俺の名前は佐藤健太。28歳、IT企業で働くSEだ。
毎日の残業と休日出勤で、心も体も疲れ果てていた。

「はぁ...もう恋愛する元気もないよ」
溜息をつきながら、俺はスマホを見つめていた。

そんな時、友人に勧められて始めたのが、マッチングアプリだった。

「どうせ、マッチングなんてしないだろうけど...」
そう思いながら、適当にプロフィールを作成した。

それから数日後、突然のマッチング通知。
相手の名前は、星野美咲。

「初めまして!星野です。プロフィール見ました。同じITの人だったんですね!」

思わず目を疑った。まさか本当にマッチングするとは。
少し戸惑いながらも、俺は返信した。

「はじめまして。佐藤です。そうなんです、SEをしています」

それからのメッセージのやり取りは驚くほど弾んだ。
美咲は話題が豊富で、会話が途切れることがない。

「あの...よかったら、会ってみませんか?」
俺は思い切って誘ってみた。

「もちろん!私も会いたかったんです!」
即答で返事が来た。

待ち合わせ場所に着くと、そこには笑顔の可愛い女の子が立っていた。

「佐藤さん!待ってました!」
元気いっぱいの声で美咲が手を振る。

「や、やあ...」
緊張しながら挨拶を返す。

カフェに入り、話を始めると、美咲の饒舌さに圧倒された。
次から次へと話題が変わり、俺はただ聞き役に回るしかない。

「あ、ごめんなさい。私、ADHDなんです。話しすぎちゃって...」
突然、美咲が申し訳なさそうに言った。

「ADHD?」
俺は少し驚いた。

「注意欠陥多動性障害のことです。発達障害の一種で...」
美咲は少し躊躇いながら説明を始めた。

「あ、聞いたことあります」
俺は急いで相槌を打った。

「迷惑かけちゃいましたよね。私、こういうの苦手で...」
美咲の表情が曇り始めた。

「いえ、そんなことないです!」
俺は思わず声を上げた。

「実は...俺、毎日仕事に疲れ果ててて。でも、美咲さんと話してると、なんだか元気が出てくるんです」

美咲の目が輝いた。
「本当ですか?よかった...私、いつも話しすぎて嫌われちゃうんです」

「俺は好きですよ、美咲さんの話」
照れくさそうに言うと、美咲の頬が赤くなった。

それから、俺たちは付き合うことになった。

美咲と過ごす日々は、まるで別世界だった。
彼女の尽きることのないエネルギーに、俺の疲れも吹き飛んでいく。

「健太くん、今日はどこに行く?」
休日、美咲は早朝から電話をかけてくる。

「え?まだ9時だよ...」
眠そうに答える俺。

「もう9時だよ!ほら、起きて起きて!」
電話越しに美咲の声が弾む。

結局、俺たちは朝から夜まで街を歩き回ることになる。
美術館、動物園、遊園地...。
普段なら疲れてしまいそうなコースだが、美咲と一緒だと不思議と楽しめる。

「健太くん、次はあっちに行こう!」
美咲が指さす先には、まだまだ行きたい場所が広がっている。

「わかったよ」
俺は笑顔で頷いた。

仕事の日も変わった。
「今日も頑張ってね!」
毎朝、美咲からの応援メッセージが届く。

それを見るだけで、俺の中に力が湧いてくる。
残業も、以前ほど辛く感じなくなった。

ある日、同僚に言われた。
「佐藤、最近元気だな。彼女でも出来たのか?」

「まあ...ね」
俺は照れくさそうに答えた。

確かに、美咲と付き合ってから、俺は変わった。
疲れ知らずとまではいかないが、以前よりずっと前向きになれた。

でも、全てが順調だったわけじゃない。
美咲のADHDによる困難も、時々現れた。

約束の時間を忘れたり、急に予定を変更したり。
時には、俺の話を最後まで聞かずに別の話題に飛んでしまうこともあった。

それでも、俺は美咲が好きだった。
彼女の明るさ、純粋さ、そして何より、俺を元気にしてくれるその力が。

「ねえ、健太くん」
ある日、美咲が真剣な顔で言った。

「私、ADHDだから...健太くんに迷惑かけちゃってるよね」

「確かに大変なこともあるよ」
俺は正直に答えた。

美咲の表情が曇る。

「でも」
俺は続けた。
「美咲といると、俺は元気になれる。それは間違いないんだ」

美咲の目に涙が光った。

「私も健太くんといると落ち着くんだ。健太くんが私の...アンカーなの」

俺たちは抱き合った。

そうか、俺たちはお互いのエネルギー源なんだ。

発達障害も、仕事の疲れも、それは俺たちの一部に過ぎない。
大切なのは、二人で支え合い、前に進んでいくこと。

「さあ、明日はどこに行こうか」
俺は美咲の手を握りしめた。

まだまだ続く、俺たちの物語。
疲れ知らずの日々が、これからも続いていく。

(終)