高校2年の春、俺こと山田太郎は、数学の授業中にある衝撃的な出来事を目撃した。

「え?これ、どうやって解いたんですか?」

数学教師の佐藤先生が、黒板の前で呆然と立ち尽くしていた。その視線の先には、天才と呼ばれる転校生の鈴木碧斗がいた。

「あ、はい。ちょっとしたひらめきで...」

碧斗は照れくさそうに答えた。しかし、その解法は教科書にも載っていない斬新なものだった。

その日から、クラスは二つに分かれた。碧斗を天才と崇める者たちと、彼を疎ましく思う者たち。俺は、どちらにも属さなかった。ただ、純粋に彼の才能に興味を持った。

「ねえ、碧斗くん。どうやったらそんな風に問題が解けるようになるの?」

ある日、勇気を出して碧斗に聞いてみた。

「え?別に...ただ、毎日問題を解いてるだけだよ」

彼の答えは意外にも簡単だった。しかし、それが本当だとは思えなかった。

その夜から、俺は猛勉強を始めた。碧斗に追いつくため、毎日5時間以上数学の問題を解いた。しかし、一ヶ月経っても、まったく彼のレベルには到達できなかった。

「やっぱり、才能の差なんだ...」

諦めかけたその時、クラスメイトの佐々木美咲が声をかけてきた。

「太郎くん、最近頑張ってるね」

「うん...でも、碧斗には全然及ばない」

「そうかな?私は太郎くんの方が凄いと思うよ」

美咲の言葉に、俺は驚いた。

「だって、太郎くんは努力してるもん。碧斗くんは天才かもしれないけど、それって本人の意思じゃないでしょ?」

その言葉が、俺の中で何かを変えた。

次の日、俺は碧斗に再び話しかけた。

「碧斗、正直に教えてくれ。君は本当に努力してるのか?」

碧斗は少し考え込んでから答えた。

「...実は、僕にも分からないんだ。問題を見ると、自然と解法が浮かんでくる。でも、それが才能なのか、これまでの経験の蓄積なのか...」

その瞬間、俺は碧斗の目に迷いを見た。彼もまた、自分の能力の正体を探っていたのだ。

「じゃあ、一緒に確かめてみないか?」

俺の提案に、碧斗は少し驚いた顔をした。

「どういうこと?」

「君と俺で、同じ問題を解いてみよう。そして、それぞれのプロセスを比較してみるんだ」

碧斗は少し考えてから、頷いた。

次の日から、俺たちは放課後に図書室に集まり、一緒に問題を解き始めた。最初は圧倒的な差があったが、日を重ねるごとに、少しずつ俺も碧斗の思考プロセスが理解できるようになってきた。

「ここでこう考えるのか...」

「うん、でも太郎の解き方も面白いね。こういう発想もあるんだ」

お互いの解法を共有し合うことで、俺たちは急速に成長していった。

そして、ある日のこと。

「おい、これ...同時に解けたぞ!」

俺と碧斗は顔を見合わせて笑った。初めて、同じレベルに立てた気がした。

その様子を見ていた美咲が言った。

「ねえ、二人とも気づいてる?」

「何に?」

「碧斗くんの才能と、太郎くんの努力。それぞれが刺激し合って、新しい才能を生み出してるってこと」

美咲の言葉に、俺たちは深く頷いた。

それから数ヶ月後、全国数学コンテストが開催された。俺と碧斗は、ダブルエントリーで参加することにした。

結果は...

「準優勝、山田太郎!優勝、鈴木碧斗!」

表彰台の上で、俺たちは握手を交わした。

「おめでとう、碧斗」

「ありがとう。でも、太郎がいなかったら、僕はここまで来れなかったよ」

その時、俺は理解した。才能と努力、それは対立するものではない。互いに高め合い、新たな可能性を生み出すものなのだと。

帰り道、美咲が俺たちに駆け寄ってきた。

「二人とも、おめでとう!」

「ありがとう、美咲。でも、これは君のおかげでもあるんだ」

美咲は少し驚いた顔をした。

「私は何もしてないよ?」

「いや、君が俺たちに気づかせてくれた。才能と努力の本当の関係をね」

碧斗も頷いた。

「そうだね。美咲がいなかったら、僕たちは協力することもなかった」

美咲は照れくさそうに笑った。

その日、俺たち3人は夕日を背に歩きながら、これからの未来について語り合った。才能か努力か、その答えはまだ見つかっていない。でも、それを探す旅は始まったばかりだ。

そして俺は確信していた。この二つが交わるところに、真の天才が生まれるのだと。