俺、山田太郎。25歳、コンビニバイト。人生の目標は「最強の肉体を手に入れること」。

毎日3時間の筋トレ。プロテインは1日5回。休日は筋トレ動画を見漁る。そんな生活を5年間続けてきた。

「これで絶対モテるはずだ…!」

そう信じて疑わなかった。でも現実は厳しかった。

筋肉だけはムキムキなのに、彼女どころか友達すらいない。バイト先の女子たちにはドン引きされる日々。

ある日、いつものようにジムに向かう途中、突然の豪雨。

「くそっ、今日のトレーニングが…!」

必死で走る俺。そして、それは起こった。

ずぶぬれになった俺は、足を滑らせて転倒。右腕を強打し、骨折してしまったのだ。

「うわああああ!俺の筋肉がぁぁぁ!」

泣き叫ぶ俺。だが、この「悲劇」こそが、俺の人生を大きく変えることになるとは、まだ知る由もなかった。


「2ヶ月は安静に」

医者の言葉に、俺は絶望した。筋トレなしの2ヶ月なんて、地獄としか思えなかった。

最初の1週間、俺は鬱々としていた。だが、そんな時に思わぬ出来事が…。

「山田君、大丈夫?」

バイト先の同僚、佐藤さやかが優しく声をかけてきたのだ。

「え?あ、はい…」

驚く俺。今まで俺に興味なさそうだったさやかが、こんな風に話しかけてくるなんて…。

それからというもの、周りの態度が変わり始めた。

「太郎君って、意外と優しいのね」
「山田さん、実は面白い人だったんだ!」

筋トレの話ばかりしていた俺が、普通の会話をするようになったからだ。

そして、驚くべきことに…

「那由多さん、付き合ってください!」

なんと、学生時代の憧れの人、綾小路那由多から告白されたのだ!

「ええ、喜んで♡」

俺は舞い上がった。夢にまで見た那由多との恋愛が始まったのだ。

だが、この幸せな日々は長くは続かなかった…。


那由多との交際から1ヶ月。俺の人生は180度変わっていた。

友達もでき、バイト先でも人気者に。そして、最愛の彼女もできた。

「筋トレやめて正解だったんだ…」

そう思っていた矢先、衝撃の事実が発覚する。

「太郎くん、実は…あなたが筋トレをやめたから付き合ったわけじゃないの」

那由多の告白に、俺は驚愕した。

「実は、前から太郎くんのことが好きだったの。でも、筋トレのことしか考えてない太郎くんに近づけなくて…」

那由多の言葉に、俺は愕然とした。そして、周りの友人たちも似たようなことを言う。

「お前、筋トレやめてから性格変わったみたいで、話しかけやすくなったんだよ」
「山田さんの優しさが、筋肉に隠れてたんですよ」

その時、俺は気づいた。

俺をダメにしていたのは筋トレじゃない。筋トレに執着するあまり、人とのつながりを無視していた「俺自身」だったんだ。

「みんな…ごめん。そして、ありがとう」

涙を流す俺。那由多が優しく抱きしめてくれた。

それから数ヶ月後。

「よーし、今日も適度な運動だ!」

ジョギングを終えた俺は、那由多と手をつないで帰路につく。

筋トレ狂いの俺は消えた。でも、健康的な生活は続けている。

そして何より、人々とのつながりを大切にする俺がいた。

「筋トレをやめて気づいたよ。本当の強さってのは、周りの人を大切にする心なんだって」

夕日を見ながら、俺は那由多にそうつぶやいた。

これからの人生。俺は、本当の意味で「強く」生きていくつもりだ。

終わり