春風が桜の花びらを舞わせる中、青春大学の新入生歓迎会が行われていた。そこに颯爽と現れたのは、今年度の目玉新入生・霧島 蒼(きりしま あおい)。
身長180cm、切れ長の瞳に鋭い眉、整った顔立ちに引き締まった体。まさに、イケメンの代名詞と呼ぶにふさわしい男だった。
「キャー!あの人誰?めっちゃイケメン!」
「ヤバい、カッコよすぎ...」
女子たちの黄色い声が飛び交う中、蒼は無表情のまま歩を進める。
「おい、お前!」突如、声をかけられた蒼が振り向くと、そこには大学のマドンナ的存在の佐々木 美月(ささき みつき)がいた。
「私、佐々木美月。一緒にお茶でもどう?」甘い笑顔で誘う美月。
しかし、蒼の反応は予想外だった。
「うるさい。僕には興味ない」
一瞬にして会場が凍りついた。
その瞬間、蒼の目に飛び込んできたのは、美月の隣にいた男子学生だった。
「君は...?」蒼の声が急に優しくなる。
「え?あ、僕は高橋です...」戸惑いながら答える男子学生。
「高橋くん、一緒にお茶しない?」
会場中が驚愕の表情を浮かべる中、蒼と高橋は去っていった。
そう、蒼には秘密があった。女性が大嫌いで、イケメンにしか興味がないのだ。
翌日から、蒼の噂は瞬く間に広まった。
「あいつ、サークルクラッシャーだって...」
「女子には冷たいくせに、イケメンには優しいんだってさ」
こうして、青春大学に最強のサークルクラッシャーが誕生したのだった。
それから1ヶ月、蒼の"被害者"はどんどん増えていった。
テニスサークルでは、女子マネージャーを完全無視。その代わりに、イケメンキャプテンに猛アプローチ。
結果、キャプテンは恋人と破局し、サークルは分裂した。
軽音部では、人気のボーカル女子を「下手くそ」と罵倒。代わりにイケメンギタリストを持ち上げまくり、バンドは解散。
写真部では、女子部員たちの作品を「センスない」と切り捨て、イケメン部長の写真を「芸術的」と絶賛。もちろん、部は崩壊寸前。
「もう、あいつどうにかしないと...」
「でも、あの霧島を止められる人なんていないわよ...」
絶望的な空気が大学を覆う中、意外な人物が動き出した。
生徒会長の榊原 遼(さかきばら りょう)。彼もまた、誰もが認めるイケメンだった。
「霧島、君とは話があるんだが」
放課後、生徒会室に呼び出された蒼。
「榊原先輩...何の用ですか?」珍しく、蒼の声が上ずる。
「君の行動が、多くの学生に迷惑をかけている。これ以上は...」
真剣な表情で語る遼。しかし、蒼の目には、遼の整った顔立ちしか映っていなかった。
「先輩...僕、先輩のことが...」
突如、蒼が遼に抱きつく。
「おい、霧島!何をする...」
そう叫ぶ遼の唇を、蒼の唇が塞いだ。
まさにその時。
「榊原先輩、資料が...えっ!?」
ドアを開けた美月が、唖然とした表情で二人を見つめていた。
「ちょっと、何してるの!?」
美月の叫び声が、生徒会室に響き渡る。
「美月...これは...」困惑する遼。
一方、蒼は珍しく動揺を隠せずにいた。
「なんで...なんで君がここに...」
その瞬間、美月の表情が一変する。
「はぁ...もう、バレちゃったか」
突如、美月が男性的な声でため息をつく。
「えっ?」蒼と遼が同時に声を上げる。
「実はね、私...男なの」
そう言うと、美月はウィッグを外した。そこには、短い黒髪の青年の姿があった。
「俺の名前は佐々木光(ひかる)。美月は俺の双子の妹なんだ」
「そんな...」蒼が絶句する。
「霧島、君に興味を持ったのは、実は俺なんだ。でも、君が女嫌いだって聞いて...妹に頼んで、君の素性を探ろうとしたんだ」
光の告白に、部屋中が静まり返る。
「俺...ずっと君に惹かれてた。でも、君の行動は確かに問題だ。だから、こうして正体を明かして、ちゃんと向き合おうと思ったんだ」
蒼の頬を、一筋の涙が伝う。
「僕は...僕は...」
言葉につまる蒼に、遼が優しく語りかける。
「霧島、君の気持ちは分かる。でも、人を好きになるのに性別は関係ないんだ。大切なのは、その人の中身だよ」
蒼は、光と遼を交互に見つめる。そして、ゆっくりと口を開いた。
「僕は...間違ってた。女性が怖かっただけなんだ。でも、それで多くの人を傷つけてしまった...」
光が蒼に歩み寄る。
「一緒に、やり直そう。今度は、誰も傷つけずに」
蒼は、初めて人前で笑顔を見せた。
「うん...ありがとう」
その後、蒼は自分の行動を反省し、被害を受けたサークルに一つずつ謝罪して回った。
そして、光とともに「性別を超えた絆」をテーマにした新しいサークルを立ち上げた。
かつての「サークルクラッシャー」は、今や「サークルビルダー」として大学で一目置かれる存在になっていた。
春風が桜の花びらを舞わせる中、蒼は光の手を取り、キャンパスを歩く。
「ねぇ、光...」
「ん?」
「やっぱり、君が一番のイケメンだよ」
二人の笑い声が、新しい季節の始まりを告げていた。
完
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