「よっしゃ!これで今日のトレーニングも終わりや!」

鏡に映る自分の姿を満足気に眺めながら、俺こと佐藤誠は汗を拭った。筋骨隆々の肉体は、毎日欠かさず続けてきた筋トレの賜物だ。

そう、俺は小説家なんだ。でも、ただの小説家じゃない。「筋肉系ラノベ作家」として、業界でその名を轟かせている。

俺の代表作『転生したらマッチョだった件』は、なんと累計100万部を突破。続編の『筋トレしたらチート能力になったんだが』も50万部のヒット作だ。

「誠さん、原稿まだですか?」

スマホに届いた担当編集の村上さんからのLINE。締め切りまであと3日。

「あかん...全然進んでへん...」

パソコンの前に座る。真っ白な画面とにらめっこ。

カタカタ...カタ...

「うーん、あかんな。全然アイデア出えへん」

ここ最近、小説が全然書けなくなっていた。どうしてだろう。

「そうや!筋トレのし過ぎで、脳に栄養いってへんのかも!」

俺は閃いた。よし、明日から筋トレやめよう。そうすれば、きっとまた小説が書けるようになるはず!


「はぁ...はぁ...」

階段を上がっただけで息が切れる。筋トレをやめて1ヶ月。みるみる筋肉が萎えていく。

「おーい、誠!元気か?」

幼馴染の健太が俺の部屋を訪ねてきた。

「うわっ!お前どないしたんや!?」

驚愕の表情を浮かべる健太。

「ちょっと筋トレ休憩中なんや。小説に集中するためにな」

「そ、そうか...」

心配そうな健太。だが、俺には関係ない。今は小説に集中するときなんだ。

カタカタ...カタ...

「くそっ!全然書けへん!」

筋トレをやめても、一向に小説が進まない。それどころか、以前より更にダメになっている気がする。

「佐藤先生、このままじゃ連載打ち切りになりますよ?」

村上さんの声が厳しい。

「わ、分かってます。もう少し待ってください...」

焦る俺。だが、パソコンに向かえば向かうほど、文章が書けなくなっていく。

「もしかして...筋トレやめたのが間違いやったんか?」

疑問が頭をよぎる。だが、今さら後戻りはできない。

締め切りはどんどん近づいてくる。俺の筋肉も、才能も、どんどん萎えていく...。


「もう...ダメや...」

締め切り当日。俺はベッドに寝そべったまま、天井を見つめていた。

「ん?」

ふと、目に入ったポスター。それは、かつての俺、筋骨隆々の姿が写っている。

「...!」

その時、俺は気づいた。ポスターの俺の僧帽筋が、まるで俺に語りかけてくるかのように見える。

「そうか...わかったで」

俺はゆっくりと立ち上がった。そして、部屋の隅に追いやっていたダンベルを手に取る。

「ふんっ!」

懐かしい感覚。僧帽筋に力が入る。

「おおっ!」

突如、頭の中でアイデアが溢れ出す。

カタカタカタカタ!

「村上さん!原稿できました!」

「えっ!?本当ですか!?」

驚く村上さん。俺は一気に書き上げた原稿を送信した。

『筋トレをやめた小説家の末路 〜僧帽筋が教えてくれた大切なこと〜』

「こ、これは...!素晴らしい!」

村上さんの声が弾んでいる。

「誠くん、これ絶対ヒットするわ!」

その言葉通り、この小説は大ヒットした。

「筋トレと小説、両立できるんやな」

俺は、再び鍛え上げられた僧帽筋を鏡で眺めながら、にっこり笑った。

それからというもの、俺の小説はさらに進化を遂げた。

『僧帽筋で異世界を制す』
『筋トレしたら文才が上がった件について』
『マッスル・イノベーション 〜筋肉が小説を救う〜』

次々とヒット作を生み出す俺。

「誠さん、この調子でどんどん書いてくださいね!」

「任せてください!僕には無限の可能性がある筋肉と、それを言葉に変える才能があるんですから!」

そう、俺にとって筋トレと執筆は、もはや切っても切り離せないもの。僧帽筋を鍛えれば鍛えるほど、俺の創造力は高まっていく。

「よーし、今日も50ページ書いて、それからデッドリフト3セットや!」

俺は、パソコンに向かいながら、ダンベルを手に取った。

これが、筋骨隆々のラノベ作家、佐藤誠の新たな日常。筋肉と文才、両方を極めし者の物語は、まだまだ続いていくのであった。