深夜、青白い光がスマホから漏れる。32歳、通称チー牛こと鈴木拓也は、また今日もマッチングアプリを開いていた。
「はぁ...」
溜め息が漏れる。今日もマッチはゼロ。プロフィール写真は加工して、髪型も変えて、でもダメだった。
「やっぱり、ワイみたいなんじゃ...」
自己嫌悪に陥りそうになったその時、スマホが震えた。
「マッチしました!」
驚きのあまり、スマホを落としそうになる。
「嘘やろ...」
恐る恐るプロフィールを確認する。
名前:由美
年齢:35歳
職業:料理研究家
「おお...」
プロフィール写真は、ちょっとぽっちゃりした感じの女性。でも、笑顔が素敵だった。
由美からメッセージが来た。
「はじめまして!マッチありがとうございます。拓也さんの趣味欄にアニメって書いてあったんですが、どんなアニメがお好きですか?」
拓也は狂喜した。アニメの話を振ってくれる女性なんて、初めてだ。
必死に返信する。
「僕は〇〇や△△が好きです!由美さんも見ますか?」
すぐに返事が来た。
「私も大好きです!今度一緒に見に行きませんか?」
拓也は思わず声を上げそうになった。これが噂の展開の速さか!
「ぜ、是非お願いします!」
由美「じゃあ、明日の夜はどうですか?私の家で一緒に見ましょう♪」
拓也は混乱した。初対面でいきなり相手の家に行くのは危険だと、ネットの記事で読んだことがある。でも、こんなチャンス二度とないかもしれない。
「わかりました。楽しみにしています」
送信ボタンを押す指が震えていた。
翌日、仕事が終わり、由美から送られてきた住所に向かう。場所は少し寂しい住宅街。古びたアパートの前で、由美が待っていた。
「拓也さん、こんばんは!待ってましたよ」
写真よりも大柄だったが、笑顔は優しそうだった。
部屋に入ると、古めかしい家具が目に入る。でも、テレビの前には最新のゲーム機が。
「さ、座ってください。今、お茶淹れますね」
由美がキッチンに向かう間、拓也は緊張で手汗がびっしょりだった。
お茶を飲みながら、アニメを見始める。由美の作ったおつまみが美味しくて、拓也は警戒心を解いていった。
「ねぇ、拓也くん」
気がつくと、由美が妙に近い。
「は、はい?」
「拓也くん、可愛いね」
突然の褒め言葉に、拓也は顔が真っ赤になる。
「あの...由美さん...」
由美の手が、拓也の太ももに置かれる。
「ちょっと...」
拓也が言葉を失っている間に、由美の顔がどんどん近づいてくる。
そして...
「いただきます♡」
鋭い歯が、拓也の首筋に突き刺さった。
「がっ...!」
痛みと驚きで叫び声を上げる。
「由美...さん...?」
血を流しながら、拓也は由美を見つめる。
由美の姿が、みるみる変わっていく。
体はどんどん膨らみ、皮膚はピンク色に。鼻は平たくなり、耳は大きく尖る。
豚...いや、豚の化け物だ。
「キャハハハ!美味しい美味しい!」
豚女は血に塗れた口を大きく開けて笑う。
「や...やめて...」
拓也は立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かない。
「あら、もう動けないの?でも安心して。全部きれいに食べてあげるからね♡」
豚女の口が、再び拓也に近づく。
「いやだ...誰か...」
助けを呼ぼうとしても、声が出ない。
「ごちそうさま〜」
豚女の口が、拓也の体を飲み込んでいく。
痛みと恐怖で意識が遠のいていく中、拓也は思った。
「ああ...これが、リアルな恋愛...なのか...」
そして、全てが闇に包まれた。
数日後、警察は由美のアパートを捜索した。
そこで見つかったのは、大量の骨と、血の跡。そして、たくさんのスマートフォン。
捜査員の一人が言った。
「まるで...豚の餌箱みたいだな...」
その言葉に、誰も反論しなかった。
マッチングアプリの会社は、由美のアカウントを削除した。
しかし、新たなアカウントが次々と作られる。
今日も、どこかで豚女は獲物を探している。
マッチングアプリを開く度に、誰かが犠牲になる。
そして、チー牛たちは気づかない。
自分たちが、豚女の餌になっていることに。
拓也の悲劇は、決して特別なものではなかった。
豚女の食欲は、留まることを知らない。
マッチングアプリは、彼女にとって完璧な狩場だった。
孤独で、愛に飢えた男たち。
彼らは簡単に罠にかかる。
豚女は、その悲しみや欲望を餌に、次々と獲物を食らう。
警察は捜査を続けるが、証拠は少ない。
被害者たちは、まるで霧の中に消えたかのように姿を消す。
残されるのは、不気味な静けさだけ。
そして、マッチングアプリの闇は、どんどん深くなっていく。
誰も、この恐怖の連鎖を止められない。
豚女の笑い声だけが、夜の街に響き渡る。
「次は、誰かしら?」
彼女の問いかけに、答える者はいない。
ただ、多くの男たちが、知らずにその呼びかけに応じようとしている。
マッチングアプリを開く度に、彼らは豚女の餌場に足を踏み入れる。
そして、また一人、また一人と、犠牲者が増えていく。
この物語は、決して終わらない。
なぜなら、孤独な魂は常に存在し、豚女の食欲は決して満たされることがないから。
マッチングアプリを開く前に、よく考えてほしい。
その向こうにいるのは、本当に理想の相手なのか。
それとも...貪欲な豚女なのか。
答えは、誰にもわからない。
ただ、スマホの向こうで、誰かが笑っている。
その笑い声は、人間のものか、それとも...
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