高校2年生の佐藤健太は、クラスで浮いた存在だった。チー牛と呼ばれる典型的な外見——短髪、黒縁眼鏡、そして少し丸みを帯びた体型——を持つ彼は、いつも一人で過ごしていた。

休み時間、健太はいつものように教室の隅で携帯ゲームに没頭していた。周りではクラスメイトたちが楽しそうに談笑している。その中に、健太が密かに想いを寄せる美少女・桜井麻衣の姿もあった。

「はぁ...」健太はため息をつく。「どうせオレなんか...」

そんな彼の耳に、麻衣の声が届いた。

「ねえねえ、明日の体育祭で騎馬戦あるじゃん?誰が騎手やるの?」

クラスメイトの男子が答える。「うーん、やっぱ運動部の奴らかな。あいつら体力あるし」

その言葉を聞いた健太は、自分の非力な体を見つめた。「オレなんか、誰も担げないよな...」

放課後、いつものようにコンビニでチーズバーガーを買って帰る道すがら、健太は空を見上げた。

「このままじゃ...ダメだ」

その夜、健太は決意した。自分を変えるために、何かを始めようと。


翌日の体育祭。健太は観客席から、クラスメイトたちが活躍する姿を眺めていた。特に麻衣が笑顔で走る姿に、胸が高鳴る。

「オレも...あんな風に輝きたい」

体育祭が終わり、帰り道。健太は公園を通りかかった。そこで、一人の男性が鉄棒で懸垂をしているのを目にする。

「すげえ...」思わず声が漏れる。

男性は健太に気付き、話しかけてきた。

「君も興味あるのかい?これ、自重トレーニングってやつさ。ジムに行かなくても、自分の体重だけで鍛えられるんだ」

健太の目が輝いた。「自分の...体重だけで?」

男性は健太に基本的な自重トレーニングを教えてくれた。腕立て伏せ、スクワット、プランク...。

その夜、健太は自室で初めての自重トレーニングに挑戦した。

「うっ...きつ...」

たった5回の腕立て伏せで、腕が震えてしまう。しかし、健太は諦めなかった。

「これなら...オレにもできるかも」

それからというもの、健太は毎日欠かさず自重トレーニングを続けた。最初は5回だった腕立て伏せが、10回、20回とできるようになっていく。

学校では相変わらずチー牛と呼ばれ、孤立していたが、健太の心の中では確実に変化が起きていた。

トレーニングを始めて3ヶ月が経った頃、健太は鏡の前で驚いた。

「これ、オレ...?」

少しずつだが、確実に体が引き締まってきていたのだ。


高校3年生になった健太。外見は相変わらずチー牛そのものだったが、中身は大きく変わっていた。

ある日の体育の授業。クラス対抗リレーで、突然走者が足をつってしまった。

「代わりの走者!誰か走れる人いない?」と先生が叫ぶ。

クラスメイトたちが躊躇する中、健太が一歩前に出た。

「え?佐藤が?」「チー牛が走るの?」とざわめきが起こる。

しかし、健太は動じなかった。スタートの合図と共に、健太は驚くべきスピードで走り出した。

「うおおおお!」

一年間の自重トレーニングで鍛え上げた脚力が、健太を推進力。見る見るうちに前を行く選手たちを追い抜いていく。

「すげえ...あいつ、マジで速えぇ!」

クラスメイトたちの歓声が響く中、健太はトップでゴールテープを切った。

息を切らしながらも、健太の顔には満面の笑みが浮かんでいた。

「やった...オレ、やったんだ!」

その瞬間、麻衣が健太に駆け寄ってきた。

「すごいよ、佐藤くん!どうやってそんなに速くなったの?」

健太は照れくさそうに答えた。「毎日...自重トレーニングしてたんだ」

「へぇ、すごい!私にも教えてよ」

麻衣の言葉に、健太の心は躍った。

それから、健太の学校生活は大きく変わった。クラスメイトたちが彼に興味を持ち始め、話しかけてくるようになった。麻衣とも親しくなり、一緒にトレーニングをすることも。

卒業式の日、健太は決意を胸に秘めていた。

壇上で卒業証書を受け取った後、健太は突然マイクを取った。

「みんな、聞いてください!」

会場が静まり返る。

「オレは...いや、僕は変われました。自分を信じ、努力を続けることで。どんな人でも、きっと変われる。そう信じています」

健太の言葉に、会場から大きな拍手が沸き起こった。

その日の帰り道、麻衣が健太に告白した。

「佐藤くん、私...あなたのことが好きです」

健太は驚きつつも、嬉しさで胸がいっぱいになった。

「僕も...麻衣のことが好きだ」

二人は手を取り合い、夕日に向かって歩き出した。

健太の心の中で、あの日公園で出会った男性の言葉が響く。

「自分の体重だけで、人生だって持ち上げられるんだ」

健太は微笑んだ。チー牛と呼ばれた過去も、もはや彼の足かせにはならない。これからは、自分の人生を自分の力で切り開いていく。そう、心に誓ったのだった。