「はぁ…またダメか」

高校2年生の佐藤美咲は、数学の試験用紙を見つめながらため息をついた。赤ペンで書かれた点数は、彼女の期待をはるかに下回るものだった。

「美咲、どうだった?」
隣の席から、親友の山田葵が声をかけてきた。

「うん、まあね…」
美咲は曖昧に答えると、さっと試験用紙をしまった。

放課後、二人は一緒に帰路についた。葵は理系志望で、数学が得意な優等生。対照的に、美咲は文系で数学が大の苦手だった。

「ねえ、美咲」と葵が切り出した。「最近、プログラミングを始めたんだけど、すごく面白いの。美咲も一緒にやってみない?」

美咲は首を傾げた。「え?でも、プログラミングって難しそう…数学とか必要なんでしょ?」

葵は笑いながら答えた。「そんなことないよ。数学なしでもできるプログラミング教室を見つけたんだ。今度一緒に行ってみない?」

半信半疑ながらも、美咲は葵の誘いに乗ることにした。

週末、二人は「ドリームコード・アカデミー」という看板の掛かった小さな教室を訪れた。

「いらっしゃい!」
明るい声で迎えてくれたのは、20代後半くらいの女性だった。

「初めまして。私、このアカデミーの講師の野原です。今日はどんなことを学びたい?」

美咲は戸惑いながらも、正直に答えた。「あの…私、数学が苦手で…でも、プログラミングに興味があって…」

野原先生は優しく微笑んだ。「大丈夫よ。ここでは、数学の知識なしでプログラミングを楽しく学べるの」

そう言うと、先生はパソコンを立ち上げ、画面にカラフルなブロックが並んだ画面を表示した。

「これは、Scratchっていうプログラミング言語よ。数式を書く代わりに、このブロックを組み合わせてプログラムを作るの」

美咲は興味深そうに画面を覗き込んだ。確かに、難しそうな数式は一つも見当たらない。

「じゃあ、簡単なゲームを作ってみましょう」

野原先生の指導の下、美咲と葵は画面上のキャラクターを動かすプログラムを作り始めた。ブロックを組み合わせるだけで、キャラクターが動き出す。美咲は驚きと喜びを感じた。

「わぁ、動いた!」
美咲の目が輝いた。初めてプログラムを動かせた喜びが、彼女の中に広がっていく。

その日から、美咲は毎週「ドリームコード・アカデミー」に通うようになった。Scratchから始まり、徐々に本格的なプログラミング言語にも挑戦していく。

ある日、美咲は自分の作ったプログラムを見ながら、ふと気づいた。

「あれ?これって…数列?」

野原先生がニッコリと笑った。「そうよ。気づかないうちに、プログラミングを通して数学の概念を学んでいたのね」

美咲は驚いた。数学が苦手だった自分が、プログラミングを通して数学的な考え方を身につけていたなんて。

それからの美咲は、少しずつ数学の授業も楽しめるようになっていった。プログラミングで学んだ論理的思考が、数学の問題解決にも役立つことに気づいたのだ。

学期末、美咲は緊張しながら数学の試験用紙を受け取った。

「えっ…」
美咲は目を疑った。赤ペンで書かれた点数は、今までで最高のものだった。

「美咲、すごい!」
隣で葵が驚きの声を上げた。

放課後、二人は興奮しながら「ドリームコード・アカデミー」に向かった。

「野原先生!見てください!」
美咲は嬉しそうに試験用紙を見せた。

野原先生は優しく微笑んだ。「おめでとう、美咲。プログラミングを学ぶことで、論理的思考力が身についたのね」

美咲は深く頷いた。「はい。数学が苦手だった私が、プログラミングを通して数学の面白さに気づけました」

「そう、プログラミングは単なる技術じゃないの。それは考え方を学ぶ道具。そして、その考え方は人生のあらゆる場面で役立つわ」

美咲は、自信に満ちた表情で答えた。「はい。これからも、もっともっと学んでいきたいです!」

教室の窓から差し込む夕日が、美咲の頬を優しく照らしていた。彼女の目には、未来への希望が輝いていた。

数学が苦手だった少女が、プログラミングを通じて新しい世界を発見する。そして、その経験が彼女の人生を大きく変えていく。

「数学のないプログラミング教室」は、そんな可能性を秘めた場所だった。ここから、どんな未来が広がっていくのか。それは、美咲自身が作り出していくものなのだ。