俺、佐藤太郎。25歳、職歴なし、彼女いない歴=年齢のニート。
毎日、布団の中でスマホをいじりながら、「明日こそは…」と思いつつ、結局何もしない日々を過ごしていた。
ある日、いつものようにネットサーフィンをしていると、ある記事が目に飛び込んできた。
『自重トレーニングで、驚異の肉体改造!』
「へぇ…」と軽い気持ちでクリックした記事が、俺の人生を大きく変えることになるとは、この時はまだ知る由もなかった。
記事には、お金も道具も必要ない、自分の体重だけを使ったトレーニング方法が詳しく書かれていた。プッシュアップ、スクワット、プランク…。どれも家の中でできるものばかりだ。
「これなら…俺にもできるかも…」
その夜、俺は決意した。明日から、この自重トレーニングを始めてみようと。
翌朝、目覚ましのアラームが鳴る。いつもなら二度寝するところだが、今日は違う。俺は重い体を引きずりながらも、起き上がった。
「よし、やるぞ!」
そう自分に言い聞かせ、おそるおそる最初のプッシュアップに挑戦した。
「1…2…3…うっ!」
たった3回で腕が震え、床に崩れ落ちた。
「まじか…俺ってこんなに弱かったのか…」
ショックを受けつつも、俺は諦めなかった。むしろ、この惨めな現状が、俺の闘志に火をつけた。
「くそ…絶対に変わってやる!」
その日から、俺の地道な自重トレーニングが始まった。
最初の一ヶ月は地獄だった。
毎日筋肉痛との戦い。思うように体が動かない。それでも、俺は諦めなかった。
プッシュアップは3回から始まり、少しずつ回数を増やしていった。スクワットも同じだ。プランクは最初10秒も持たなかったが、少しずつ時間を伸ばしていった。
「7…8…9…10!」
プッシュアップが10回できた日、俺は小さな達成感を味わった。こんな気持ち、いつ以来だろう。
トレーニングを始めて2ヶ月が経った頃、俺の体に少しずつ変化が現れ始めた。
腕の筋肉が少し盛り上がってきた。腹筋にうっすらと割れ目が見えるようになった。
鏡の前で上半身裸になり、自分の体を見つめる。
「おお…これが俺の体か?」
小さな変化だが、俺にとっては大きな自信になった。
3ヶ月目に入ると、俺のトレーニングにさらなる進化が訪れた。
インターネットで調べ、より高度な自重トレーニングを取り入れ始めた。懸垂、ディップス、片足スクワット…。
最初はできなかった種目も、諦めずに挑戦し続けた。
「くそっ…今日も懸垂1回だけか…でも、明日は2回できるはずだ!」
そんな日々が続いた。
半年が経つ頃には、俺の体は驚くほど変わっていた。
かつてのダメニートの面影はどこにもない。代わりに、逞しい筋肉に覆われた体が、鏡に映っていた。
「すげぇ…俺、イケメンになったんじゃね?」
思わず、ドヤ顔で筋肉を自撮りしてしまった。
トレーニングを始めて1年。
俺の体は完全に生まれ変わっていた。腹筋は6つに割れ、胸筋は立派に盛り上がり、背中はV字を描いている。
両親も俺の変化に気づいていた。
「太郎、最近体がたくましくなったね。」
「ああ、毎日トレーニングしてるんだ。」
「それはいいけど…仕事の方は?」
そう。体は変われど、俺の生活は変わっていなかった。相変わらずニートのままだ。
だが、トレーニングで培った自信と根性は、俺に新たな挑戦への勇気を与えてくれた。
「よし、仕事探すぞ!」
俺は意を決して、就職活動を始めた。
最初は苦戦した。ニート歴が長すぎて、面接すら通らない。
でも、トレーニングで学んだ諦めない心で、コツコツと活動を続けた。
そんなある日、地元のスポーツジムの求人を見つけた。
「トレーナー募集…か。」
迷わず応募した俺は、見事面接にこぎつけた。
面接官は俺の経歴を見て眉をひそめたが、俺の体を見て驚いた顔をした。
「こ、この体は…?」
「はい、自重トレーニングだけで作りました。」
俺は自信を持って答えた。そして、自分がどのようにトレーニングを続け、体を作り上げてきたかを熱く語った。
面接官は感心した様子で俺の話を聞いていた。
「君のような熱意のある人材を探していました。ぜひうちで働いてみませんか?」
こうして、俺はスポーツジムのトレーナーとして働き始めた。
ニートだった過去を隠すことなく、むしろそれを武器にした。
「僕も昔はニートでした。でも、自重トレーニングで人生が変わりました。皆さんも、諦めずに頑張れば必ず変われます!」
そんな俺の言葉に、多くの人が励まされ、目標を持ってトレーニングに励むようになった。
今では、俺のパーソナルトレーニングは予約でいっぱいだ。
「マッチョなニートトレーナー」として、地元で人気者になってしまった。
ある日、仕事帰りに立ち寄った本屋で、ふと目にした一冊の本。
『ダメだと思っているあなたへ ~自重トレーニングで人生を変える方法~』
そう、俺の本だ。出版社からオファーがあって書いた自己啓発本が、なんとベストセラーになっていたのだ。
「マジか…」
驚きを隠せない俺の元に、一人の少女が近づいてきた。
「あの、サインしてもらえませんか?」
照れくさそうに本を差し出す少女に、俺は優しく微笑んだ。
「もちろんです。君も、自分の可能性を信じて頑張ってください。」
サインをした本を少女に渡しながら、俺は思った。
あの日、ダメニートだった俺が記事をクリックしなかったら、今の俺はなかった。
人生は、ほんの些細なきっかけで大きく変わる。
大切なのは、そのきっかけを掴んで離さないこと。そして、諦めずに続けること。
俺は今日も、自重トレーニングを欠かさない。
なぜなら、これからも俺は、もっともっと強くなりたいから。
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