美咲は息を呑んだ。スマートフォンの画面に映る彼の写真は、まるで雑誌から抜け出してきたかのような完璧な男性だった。高身長、整った顔立ち、優しそうな笑顔。プロフィールには「誠実で思いやりのある人間関係を求めています」と書かれていた。
指が震えながら、美咲はスワイプした。マッチ!心臓が高鳴る。
数日後、二人は初めて会うことになった。美咲は念入りに化粧し、お気に入りのワンピースを着て待ち合わせ場所に向かった。緊張で胃がキリキリしたが、それ以上に期待に胸が膨らんでいた。
彼、健太は写真以上にかっこよかった。優しい笑顔で美咲に近づき、「写真より可愛いね」と言ってくれた。美咲の頬が熱くなる。
デートは夢のようだった。おいしい料理、楽しい会話、そして健太の紳士的な振る舞い。別れ際、健太は美咲の手を取り、「また会いたい」と言った。美咲は幸せで胸がいっぱいになった。
それから、二人の関係は急速に進展した。毎日のように会い、メッセージを交換し、美咲は健太のことを考えるだけで一日中幸せだった。健太は完璧な彼氏だった。優しく、面白く、そして何より美咲のことを大切にしてくれた。
しかし、ある日、不思議なことに気づいた。健太の写真がSNSに一枚も上がっていないのだ。友達との写真も、自撮りも、何もない。美咲が尋ねると、健太は「SNSは苦手なんだ」と笑って答えた。少し違和感を覚えたが、美咲はそれ以上追及しなかった。
ある夜、健太は美咲を自宅に招待した。初めて彼の部屋に入る。清潔で整頓された部屋。しかし、何か違和感があった。写真が一枚もない。家族の写真も、友達との思い出の写真も、何もない。
「写真はどこにあるの?」美咲が尋ねた。
健太は一瞬固まった。そして、ゆっくりと振り返り、不気味な笑みを浮かべた。
「写真?そんなものはないよ。僕は...写真に写らないんだ」
美咲の背筋が凍った。健太の姿が少しずつ変わっていく。肌が青白く、目が赤く光り始めた。
「君は本当に可愛いね。ずっと探していたんだ、こんな可愛い子を」
美咲は逃げようとしたが、体が動かない。健太...いや、それが何であるかは分からないが、それが近づいてくる。
「さあ、永遠に一緒にいよう」
悲鳴を上げる間もなく、美咲の意識は闇に沈んでいった。
数日後、美咲の友人たちが彼女の失踪を警察に届け出た。しかし、手がかりは何もなかった。マッチングアプリのアカウントも、健太という名前の男性も存在しなかった。
そして、新たな犠牲者を求めて、「健太」は再びアプリに姿を現した。完璧な笑顔で、次の獲物を待ち構えている。
誰かが右にスワイプする。マッチ!
そして、悪夢は再び始まる。
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