ワイ、35歳。人生終わってるわ。

マッチングアプリを始めて3年。100人以上とマッチして、50人くらいと会って、付き合ったのは3人。全部失敗や。

今日も、虚しくアプリを開く。スワイプ、スワイプ。右、左、右、左。機械的な動きや。

「お、なんかええ感じの子おるやん」

珍しく右にスワイプする気になった。すると、奇跡のマッチ。

相手のプロフィールをチェックする。

名前:ミキ
年齢:28歳
職業:IT企業勤務

「おっ、ちょうどええ感じやん」

意を決してメッセージを送る。

ワイ「はじめまして!マッチありがとうございます。ミキさんのプロフィール、とても素敵ですね」

返事はすぐに来た。

ミキ「ありがとうございます!ワイさんもステキです♪ お仕事は何をされているんですか?」

ここから、いつもの儀式が始まる。お互いの趣味や仕事の話。表面的な会話。深いことは話さない。傷つきたくないから。

数日後、ミキから衝撃の一言。

ミキ「ワイさん、よかったら今度会いませんか?」

ワイ、心の中でため息。「また始まるんか...」

それでも、「いいですね!ぜひ会いましょう」と返信する。

待ち合わせは、いつものカフェ。ワイ、30分前に到着。緊張と諦めが入り混じった気持ちで待つ。

そして、ミキ登場。

見た目は...まぁ、写真と同じくらいかな。ホッとする。

「ワイさん、はじめまして!」

笑顔で挨拶するミキ。ワイも無理して笑顔を作る。

「よろしくお願いします」

会話が始まる。最初は順調や。趣味の話、仕事の話。でも、すぐに空虚感が襲ってくる。

「この会話、何回目やろ...」

ワイの心の中で、虚しさが膨らむ。

ミキ「ねえ、ワイさんはどんな人と付き合いたいですか?」

ワイ、一瞬戸惑う。「正直に答えたら、引かれるんやろうな...」

ワイ「う〜ん、優しくて思いやりのある人かな」

嘘や。本当は「ワイを受け入れてくれる人」って言いたかった。でも、言えへん。

ミキ「素敵ですね!私も同じです♪」

ワイ、心の中でつぶやく。「みんな同じこと言うよな...」

会話が進むにつれ、ワイの心は沈んでいく。

「この人も、ワイの本当の姿見たら逃げるんやろな...」

「結局、みんな理想の相手探してるだけやん...」

「ワイみたいなんが恋愛なんて...」

2時間後、デート終了。別れ際、ミキが言う。

「楽しかったです!また会いましょうね」

ワイ、微笑みながら答える。「うん、そうだね」

でも、心の中では既に決めていた。「もう会わへん」

家に帰ると、すぐにアプリを開く。ミキとのマッチを解除。ブロック。

「はぁ...」

深いため息が漏れる。

ベッドに倒れ込んで、天井を見つめる。

「もう疲れたわ...」

マッチングアプリを始めた頃を思い出す。希望に満ちていた。「きっと素敵な人に出会える!」って。

でも現実は違った。

むき出しの現実。それは、人間の醜さや。

みんな、自分の理想を押し付けてくる。

みんな、表面的な部分しか見ようとせえへん。

みんな、傷つきたくないから、深い関係避けとる。

ワイも、そうなってしもた。

「もう、リアルもネットも関係ないんちゃうか...」

人間関係そのものに疲れた。愛なんて、幻想なんやろか。

スマホを手に取る。アプリを削除しようとする指が震える。

「でも...これ消したら、もう希望なくなるんちゃうか...」

葛藤する心。削除するか、続けるか。

結局、その夜は決められへんかった。

翌日、仕事に行く。同僚たちの会話が耳に入ってくる。

「休日さ、彼氏とデートしてさ〜」
「いいなー、私も彼氏欲しいわー」

ワイ、苦笑い。「みんな必死やな...」

昼休み、公園のベンチで一人弁当を食べる。

カップルが通り過ぎていく。楽しそうに笑っている。

「あんなん、表面だけやろ...」

そう思いつつ、羨ましさも感じる。矛盾した感情が胸に広がる。

仕事帰り、いつもの居酒屋に寄る。

「いつもの」と言うと、ビールとおつまみが運ばれてくる。

隣の席では、会社帰りのOLたちが盛り上がっている。

「ねえねえ、マッチングアプリで知り合った人と会ってきたんだ〜」
「えー!どうだった?」
「イマイチだったわ〜。写真詐欺っぽかったし」

ワイ、思わず吹き出しそうになる。「お前らもか...」

ビールを一気に飲み干す。

家に帰る途中、街を見渡す。

ネオンきらめく繁華街。みんな必死に生きている。

恋を求めて、承認を求めて、存在意義を求めて。

「ワイもその一人やったんやな...」

家に着く。玄関を開けると、静寂が襲ってくる。

誰もいない部屋。冷蔵庫にはコンビニ弁当。

ベッドに座り、スマホを取り出す。

マッチングアプリのアイコンが、誘うように光っている。

指が震える。削除するか、続けるか。

深呼吸して、決断する。

アプリを開く。

「新しいマッチがあります!」

通知が表示される。

ワイ、苦笑い。「はぁ...また始まるんか...」

でも、指は動く。新しいマッチのプロフィールを開く。

名前:ユキ
年齢:33歳
職業:フリーランス

「お、なんか雰囲気違うな...」

ユキからのメッセージが来ている。

「はじめまして。正直に言うと、私もこのアプリに疲れています。でも、もう一度だけ賭けてみようと思って...ワイさんはどうですか?」

ワイ、目を疑う。こんな正直なメッセージ、初めてや。

返信する手が震える。

ワイ「正直、僕も疲れています。でも、ユキさんのメッセージを見て、少し希望が湧きました」

送信ボタンを押す。

「もしかしたら...」

小さな希望が芽生える。

でも同時に、恐怖も感じる。「また傷つくんやないか...」

それでも、ワイは続ける。

だって、これが最後の賭けかもしれへん。

マッチングアプリに疲れた。むき出しの現実を見せつけられた。

でも、その現実の中に、小さな光を見つけたんや。

「明日、ユキさんと会うことになったら...どうしよう」

不安と期待が入り混じる。

これが、ワイの新しい物語の始まりになるんか、それとも最後の失敗になるんか。

答えは、まだ分からへん。

でも、もう一度だけ、賭けてみようと思う。

だって、他に何があるんや?

人生なんて、結局賭けなんやろ。

ほな、もう寝るか。明日も仕事や。

でも今夜は、少しだけ違う気分で眠れそうや。

(おわり)




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