ワイ、28歳。反出生主義者や。「子供を産むのは悪」という考えを持っとるんや。

そんなワイが、まさかブラック企業の人事部に就職するとは思わんかったわ。

「ワイさん、うちの会社に来てくれて嬉しいわ!これからよろしく頼むで!」

上司の笑顔がキモい。でも、仕方ない。生きていくには金が必要やからな。

「はい、よろしくお願いします」

心の中では「くそっ、こんな会社で働きたくないわ」と思いながら、表面上は笑顔を作る。

最初の仕事は新卒採用の面接や。

「はい、次の方どうぞ」

入ってきたのは、眼鏡をかけた真面目そうな学生。

「えっと、御社に入社したら、どのように社会貢献できますか?」

ワイの質問に、学生は熱く語り始めた。

「はい!私は御社の製品を通じて、多くの人々の生活を豊かにしたいと思います!そして、将来は家庭を持ち、子供を育てながら、仕事と家庭の両立のロールモデルになりたいです!」

ワイの中で何かが切れた。

「はぁ?子供作るとか正気か?この世界がどんなに糞なのか分かっとらんのか?」

学生は驚いた顔をしている。

「え?あの...」

「子供を産むことは最大の悪や!お前、反出生主義って知っとるか?」

ワイは熱弁を振るう。学生は困惑しきっている。

「あの...これって面接ですよね?」

「うるさい!お前みたいな馬鹿が子供作るから、世界中の不幸が増えるんやろ!」

結局、その面接は最悪の結果で終わった。

翌日、上司に呼び出された。

「ワイ君、昨日の面接どうしたんや?志望者から苦情が来とるで」

「すみません...つい本音が...」

「まぁ、人事も大変やな。でも、次からはちゃんと会社の方針に沿って面接してや」

ワイは悔しかった。でも、仕事を失うわけにはいかん。

「はい、分かりました」

それからのワイは、表向きは優秀な人事担当者を演じることにした。

「御社の企業理念に共感します!」という学生には、

「素晴らしい!うちで一緒に頑張りましょう!」

と笑顔で答える。吐き気を堪えながら。

でも、ワイの中の反出生主義の炎は消えていなかった。

ある日、新入社員の歓迎会があった。

「ワイさん、そろそろ結婚とかどうなん?」

先輩が聞いてきた。酒が入っていたワイは、ついに本音を吐露してしまう。

「は?結婚?子供?ふざけんな!そんなもん要らんわ!」

場の空気が凍りついた。

「お、おいおい、冗談やろ?」

「冗談やない!ワイは反出生主義者や!子供を産むのは最大の悪や!」

翌日、ワイは上司に呼び出された。

「ワイ君、昨日の件や。みんな心配しとるで」

「...」

「会社としては、社員の結婚や出産を推奨しとるんや。ワイ君の考えは尊重するけど、仕事に影響出たらアカンで」

ワイは黙って頷いた。

それからというもの、会社でのワイの立場は微妙になった。

誰も直接何か言うわけではないが、なんとなくよそよそしい。

ある日、新入社員の女の子が相談に来た。

「あの、ワイさん...私、妊娠したみたいで...」

ワイの中で何かが爆発しそうになる。でも、グッと堪えた。

「おめでとう。会社の制度はちゃんと説明するから、安心して働き続けてや」

笑顔で言葉をかける。けど、心の中では叫んでいた。

(なんでや!なんでみんな子供作りたがるんや!)

そんなある日、ワイは街で偶然、昔の就活仲間に会った。

「おっ!ワイじゃん!元気にしとったんか?」

「ああ、まぁな」

「ワイって確か、反出生主義とかいうの信じとったよな。今はどうなん?」

ワイは少し考えて答えた。

「...正直、今も変わらんわ。でも、仕事では言えへんのや」

「そっか...大変やな」

「せやな...」

帰り道、ワイは考えていた。

(ワイは本当にこれでええんやろか...)

次の日、ワイは決意して上司のところへ向かった。

「上司、話があります」

「なんや?」

「実は...ワイ、退職したいんです」

上司は驚いた顔をした。

「えっ?どうして?」

「ワイの考えと会社の方針が合わないんです。これ以上、嘘ついて仕事するのは無理や...」

上司は少し考えて、こう言った。

「...分かった。でも、その前にワイ君の考えをもう一度聞かせてくれへんか?」

ワイは驚いたが、思い切って本音を話すことにした。

反出生主義のこと、子供を産むことへの考え、全部さらけ出した。

話し終わると、上司はにっこり笑った。

「ワイ君、その考え、面白いと思うで」

「え?」

「確かに、今の世の中、子供産むのが当たり前みたいになっとるけど、それでええんかって考えるのも大事やと思う」

ワイは目を丸くした。

「ワイ君、うちの会社で、そういう新しい価値観を広めていってくれへんか?」

「え...でも...」

「多様性の時代や。色んな考えの人がおるからこそ、会社も成長できるんやないか?」

ワイは考え込んだ。

(これが、ワイにできることなんかな...)

「...分かりました。もう少し、頑張ってみます」

上司は満足そうに頷いた。

それから1年後、ワイの会社は「多様な価値観を尊重する企業」として、業界で注目されるようになった。

子育て支援と同時に、子供を作らない選択も尊重する。
そんな新しい企業文化を作り上げたんや。

ワイは今でも反出生主義者や。でも、自分の考えを押し付けるんじゃなく、多様な価値観を認め合うことの大切さを学んだ。

(世の中、少しずつやけど、変われるんかもしれへんな)

そう思いながら、ワイは今日も会社に向かうのであった。

(完)