佐藤拓也（25歳）は、長年の彼女いない歴に終止符を打つべく、友人に勧められてマッチングアプリに手を出した。プロフィール写真には、ベストアングルで撮影した自信作を使用。髪型もセットし、ちょっとした加工も施した。「みんなやってることだし」と自分に言い聞かせ、罪悪感を押し殺す。
そんな拓也のもとに、理想的な女性からいいね！が届いた。プロフィールには「美咲、24歳」とある。写真では、キュートな笑顔と整った顔立ちが印象的だ。趣味欄には「カフェ巡り、読書、映画鑑賞」と書かれており、拓也好みのインテリ系美女に思えた。
躊躇なくマッチングした拓也は、美咲とチャットを始める。会話は順調に進み、共通の話題も多く見つかった。二人は意気投合し、たった3日で実際に会う約束をしてしまう。
待ち合わせ場所に向かう電車の中、拓也は鏡に映る自分の姿を確認する。髪型も服装も、プロフィール写真とはかけ離れている。「まあ、ちょっとした違いだし…」と自分に言い聞かせるが、不安は募るばかりだ。
カフェに到着した拓也は、約束の時間より10分早く着いていた。ドキドキする心臓を抑えながら、美咲の到着を待つ。時間になっても彼女の姿は見えず、拓也は不安になり始める。
そこへ、一人の女性が近づいてきた。「佐藤さん…ですか？」と声をかけられ、拓也は驚愕する。目の前にいるのは、プロフィール写真の美咲とは似ても似つかない女性だった。
「は、はい…美咲さん…ですか？」と拓也が尋ねると、女性は恥ずかしそうに頷いた。美咲の実際の姿は、写真よりもかなり太っており、肌の状態も良くなかった。髪型も写真とは全く違い、化粧っ気もない素顔だった。
拓也は動揺を隠せず、美咲も気まずそうにテーブルに着く。沈黙が流れる中、美咲が口を開いた。「ごめんなさい…写真は少し古くて…」と言いかけたが、拓也は内心で叫んでいた。「少しどころじゃない！」
会話は途切れがちで、二人とも落ち着かない様子だった。拓也は何度も自分のプロフィール写真のことを思い出し、罪悪感に苛まれる。「僕だって同じことをしているんだ…」と自覚しながらも、失望感は拭えなかった。
そんな中、美咲が意外な一言を放つ。「実は…佐藤さんの写真も、実物とは違うなって思ってました」。拓也は凍りつく。自分の行為が指摘されたことに、言葉を失う。
気まずい空気が流れる中、美咲が再び口を開いた。「でも、写真と違っても、佐藤さんの人柄は素敵だと思います」。その言葉に、拓也は驚きを隠せない。
美咲は続ける。「チャットでの会話がとても楽しかったんです。知的で面白くて、優しい人柄が伝わってきました。だから、実際に会ってみたいと思ったんです」
拓也は、自分の浅はかさを恥じた。確かに、美咲の外見は写真と違っていた。しかし、チャットで感じた彼女の魅力は嘘ではなかった。知的で優しい性格は、実際に会って話してみても変わらない。
「僕も…写真詐欺みたいなことをしてしまって、申し訳ありません」と拓也が謝ると、美咲は優しく微笑んだ。「お互い様ですね。でも、これが私たちの本当の姿。ここからが本当のスタートラインかもしれません」
その言葉に、拓也は心が軽くなるのを感じた。二人は、お互いの本当の姿を受け入れることから始めようと決意する。
会話は徐々に打ち解け、最初の気まずさは消えていった。外見は写真と違っていても、チャットで感じた相性の良さは本物だった。二人は、マッチングアプリでの出会いの不思議さと、人を見る目の大切さを実感する。
帰り際、美咲が言った。「次は、お互いの本当の姿で会いましょう。メイクも加工もなしで」。拓也は笑顔で頷いた。
その日以来、拓也は「マッチングアプリの写真詐欺は前提として受け入れろ」という言葉の意味を理解した。それは単に騙し合いを容認することではなく、外見だけで人を判断せず、本質を見極める大切さを教えてくれたのだ。
彼らの関係がこの先どうなるかは分からない。しかし、お互いの本当の姿を受け入れることから始まったこの出会いは、二人にとって大切な経験となった。
マッチングアプリは、確かに「写真詐欺」のリスクがある。しかし、それを乗り越えて本当の価値を見出せた時、思わぬ幸せが待っているかもしれない。拓也と美咲の物語は、デジタル時代の新しい出会いの形を示唆していた。
コメント