俺、渋谷勇太。大学3年生。自他共に認めるチー牛だ。

「はぁ...またモテない1日が終わるのか」

溜息をつきながら、いつものように牛丼屋に入る。

「あの、温玉牛丼並盛りで」

「かしこまりました」

店員の女の子に目を合わせられず、俺は頭を下げたまま注文する。

そんな日々を送っていた俺だが、ある日、大学の廊下でひょんなことから聞こえてきた会話が人生を変えることになった。

「ねぇねぇ、最近の彼氏めっちゃムキムキになってさぁ」
「えー、いいなぁ。私も筋肉質な人好きー」

その瞬間、俺の脳裏に閃きが走った。

「そうか...筋トレすれば...俺もモテるかもしれない!」

帰宅後、早速ネットで筋トレ情報を漁る。

「よし、明日から俺も筋トレだ!」

チー牛卒業への第一歩を踏み出す決意をした夜だった。

翌日から俺の筋トレ生活が始まった。

「うっ...くっ...1、2、3...」

腕立て伏せ10回でヘトヘトになる俺。

「まだ...まだ足りない!」

必死に腕を動かす。でも、1週間経っても、1ヶ月経っても、目に見える変化はない。

「おい、渋谷。最近筋トレしてんの?」
クラスメイトの佐藤が声をかけてきた。

「え?あ、うん...」
「へぇ、意外。でも変わんないじゃん」

グサッと心臓に刺さる一言。

そう、2ヶ月経った今でも、俺の体は全く変わっていなかった。

「やっぱりダメなのか...」

挫折感に襲われる俺。牛丼を食べる回数も増えていた。

「チー牛は...チー牛のままなのか...?」

自己嫌悪に陥りそうになったその時、偶然テレビから聞こえてきた言葉が俺を救った。

「筋トレの効果は個人差があります。継続することが大切です」

「そうか...まだ...諦めるのは早いのかも」

俺は再び立ち上がった。

それから3ヶ月。俺は筋トレを続けていた。

「おはようございます」

いつもの牛丼屋。でも、今日は少し違った。

「あの...いつも来てくれてありがとうございます」

店員の女の子が、俺に笑顔を向けた。

「え?あ、いえ...」

慌てて頭を下げる俺。でも、以前のような緊張感はない。

大学でも、少しずつだが変化があった。

「渋谷、最近なんか雰囲気変わった?」
「髪型でも変えた?」

周りの反応が、少しずつ変わってきている。

鏡を見ても、劇的な変化はない。でも、確実に体は引き締まってきていた。

そんなある日、体育の授業で衝撃的な出来事が起きた。

「次はバスケのチーム分けな。キャプテン、前に出てこい」

なぜか、俺の名前が呼ばれた。

「え?俺が?」

戸惑いながらも前に出る。

試合が始まると、俺は驚くほど体が動いた。シュートも決まる。

「渋谷、お前すげぇな!」

周りから歓声が上がる。

その瞬間、俺は気づいた。

筋肉がつくことだけが筋トレの目的じゃない。継続する力、自信、そして何より...自分を変えようとする勇気。

それこそが、俺が得たものだった。

試合後、汗だくの俺に、クラスの人気者・佐々木さやかが近づいてきた。

「ねぇ、渋谷くん。今度一緒にカフェ行かない?」

驚く俺。でも、以前のような焦りはない。

「うん、行こう」

自然に笑顔で返事ができた。

帰り道、ふと立ち寄った牛丼屋。

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

「あ、今日は...サラダ牛丼で」

店員の女の子と目が合う。今度は、しっかりと見つめ返すことができた。

「チー牛が筋トレしても筋肉つかないのか?」

そんな疑問から始まった俺のジャーニー。答えは...YES and NO。

筋肉はゆっくりとしか付かなかった。でも、筋トレは確実に俺を変えた。

外見よりも大切なものを、俺は手に入れたんだ。

「よーし、明日も筋トレだ!」

鏡に向かってガッツポーズをする俺。

もう、誰が何と言おうと、俺は俺だ。

チー牛でも、筋トレマニアでも、どっちでもいい。

大切なのは、自分を信じること。

そして、牛丼を食べながら筋トレすることを誓った、青春のワンシーンだった。

(完)