西暦2045年、日本。
世界は「ポリティカル・コレクトネス」という新たな秩序のもとで動いていた。
「また一人、アルファが捕まったそうだ」
耳に入ってきた噂に、俺は思わず拳を握りしめた。俺の名は鷹村翔。かつてはアルファ男と呼ばれ、自信に満ち溢れた青年だった。
しかし今や、アルファ的な振る舞いは「有害」とみなされ、社会から排除されつつあった。
「翔、大丈夫か?」
親友の佐藤が心配そうに声をかけてきた。
「ああ...なんとかな」
強がりながら答えたが、内心は不安でいっぱいだった。
そんな俺たちの前に、突如として謎の美女が現れた。
「あなたたち、危険よ。早くここから逃げて」
彼女は息を切らせながら告げた。
「何の冗談だ?」
俺が問い返す間もなく、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
「ポリコレ・ハンターよ。アルファを狩る特殊部隊。あなたたちも標的にされているわ」
俺と佐藤は顔を見合わせた。まさか、噂の...。
「俺たちに何の用だ?」
「説明している時間はないわ。とにかく逃げましょう!」
彼女の名は風間美咲。元ポリコレ・ハンターだという。
俺たちは彼女に導かれるまま、地下への階段を駆け下りていった。
そこには、アルファたちの隠れ家があった。
「ようこそ、『自由の砦』へ」
美咲が誇らしげに言った。
広間には様々な男性たちが集まっていた。筋骨隆々の者、知的な雰囲気の者、カリスマ性を感じさせる者...。かつてアルファと呼ばれた者たちだ。
「俺たちは何も悪いことはしていない。ただ、自分らしく生きたいだけなのに...」
ある男性が嘆くように言った。
美咲が説明を始めた。
「ポリコレ社会は、多様性を尊重するという名目で、皮肉にも個性を抑圧し始めたの。特に、アルファ的な男性は『有害』とレッテルを貼られ、狩られるようになった」
「じゃあ、俺たちはどうすればいいんだ?」
俺は混乱しながら尋ねた。
「反撃するのよ。でも、暴力ではなく、対話を通じて」
美咲の目は真剣だった。
その時、警報が鳴り響いた。
「やばい、見つかったか!」
佐藤が叫んだ。
「落ち着いて。ここにはポリコレ・ハンターを説得した仲間もいるわ。彼らの力を借りましょう」
扉が開き、制服姿の男女が入ってきた。
「風間、状況は?」
「志村さん、新しい仲間よ」
元ハンターの志村は俺たちを見て頷いた。
「君たち、怖がることはない。我々も間違いに気づいたんだ」
混乱する中、作戦会議が始まった。
目標は、ポリコレ社会の矛盾を公開の場で明らかにすること。
「でも、どうやって?」
佐藤が不安そうに尋ねた。
「全国放送を使うわ」
美咲が答えた。
計画は大胆だった。テレビ局に潜入し、生放送で真実を語るというものだ。
「危険すぎるだろ!」
俺は反対した。
「他に方法はないわ。もう、隠れているだけの時代は終わったの」
美咲の言葉に、皆が頷いた。
作戦当日。
俺たちは緊張しながらテレビ局に向かった。
「お前ら、本当にやる気か?」
俺は最後の確認をした。
「ああ、もう後には引けねぇよ」
佐藤が力強く答えた。
予想外にも、局内には協力者がいた。
「私も、この状況をおかしいと思っていたんです」
あるディレクターが言った。
そして、運命の瞬間が訪れた。
「はい、スタンバイ...5、4、3、2、1...」
カメラの前に立った俺は、深呼吸をして話し始めた。
「視聴者の皆さん、驚かれたでしょうか。私たちは、いわゆる『アルファ』と呼ばれる人間です。しかし、私たちは決して社会の敵ではありません」
美咲も加わった。
「ポリコレ社会は、確かに重要です。しかし、それが新たな抑圧を生み出してはいけません。多様性とは、全ての個性を認め合うこと」
次々と仲間たちが証言を始めた。
不当な扱いを受けた経験、社会からの疎外感、そして、変わりたいという強い思い。
「私たちは変わります。でも、社会も変わってください。互いを理解し、尊重し合える社会を、一緒に作りませんか」
放送は予定時間を大幅に超えて続いた。
その夜、SNSは大炎上した。
賛否両論が飛び交う中、少しずつ変化の兆しが見え始めた。
「やりましたね」
美咲が俺の肩を叩いた。
「ああ、でも、これは始まりに過ぎない」
俺は真剣な表情で答えた。
確かに、全てが解決したわけではない。
しかし、対話の扉は開かれた。
これからは、アルファもベータもガンマも、全ての個性が尊重される社会を目指して、一歩ずつ前に進んでいく。
そう、俺たちの戦いは、まだ始まったばかりなのだ。
(終)
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