私、山田ゆきは、高校2年生。いわゆる「チー牛」と呼ばれる女子高生だ。厚い黒縁メガネに、前髪はぱっつん。制服はダボダボで、アニメキャラのバッジを付けている。

そんな私が、まさか恋をすることになるなんて。

それは、新学期が始まって間もない頃のこと。

「えっと、山田さん?」

突然、隣の席の男子から声をかけられた。佐藤くん。イケメンではないけど、優しそうな顔立ちの男の子だ。

「な、なに?」

人と目を合わせるのが苦手な私は、うつむいたまま返事をした。

「数学の宿題、教えてもらえないかな?」

佐藤くんの言葉に、私は驚いた。私の成績は学年トップクラス。でも、こんな風に頼られたのは初めてだった。

「い、いいよ」

そう答えると、佐藤くんは嬉しそうに笑った。

それから、佐藤くんと話す機会が増えた。最初は宿題のことだけだったけど、徐々にアニメや漫画の話題で盛り上がるようになった。

ある日、昼休みに佐藤くんが私の机に近づいてきた。

「ゆきちゃん、今度の日曜日、一緒にアニメイトに行かない?」

私の心臓が大きく跳ねた。これって...デートの誘い?

「え、えっと...」

答えに窮する私に、佐藤くんは慌てて付け加えた。

「新作フィギュアが出るんだ。一緒に見に行けたらいいなって」

ほっとすると同時に、少し残念な気持ちになった私。

「うん、行く」

その日曜日、私は生まれて初めて男子と二人きりでお出かけした。でも、何を話していいかわからず、ほとんど無言のまま歩く。

アニメイトに着くと、佐藤くんは楽しそうにフィギュアを眺めていた。私も好きなキャラのグッズを見つけて、少しずつ会話が増えていく。

帰り道、佐藤くんが突然立ち止まった。

「ゆきちゃん、実は...」

私の心臓が再び跳ね上がる。

「実は、俺...」

まさか、告白?私の頭の中は真っ白になった。

「俺、ゆきちゃんと友達になれて嬉しいんだ」

友達。その言葉に、ほっとすると同時に、なぜか胸が痛んだ。

それから数日後、クラスメイトの女子たちの会話が耳に入ってきた。

「ねえねえ、佐藤くんが彼女作ったって本当?」
「うん、隣のクラスの吉田さんだって」

その瞬間、私の中で何かが崩れ落ちた。

放課後、一人で帰る道すがら、突然涙がこぼれ落ちた。

「私...佐藤くんのこと、好きだったんだ」

気づいた時には遅すぎた。恋愛経験ゼロの私には、自分の気持ちさえわからなかった。

翌日から、私は佐藤くんとの接点を避けるようになった。彼が話しかけてきても、そっけない返事しかできない。

そんなある日、佐藤くんに呼び止められた。

「ゆきちゃん、最近様子がおかしいけど...俺、何かしたかな?」

彼の優しい眼差しに、もう我慢できなくなった。

「佐藤くん...私、あなたのこと好きだったの」

思わず口走ってしまった言葉に、佐藤くんは驚いた表情を浮かべた。

「ごめん...でも、もう遅いよね」

そう言って走り去ろうとした私を、佐藤くんが腕を掴んで止めた。

「待って、ゆきちゃん」

振り返ると、佐藤くんは真剣な表情で私を見つめていた。

「実は...吉田さんとは付き合ってないんだ。ただの噂だよ」

私は驚いて目を丸くした。

「俺も...ゆきちゃんのこと好きだった。でも、ゆきちゃんが俺のこと好きじゃないんじゃないかって...」

二人とも、お互いの気持ちに気づけなかった。恋愛スキルゼロの二人は、ただ見つめ合って笑った。

「じゃあ...付き合ってみる?」

佐藤くんの言葉に、私はゆっくりと頷いた。

こうして、チー牛女の私の初恋は、紆余曲折を経てようやく実を結んだ。

恋愛スキルはまだまだレベル0。でも、これからゆっくり、佐藤くんと一緒にレベルアップしていけばいい。

そう思うと、不思議と心が軽くなった。

メガネの奥で、私の目は輝いていた。チー牛女の、ぎこちない恋の物語は、ここからが始まりなのだ。