月15日。22歳の大学生、佐藤翔太はエアコンの効いた自室でスマートフォンを片手に退屈そうにベッドに横たわっていた。実家に帰省するはずだったが、バイトのシフトが突然入り、お盆の帰省を諦めざるを得なくなったのだ。

「はぁ...みんな帰省してるのに、俺だけか...」

翔太は溜め息をつきながら、暇つぶしにダウンロードしたばかりのマッチングアプリを開いた。プロフィールを設定し、興味のある相手を探し始める。

数分後、突如として画面が明るく光り、「マッチングしました!」という通知が表示された。

「えっ、こんな早く?」

驚きながらも、翔太は相手のプロフィールを確認した。

名前:佐藤 舞(さとう まい)
年齢:22歳
職業:学生
趣味:お茶、生け花

「へぇ...同い年か。しかも苗字も一緒...」

翔太は少し興味を持ちつつ、メッセージを送ることにした。

翔太:「はじめまして!マッチングありがとうございます。同い年なんですね。」

すぐに返信が来た。

舞:「こんにちは。はい、同い年ですね。お盆なのに、お家にいらっしゃるんですか?」

翔太:「ええ、バイトが入っちゃって...舞さんは?」

舞:「私は...ちょっと特別な事情で、今日だけこちらに来ています。お茶でも一緒にいかがですか?」

翔太は少し躊躇したが、せっかくの機会だと思い、約束をした。


約束の時間、翔太は緊張しながら待ち合わせ場所の古風な和カフェに到着した。店内に入ると、端正な顔立ちの和服姿の女性が座っているのが目に入った。

「あの...舞さんですか?」

女性がゆっくりと顔を上げる。その瞬間、翔太は息を呑んだ。彼女の姿は、まるで時代劇から抜け出してきたかのようだった。

「はい、舞です。お待ちしていました、翔太さん」

その声は、不思議と懐かしく、心地よかった。二人は席に着き、お茶を注文した。

会話が進むにつれ、翔太は舞の物腰の古風さや、知識の深さに驚かされた。そして、ある疑問が湧き上がってきた。

「舞さん、失礼かもしれませんが...どこか昔の人みたいな雰囲気がするんです」

舞はにっこりと微笑んだ。

「よく気づきましたね。実は...私はあなたの先祖なんです」

翔太は茶碗を取り落としそうになった。

「え?冗談でしょう?」

「いいえ、本当です。私は江戸時代末期に生きていた佐藤家の娘。あなたの5代前のひいひいひいおばあさんにあたります」

翔太は言葉を失った。しかし、舞の真剣な表情を見て、これが現実だと理解せざるを得なかった。


「でも...どうして僕とマッチングしたんですか?」

舞は少し厳しい表情を浮かべた。

「あなたを見ていたら、最近の生活が気になってね。お盆なのに先祖を敬う気持ちが薄れているようで...」

翔太は恥ずかしさで顔が赤くなった。確かに、最近は仏壇の手入れも疎かになっていた。

「ごめんなさい...」

「謝る必要はありませんよ。ただ、忘れないでほしいの。私たち先祖は、あなたたちの幸せを願っています。だからこそ、時々は思い出してくださいね」

舞の優しい笑顔に、翔太は胸が熱くなった。

「はい、約束します。これからはちゃんと先祖のことも考えます」

「それでいいの。あ、そうそう。恋愛のことも気になっていたわ」

「え?」

「マッチングアプリばかりじゃなく、実際に出会いの場に足を運んでみては?きっと素敵な人に出会えるわよ」

翔太は照れくさそうに頷いた。

「ありがとうございます。舞さん...いや、ご先祖様」

舞は立ち上がり、翔太の頭をそっと撫でた。

「さて、私はそろそろ戻らないといけないわ。あなたの人生、しっかり見守っていますからね」

そう言うと、舞の姿はゆっくりと透明になっていった。

翔太は呆然としながらも、不思議と心が温かくなるのを感じた。

その日から、翔太の生活は少しずつ変わり始めた。仏壇の手入れを欠かさず、地域の行事にも積極的に参加するようになった。そして、舞のアドバイスを胸に、実際の出会いの場にも足を運ぶようになった。

次のお盆、翔太は笑顔で実家に帰省した。仏壇の前で手を合わせながら、ふと舞の顔を思い出す。

「ご先祖様、見ていてください。僕、頑張ります」

静かな仏間に、かすかな笑い声が聞こえた気がした。


204幽霊になった私2

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