高橋ケンタ(28歳)は、スマートフォンを片手に呟いた。

「はぁ...またマッチしねぇ」

彼の画面には、人気のマッチングアプリ「ラブコネクト」が表示されていた。プロフィール写真には、少し太めの自分の顔。「いいね」の数は、惨憺たるものだった。

ケンタは鏡を見て、ため息をついた。
「これじゃダメだ...変わらなきゃ」

その日から、ケンタの生活は一変した。

まず、ジムに入会。毎日の筋トレを日課とした。そして、驚くべきことに、マッチングアプリを見ながら筋トレをすることにしたのだ。

「よし、今日も10回スワイプしたら、腹筋10回だ!」

ケンタは真剣な表情で、スマホをスワイプしながら腹筋を始めた。

1ヶ月後。

「おっ、ちょっと締まってきたかも」
ケンタはほんの少し引き締まった腹を見て、少し自信がついた。

しかし、マッチングアプリの状況は変わらず。

「くそっ...まだダメか」
落胆しながらも、ケンタは諦めなかった。

「よーし、今日は20回スワイプで腕立て伏せ20回だ!」

3ヶ月後。

ケンタの体は、明らかに変化していた。腹筋が割れ始め、胸板も厚くなってきた。

「おお...これはイケるかも!」

意気揚々と新しいプロフィール写真を撮影。マッチングアプリにアップロードした。

しかし、結果は...

「え?まだマッチしねぇの?」

ケンタは落胆したが、すぐに気持ちを切り替えた。
「まだだ...もっと頑張るぞ!」

6ヶ月後。

ケンタの体は完全に別人のようになっていた。筋肉質で引き締まった体。顔つきも精悍になり、自信に満ちた表情を浮かべている。

「よっしゃ!これで絶対にモテるはずだ!」

新たなプロフィール写真をアップロードし、ワクワクしながら「いいね」を待った。

そして...

「うおおお!マッチした!」

ケンタは思わず叫んだ。画面には、可愛らしい女性のプロフィールが表示されていた。

「佐々木美咲」28歳。趣味は読書とカフェ巡り。

ケンタは興奮しながらメッセージを送った。
「はじめまして!高橋です。よろしくお願いします」

返信はすぐに来た。
「こんにちは、佐々木です。高橋さんのプロフィール、とても素敵でしたよ」

ケンタは有頂天になった。
「ありがとうございます!実は半年間、毎日筋トレしてきたんです」

美咲からの返事。
「すごいですね!私も実は最近ジムに通い始めたんです。でも、なかなか続かなくて...」

ケンタは思わずニヤリとした。
「よかったら、一緒にトレーニングしませんか?」

「えっ、いいんですか?ぜひお願いします!」

そして、二人の初デートの日。

ケンタは緊張しながらカフェに入った。そこには...

「え?」

ケンタは目を疑った。美咲の姿は、プロフィール写真とは全く違っていた。むしろ...

「まさか...君も?」

美咲もまた、驚いた表情でケンタを見ていた。

「高橋さん...もしかして、マッチングアプリを見ながら筋トレしてました?」

「えっ!?」

二人は同時に声を上げ、そして...大爆笑。

なんと、美咲もケンタと同じように、マッチングアプリを見ながら毎日筋トレをしていたのだ。二人とも、プロフィール写真は筋トレ前のものだった。

「まさか、こんな偶然があるなんて」
ケンタは涙が出るほど笑った。

「本当ですね。でも、おかげで健康的になれました」
美咲も満面の笑みを浮かべた。

その日から、二人は一緒にジムに通うようになった。マッチングアプリを見ながらの筋トレは、二人の秘密の思い出となった。

1年後。

ケンタと美咲は、幸せそうに公園を歩いていた。二人とも健康的な体型を維持しつつ、自然体の自分に戻っていた。

「ねえ、ケンタ」
「何?美咲」
「私たち、変な方法で出会ったけど...幸せだよね」
「ああ、本当に」

ケンタはふと、スマホを取り出した。

「どうしたの?」と美咲。

「いや...ちょっとな」

ケンタの画面には、マッチングアプリのアンインストール画面が表示されていた。

「もう、これは必要ないよな」

美咲は優しく微笑んだ。
「うん、そうだね」

二人は手を繋ぎ、夕日に向かって歩き出した。

マッチングアプリを見ながらの筋トレは、彼らにとって意外な結果をもたらした。それは単なる外見の変化だけでなく、自分自身と向き合い、成長する機会となったのだ。

そして何より、お互いを見つけるきっかけになった。

時に人生は、思わぬ方法で幸せをもたらす。大切なのは、諦めずに自分を磨き続けること。そして、その過程を楽しむこと。

ケンタと美咲の物語は、そんなことを教えてくれているのかもしれない。