ワイこと山田太郎、今日も美術館でゴッホの絵を眺めとるんや。29歳、フリーター。絵描きになるのが夢やけど、才能がなさ過ぎて泣けてくるわ。
「はぁ...ゴッホさんみたいになりたいのに...」
ため息つきながら「星月夜」を見つめとると、隣におるお姉ちゃんが声かけてきよった。
「あの...ゴッホ好きなんですか?」
ビビってもうた。こんな美人に話しかけられるなんて、ワイの人生で初めてやで。
「あ、ああ...まあな」
「私も大好きなんです!特に星月夜は...」
そこから会話が弾んで、気づいたらカフェでお茶してた。
「僕、山田太郎です。お名前は?」
「私は佐藤美咲です。よろしくね、太郎くん」
なんや、ファーストネームで呼ばれとるやんけ!これは脈アリやろ!
そこからワイと美咲は、よう会うようになった。美術館デートしたり、一緒に絵を描いたり。ワイ、こんな幸せな日々が来るなんて思ってへんかったわ。
ある日、ワイは意を決して告白することにした。
「美咲...付き合ってくれへんか?」
美咲は少し驚いた顔をしたけど、すぐに優しく微笑んだ。
「うん、喜んで」
まさかの成功や!ワイの人生で初めての彼女や!
しかし、ここからが地獄の始まりやった。
ワイ、彼女ができたことで舞い上がってもうて、仕事もバックれがちになってもうた。フリーターの仕事すらクビになって、貯金も底をつき始めた。
「太郎くん、大丈夫?」
心配する美咲に、ワイはニコニコ笑いながら答える。
「へーきへーき!ワイはゴッホみたいに貧乏でも絵を描き続けるで!」
でも、現実は甘くなかった。ワイの絵は全然売れへんし、コンクールに出しても落選の嵐や。
「くっそー!なんでワイの絵は評価されへんのや!」
ストレスで暴れるワイを見て、美咲の表情が曇り始めた。
「太郎くん...もしかして、絵のこと以外考えられなくなってない?」
「そんなことないで!美咲のこと大好きやし!」
でも、本当はゴッホの生涯のことばっかり考えとった。ゴッホみたいに苦労して、いつか評価されるんや!って。
ある日、美咲が真剣な顔でワイに言うた。
「太郎くん、私ね...もう限界かも」
「え...?」
「太郎くんの夢は応援したいけど、このままじゃ二人とも不幸になっちゃう」
ワイは必死で食い下がる。
「ちょ、ちょっと待ってや!ワイ、絶対に成功するから!」
「でも、いつまで待てばいいの?私たち、もう29歳だよ」
その言葉に、ワイは現実を突きつけられた気がした。
「そうや...ワイ、なにやってんねん...」
美咲との別れは静かやった。もう怒る元気もなかったんや。
「太郎くん...きっと素敵な画家になれるよ。でも、私はもう...ごめんね」
美咲が去った後、ワイは呆然と立ち尽くした。
「ゴッホも、こんな思いしたんやろか...」
それからのワイの生活は、まさに生き地獄やった。仕事も彼女もなくなって、毎日酒びたりの日々。
「くそっ!なんでワイばっかり...!」
でも、ふと気づいたんや。ゴッホだって、こんな生活してたわけやない。ゴッホは必死で絵を描き続けたんや。
「そうや...ワイも頑張らなアカン」
その日から、ワイは必死で絵の勉強を始めた。昼間は土方のバイトして、夜は絵を描く毎日。
「ゴッホみたいに、ワイも諦めへんで!」
1年後、ようやくワイの絵がちょっとずつ評価されるようになってきた。
「おっ、これええやん!」
画廊のオーナーに声をかけられて、初めて個展を開くことになった。
「よっしゃ!ついにワイのターンや!」
個展初日、緊張しながら会場に立つワイ。すると、見覚えのある人影が。
「美咲...?」
美咲は少し照れくさそうに微笑んだ。
「久しぶり、太郎くん。素敵な絵になったね」
ワイは思わず涙がこぼれそうになった。
「美咲...ごめん。あの時は本当にバカやった」
美咲は首を振る。
「ううん、私こそごめんね。太郎くんの夢を最後まで信じられなくて」
二人は照れくさそうに見つめ合う。
「那智...また...やり直せへんかな?」
美咲はニッコリ笑う。
「うん、喜んで」
その日から、ワイと美咲の新たな恋が始まった。今度は、お互いを理解し合える大人の恋。
「太郎くん、次の個展のテーマは?」
「そうやなぁ...『ゴッホへの手紙』にしようかな」
美咲は優しく微笑む。
「素敵ね。きっとゴッホさんも喜んでくれるわ」
ワイは空を見上げる。
「ゴッホさん、見とるか?ワイ、やっと幸せになれたで」
そして、新しいキャンバスに向かうのであった。
「よっしゃ、描くで!」
ワイの筆から生まれる色彩は、もはやゴッホのそれに迫るものがあった。苦労を重ねたからこそ、心の奥底から湧き出る想いを表現できるようになったんや。
「ゴッホの生き地獄な人生って恋愛難しいやろなぁ...」
そう思いながらも、ワイは美咲の横顔を見つめる。
「でも、乗り越えられたら、最高の絵と最高の恋ができるんやな」
美咲はワイの手を握る。
「太郎くん、私たちの物語も、きっと素敵な絵になるわ」
「せやな。これからもよろしくな、美咲」
二人は寄り添いながら、夕焼けに染まる空を見上げるのであった。
~完~
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