ワイこと佐藤太郎、今日から晴れて社会人やで。大手企業に入社できて、これから華々しい人生が始まると思とったんや。

「よっしゃ!今日から一人暮らしや!」

ウキウキしながら新居のドアを開けるワイ。でも、そこから地獄の始まりやったんや...

まず、冷蔵庫を開けてみる。

「...」

中身スカスカやんけ!

「そうや、買い出しせなアカンかったな...」

コンビニに行って、適当に食材を買ってくる。

「よし、今日はカップ麺でええか」

お湯を注いで3分待つ。

「いただきます!」

一口食べて、ワイは絶望する。

「まっず...こんなんばっかり食うとる奴おるんか?」

でも、疲れ切ったワイには他に選択肢がない。

「しゃあない、明日から頑張って料理するで」

翌日。仕事から帰ってきたワイは、意気揚々と包丁を握る。

「よっしゃ!今日はオムライス作るで!」

...30分後

「なんやこれ...」

目の前にあるのは、焦げたスクランブルエッグの山とケチャップまみれの米。

「まぁ...食えるか」

口に運ぶと、ワイは思わず吐き出しそうになる。

「うげぇ...こんなんより昨日のカップ麺の方がマシやったわ...」

それからというもの、ワイの食生活は急降下していく。

朝はコンビニおにぎり、昼は会社の食堂、夜はコンビニ弁当か冷凍食品。

「ヤバいな...体調悪なってきたわ...」

1ヶ月後、鏡を見たワイは愕然とする。

「なんやこの顔...」

青ざめた顔に、くぼんだ目。髪の毛はパサパサで、肌はカサカサや。

「これ...ワイか...?」

ある日の夜。疲れ切ってコンビニ弁当を食べていると、突然吐き気が襲ってきた。

「うっ...げぇ...」

トイレに駆け込むワイ。鏡を見ると、そこには見知らぬ男の顔が映っていた。

「ひぃっ!」

思わず叫び声を上げる。でも、よく見るとそれはワイ自身の顔やった。

「な...なんでワイこんななっとんねん...」

震える手で顔を触る。肌はカピカピで、目はくぼみ、頬はこけている。

「これ...栄養失調か...?」

その日から、ワイの悪夢が始まった。

毎晩、夢の中で得体の知れない化け物に追いかけられる。

「ぎゃあああ!」

悲鳴を上げて飛び起きるワイ。冷や汗でびっしょりや。

「はぁ...はぁ...また同じ夢か...」

そんな生活が続いて3ヶ月。ワイの体は完全におかしくなっていた。

「おい佐藤、大丈夫か?顔色悪いぞ」

同僚に心配されるも、ワイには答える元気もない。

「あ...ああ...」

ふらふらしながら帰宅するワイ。冷蔵庫を開けると、中には腐った野菜と賞味期限切れの牛乳だけ。

「もう...何もあらへん...」

力尽きたようにソファに倒れ込む。そのとき、ふと目に入ったのは自分の手。

「...!」

痩せこけた手は、まるで骨だけのよう。皮膚は灰色で、爪は伸び放題。

「ワイ...もう人間やあらへんのかもしれん...」

その夜、いつもの悪夢がやってきた。

得体の知れない化け物に追いかけられ、ワイは必死で逃げる。

「たすけてくれぇ!」

でも今回は、いつもと違った。化け物に追いつかれたワイは、その正体を見てしまったんや。

「ひっ...!」

化け物の顔は...ワイ自身やった。

青ざめた顔に、くぼんだ目。痩せこけた体に、伸び放題の爪。

「おまえは...ワイ...?」

化け物は口を開く。

「そうや...ワイはお前や...お前の中にいる『飢え』なんや...」

ワイは震える声で聞く。

「な...なんでワイはこうなってもうたんや...」

化け物は不気味に笑う。

「お前が自分を大切にせんかったからや...ろくに食わんと、栄養も取らんと...こうなるのは当然やろ?」

ワイは泣きそうになりながら叫ぶ。

「でも...でも忙しくて...料理なんてする暇あらへんかったんや!」

化け物は首を横に振る。

「言い訳やな...お前には選択肢があったはずや。でも、お前は楽な方を選んでもうた」

ワイは膝をつく。

「ワイ...もうあかんのか...?」

化け物はニヤリと笑う。

「さあな...それはお前次第やで」

ハッとして目が覚めるワイ。時計を見ると、まだ夜中の3時や。

「はぁ...はぁ...」

汗だくになりながら、ワイは決意する。

「もう...このままやったらあかん!」

その日から、ワイの生活は一変した。

朝早く起きて、簡単な料理を作る。

「よし、今日はちゃんとした朝食や!」

目玉焼きとトーストを用意する。野菜ジュースも忘れずに。

「うまい...こんなに朝飯がうまいとは...」

昼は自作のお弁当を持参。

「佐藤、珍しいな。手作り弁当か?」

同僚に驚かれるも、ワイは誇らしげに答える。

「せやで!これからはちゃんと自分で作るんや!」

夜は時間をかけて料理する。

「今日はカレーや!野菜もたっぷり入れるで!」

失敗もあるけど、少しずつ上達していく。

「おお...なんかコツわかってきたかも...」

1ヶ月後、鏡を見たワイは驚いた。

「おお...!」

顔色が良くなり、目の輝きも戻ってきた。体重も健全に増えてきている。

「よっしゃ...これや!」

それからというもの、ワイの料理スキルは日に日に上がっていく。

休日には料理教室に通い始めた。

「へぇ...こうやって切るんか...」

新しいレシピにも挑戦する。

「今日は和食に挑戦や!出汁から取るで!」

半年後、ワイの周りからは驚きの声が。

「おい佐藤、最近かっこよくなったんじゃねえか?」
「佐藤くん、料理上手になったね!」

ワイは照れくさそうに答える。

「いや...まだまだやで」

ある日の夜、久しぶりにあの夢を見た。

でも今回は、化け物に追いかけられることはなかった。

「よう、久しぶりやな」

化け物...いや、もう一人のワイが笑顔で話しかけてくる。

「お前...変わったな」

ワイは胸を張る。

「せやろ?ワイ、頑張ったんや」

もう一人のワイはニッコリ笑う。

「ようやったな。これからも頑張れよ」

「おう!任せとき!」

目が覚めると、ワイは温かい気持ちに包まれていた。

「よっしゃ...今日も一日頑張るで!」

朝食を作りながら、ワイは思う。

社会人の地獄は、確かに料理の貧弱さから始まるかもしれん。でも、それを乗り越えれば、そこには素晴らしい人生が待っとるんや。

「さて、今日の朝ごはんは...」

ワイは、幸せな気持ちで包丁を握るのであった。

~完~