黄色い曲線が、灰色の街路を滑るように進んでいく。それは蛇のようでもあり、川のようでもあった。しかし、実際はバナナの皮だった。

私は、その皮を追いかけて歩いていた。風に乗って、時に跳ね、時に転がる黄色い軌跡。その動きには、何か意味があるはずだ。そう信じていた。

街には、バナナを食べる人々が溢れていた。会社員は、急ぐ足取りでバナナをかじる。主婦は、買い物袋の中からバナナを取り出す。学生は、バナナの皮で髪を縛る。

そして、私はバナナを見るたびに、彼女のことを思い出した。

彼女の名前は、きっとバナナだった。いや、違う。バナナナだった。いや、それも違う。ナナだった。そうだ、ナナだ。

ナナは言った。「あなたはバナナみたい」

私は聞き返した。「どういう意味?」

ナナは答えなかった。代わりに、バナナの皮を私の頭に被せた。

その日から、私は女性を避けるようになった。バナナの皮で視界を遮られた私には、女性の姿が見えなくなった。それは、祝福なのか、呪いなのか。

街中の広告看板には、バナナを持つ女性たちが微笑んでいた。その笑顔は、嘲笑に見えた。バナナの曲線は、女性の体のラインと重なった。

私は、バナナの消費量と女嫌いの相関関係を研究し始めた。グラフを作り、統計を取り、論文を書いた。しかし、誰も私の研究に興味を示さなかった。

ある日、私はバナナの皮で作られた服を着て街を歩いた。人々は私を見て笑った。でも、その笑い声は遠かった。私の耳には、バナナの皮がフィルターとなって、すべての音が歪んで聞こえた。

バナナ畑で働く女性たちの写真を見つけた。彼女たちの手には、大きなバナナの房。その姿は、まるで武器を持った戦士のようだった。私は、バナナが女性の武器なのではないかと考え始めた。

夜、バナナの夢を見た。巨大なバナナが街を歩き、人々を踏み潰していく。その足音は、バナナを剥く音に似ていた。目が覚めると、枕元にバナナの皮が置いてあった。

私は、バナナを食べるのをやめた。しかし、バナナの存在を無視することはできなかった。街のあらゆる場所に、バナナがあふれていた。

ある日、公園のベンチに座っていると、隣に女性が座った。彼女はバナナを食べていなかった。私は驚いて彼女を見つめた。

「バナナ、嫌いなの?」と私は尋ねた。

彼女は首を傾げた。「バナナ?何のこと?」

その瞬間、世界が歪んだ。街中のバナナが消えていった。代わりに、リンゴやオレンジ、キウイが現れた。

私は混乱した。「でも、バナナは...」

彼女は優しく笑った。「あなた、夢から覚めたのね」

私は自分の手を見た。バナナの皮で覆われていた手が、素肌を現していた。

「じゃあ、女嫌いは...」

「それは、あなたの中にあるものよ」と彼女は言った。「バナナのせいじゃない」

私たちは一緒に歩き始めた。道端には、様々な果物が落ちていた。それらを避けながら歩く私たちの姿は、まるでダンスのようだった。

遠くで誰かがバナナの皮で滑る音がした。私たちは振り返らなかった。

街の喧騒が、果物を潰す音に変わっていく。その音色は、新しい物語の始まりを告げているようだった。

私は彼女に尋ねた。「これからどこへ行く?」

彼女は答えた。「バナナのない世界へ」

私たちは歩き続けた。足元には、様々な果物の皮が散らばっていた。それらは、過去の痕跡のようでもあり、未来への道標のようでもあった。

空には、バナナ型の月が浮かんでいた。しかし、それはただの錯覚だったのかもしれない。