ワイこと鈴木太郎(28)、いわゆる"弱者男性"ちゅうやつや。身長165cm、年収300万、コミュ障、どこをとっても モテる要素なんて皆無やで。

「はぁ...もうええわ...」

ため息つきながら、またしてもマッチングアプリを開くワイ。3年間、10個以上のアプリを渡り歩いてきたけど、未だに1回もマッチせえへんのや。

「おい、鈴木!また昼休みにスマホいじってんのか?」

「うっせーな!ほっといてくれや...」

同僚の山田が声かけてきよった。ワイみたいなんとは違って、山田はマッチングアプリで彼女作りまくりの勝ち組や。

「お前さぁ、プロフィールどうなってんの?趣味とか書いてる?」

「ああ...読書とか...」

「読書か~。どんな本読むの?」

「村上春樹...」

「えっ、マジで?お前、村上春樹好きなんか?」

ワイ、ここで重大な失敗をしてしまうんや。

「いや、好きちゃうわ!あんなの、意味わからんクソ小説や!なんでみんなあんなん持ち上げんねん!」

その瞬間、社内がシーンと静まり返った。

「お、おい...鈴木...」

山田の顔が引きつってる。ワイの後ろから、なんか怖い気配が...

「テメェ...今なんつった?」

振り返ると、そこにはド迫力のヤンキー女が立っとったんや。

「村上春樹をディスったんは...テメェか?」

ワイの人生、ここで大きく変わることになるとは、この時はまだ知らへんかったんや...


「ちょ、ちょっと待って!ワイ、ただの社畜やで!殴らんといて!」

ワイ、必死に命乞いするも、ヤンキー女は容赦なく襟首を掴んできよった。

「んだよ、テメェ!村上春樹のどこがクソなんだよ!説明しろや!」

「えっと...その...『海辺のカフカ』とか...意味わからんし...」

「あぁ?『海辺のカフカ』がわからねぇだと?じゃあ、『ノルウェイの森』は?『1Q84』は?」

「え...えっと...」

ワイ、村上春樹の作品、実は1冊も読んだことないんや。でも、そんなこと言えるわけないやん。

「わ、わかりません...」

「チッ、こういうとこだぞ、オマエみてぇな奴が!物事をちゃんと知らねぇくせに批判してんじゃねぇよ!」

そう言って、ヤンキー女はワイを放り出した。と思ったら、

「明日、昼休みに屋上来いや。村上春樹の良さ、たっぷり教えてやるからな」

「はぁ!?」

翌日、恐る恐る屋上に行ってみると、ヤンキー女が本を山ほど持って待っとったんや。

「おせぇよ!ほら、まずはこれ読め!」

渡されたんは『ノルウェイの森』。

「えっと...ここで読むんですか?」

「当たり前だろ!いいから読め!」

こうして、ワイの村上春樹強制勉強会が始まったんや。

毎日昼休み、ヤンキー女...じゃなかった、彼女の名前は美咲っていうらしい...美咲に村上春樹の解説を聞かされる日々。

「な?わかってきたか?村上春樹のすげぇとこ!」

「うーん...なんていうか...確かに独特な世界観ですよね...」

「だろ?もっと読もうぜ!」

気づいたら、ワイ、村上春樹にハマってもうてん。

そして、美咲のことも...なんていうか...

「ヤベェ...なんかドキドキするわ...」


それから1ヶ月後、ワイと美咲は毎日一緒に本を読むようになってた。

「な、太郎!『ダンス・ダンス・ダンス』のこのシーン、めっちゃエモくね?」

「わかる!ワイもここ好きやわ!」

いつの間にか、美咲はワイのことを名前で呼ぶようになってた。

ある日、美咲が言い出したんや。

「な、太郎...お前、マッチングアプリやってんだろ?」

「えっ!?なんで知ってんの!?」

「山田がこっそり教えてくれたんだよ」

ワイ、顔真っ赤になってもうた。

「あのさ...別にマッチングアプリなんかやんなくていいんだぜ?」

「えっ...」

「だって...その...私が...いるじゃん...」

美咲、顔真っ赤にしながら言うてきよったで。

「美咲...まさか...」

「うっせぇな!勘違いすんなよ!ただ...その...お前、村上春樹のこと分かってきたみたいだしさ...」

「美咲...」

「太郎...付き合お...」

「えっ!?」

「付き合おうぜ!つってんだよ!」

ワイ、舞い上がってもうた。

「おう!付き合お!」

こうして、ワイはマッチングアプリ難民を卒業。ヤンキー女の彼女をゲットしてもうたんや。

今じゃ、二人で村上春樹読書会を主催しとるで。

「みんな聞いてくれ!村上春樹はな、人生を変えるんや!」

ワイが熱弁振るう横で、美咲が「そうだぜ!」って相槌打っとる。

たまに喧嘩するけど、

「このバカ野郎!『海辺のカフカ』の解釈、間違ってんぞ!」
「うっせぇな!『ねじまき鳥クロニクル』のが難しいわ!」

みたいな喧嘩や。こんな喧嘩、普通のカップルではありえへんやろ。

ワイ、今じゃ毎日が楽しくて仕方ないんや。

マッチングアプリ?あんなん、もう必要あらへん。

だって、ワイには最強の彼女がおるからな。

「おい、太郎!今日は『1Q84』読もうぜ!」
「おう!任せとき!」