俺の名前は佐藤健太。25歳、職歴なしのニート。毎日、部屋に籠もってネットサーフィンと漫画読みが日課だった。外の世界なんて、もう縁がないと思っていた。
「健太!いい加減出てきなさい!」
母さんの怒鳴り声が、また部屋に響く。でも、俺には動く気力もない。ベッドに寝そべったまま、スマホを握りしめる。
「はいはい...」
適当に返事をして、俺はまたネット掲示板を眺め始めた。そこで目に飛び込んできたのは、「女神スレ」というタイトル。
「へぇ、なんだこれ...」
好奇心から、俺はそのスレッドを開いた。すると、そこには美しい女性の画像が次々と投稿されていた。でも、単なる美人画像じゃない。なぜか、それぞれの画像に「筋トレ」に関するコメントが添えられていたんだ。
「腹筋は美しさの源」
「大胸筋は自信の象徴」
「強靭な下半身こそ、真の美の基礎」
俺は首を傾げた。なんだこのスレは...でも、なぜか目が離せない。
そして、最後の投稿。それは、まるで俺に語りかけているかのような女神の姿だった。
「汝、己の肉体を鍛えよ。そこに新たなる人生が開かれん」
その瞬間、俺の中で何かが動いた。
「くそっ...俺も...俺もやってやる!」
翌日、俺は早起きした。そう、筋トレを始めるためだ。
「よーし、まずは腕立て伏せだ!」
意気込んで床に手をついた俺だが、
「うっ...くっ...1回...」
たった1回で力尽きた。
「マジかよ...俺ってこんなにヤバかったのか...」
でも、あの女神の言葉を思い出す。「己の肉体を鍛えよ」...そうだ、諦めちゃいけない。
それからの日々、俺は必死に体を動かした。腕立て伏せ、腹筋、スクワット...最初は1回だって辛かったけど、少しずつ回数が増えていく。
「健太、最近変わったわね」
母さんの声に、少し照れる俺。
「ちょっとね」
実は、昨日初めて外を走ってきたんだ。
鏡を見ると、少しだけ引き締まった体が映っていた。まだまだ女神には遠く及ばないが、確実に変わりつつある自分がいた。
「女神様...俺、頑張ってます」
呟きながら、また筋トレを始める俺。でも、まだ疑問は残っていた。本当にこれでいいのか?ただ筋トレしてるだけで、人生変わるのか?
そんな迷いを抱えながらも、俺は筋トレを続けた。
それから3ヶ月。俺の生活は一変していた。
毎朝5時に起きて、公園でランニング。帰ってきたら筋トレ。そして、昼間は...
「佐藤くん、この企画書を頼むよ」
「はい、承知しました!」
そう、俺は就職していたんだ。筋トレを始めてから、不思議と自信がついて...履歴書を書く勇気が出たんだ。
休日は、ジムで汗を流す。ダンベルを持ち上げながら、ふと気づいた。
「あれ?俺、幸せじゃん...」
体が変わっただけじゃない。心も、生活も、全てが変わっていた。
そして、あの日がきた。女神スレを開いてから、ちょうど半年後。俺は再びそのスレッドを訪れた。
するとそこには、新しい投稿があった。
「己の肉体を鍛え上げし者よ。汝の姿を我に示せ」
俺は深呼吸して、自撮りをアップロードした。ムキムキじゃない。でも、半年前とは明らかに違う、健康的な体つきの俺が写っていた。
すると...
「おめでとう、勇者よ。汝はついに己の殻を破った」
女神からの祝福。俺は思わず涙が出そうになった。
「ありがとう...女神様」
でも、これで終わりじゃない。むしろ、ここからが本当の始まりだ。
俺は決意した。これからも筋トレを続ける。でも、それは単に体を鍛えるためじゃない。自分を高め、人生を豊かにするため。そして、いつか誰かの「女神」になれるように。
「よーし、今日もがんばるぞ!」
鏡に向かってガッツポーズをして、俺は新しい1日の筋トレを始めた。
女神スレを開いたあの日から、筋トレは俺の人生そのものになったんだ。
(了)
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