アレックス・フォスターは、生まれながらにして数学の天才だった。5歳でフェルマーの最終定理を解き、10歳でリーマン予想を証明し、15歳で量子重力理論を完成させた。しかし、20歳になった今、彼は人類最大の謎に挑んでいた。不老不死の証明だ。

「生命は数式で表現できる。そして、その数式に無限性を組み込めば...」

アレックスは昼夜を問わず計算を続けた。彼の部屋の壁は、複雑な方程式で埋め尽くされていた。

ある日、彼の親友でありライバルでもあるサラ・チェンが訪ねてきた。

「また無理なことをしようとしているのね、アレックス」

「無理じゃない。理論上は可能なんだ。ただ、証明がね...」

サラは心配そうな目でアレックスを見た。

「でも、仮に証明できたとして、それを実現する技術はまだないわ」

アレックスは微笑んだ。

「技術は後からついてくる。重要なのは理論だ」

その夜、アレックスは決定的な閃きを得た。

「これだ!生命の方程式に無限級数を組み込めば...」

彼は狂ったように計算を始めた。時計の針が一周し、また一周した。

そして、夜明け前...

「できた...証明できた!」

アレックスの叫び声が、静寂を破った。

数日後、彼の論文は世界中の数学者たちを震撼させた。理論上、人間は不老不死になれるという証明だった。

しかし、世界の反応は複雑だった。

科学者たちは興奮し、哲学者たちは懐疑的で、宗教家たちは反発した。

「人間が神の領域に踏み込むべきではない」
「これは人類の進化だ」
「社会システムが崩壊する」

議論は白熱し、アレックスは世界中から注目を集めた。

ある日、政府の秘密機関から接触があった。

「フォスター博士、あなたの理論を実現する技術を開発しませんか?」

アレックスは迷った。理論を証明することと、それを実現することは別問題だ。しかし、好奇心が勝った。

「わかりました。協力します」

研究は秘密裏に進められた。アレックスは昼夜を問わず働いた。そして、3年後...

「成功しました」

アレックスの前には、不老不死を実現する装置があった。

「これで人類は死の恐怖から解放される」

しかし、その瞬間、衝撃的な事実が明らかになった。

「フォスター博士、この技術は一部のエリートのためのものです。一般には公開されません」

アレックスは愕然とした。

「そんな...これは人類全体のためのものだ!」

「いいえ、これは選ばれた者だけのものです」

アレックスは激しく抵抗したが、研究所は厳重に警備されていた。

その夜、サラが秘密裏にアレックスと接触した。

「逃げましょう。この研究結果を世界に公開するの」

二人は命がけで研究所から脱出し、データを持ち出すことに成功した。

しかし、追っ手は容赦なかった。

逃亡中、アレックスは重傷を負った。

「サラ...もう駄目かもしれない」

「だめよ、アレックス!あなたが証明したでしょう。人間は不死なのよ」

その時、アレックスは気づいた。

「そうか...数式は正しかった。でも、不老不死は技術じゃない。それは...」

アレックスの目が閉じかけた時、彼の脳内で無限の数式が展開された。そして...

「サラ、わかったよ。不老不死は、意識の無限の連鎖なんだ」

アレックスの身体は消えたが、彼の意識は宇宙の数式の中に溶け込んでいった。

サラは涙を流しながらも、アレックスの研究データを世界中に公開した。

それから100年後...

人類は、技術的な不老不死ではなく、意識の無限性を理解し始めていた。そして、アレックスの方程式は、新たな哲学と科学の基礎となっていた。

宇宙のどこかで、アレックスの意識は微笑んでいた。

「人間の才能は無限だ。そして、その無限こそが、真の不老不死なんだ」

彼の声は、無限の数式となって宇宙に響き渡っていた。

おわり