ワイ、今日も部屋でダラダラしとるんや。ニート歴もう5年目に突入や。マッマの目は日に日に厳しなってるし、パッパは諦めたんか、ワイを見る目がどこか虚ろや。
「はぁ...」ため息ついて、『罪と罰』を手に取る。この本、何回読んだかわからへんわ。主人公のラスコーリニコフの苦悩が、なんかワイの心に刺さるんよ。
「ワイにもソーニャみたいな子、おらんかなぁ...」
ソーニャ、あの売春婦の女の子や。ラスコーリニコフの告白を受け止めて、最後まで支え続けた子や。ワイにもそんな子がおったら、もしかしたらニート卒業できるんちゃうか...なんて考えてまう。
「たろう! 晩ごはんできたで!」
マッマの声に、ワイはゆっくりと立ち上がる。リビングに行くと、マッマとパッパが既に食卓についとる。
「ほら、今日はお前の好きなハンバーグやで」マッマが笑顔で言う。その笑顔の裏に、疲れが見えるんは気のせいやろか。
「...ありがとう」小さな声で言って、席につく。
「そういや、隣の佐藤さんとこの娘さん、就職したらしいで」パッパが話し始める。「同い年やったよな?」
「...」ワイ、黙って箸を進める。
「お前も...」
「もういいって」ワイ、思わず声を荒げてしまう。「わかっとるって。ワイがダメ人間なの」
「そんなこと言うてへんやろ」マッマが慌てて言う。「ただ、心配で...」
「心配せんでええって。ワイは...ワイは...」
言葉が続かへん。ワイにはなんの言い訳もできへんのや。
食事が終わって、部屋に戻る。また『罪と罰』を開く。
ラスコーリニコフは殺人犯や。でも、ソーニャに出会って、少しずつ更生していく。ワイは人殺してへんけど、なんかラスコーリニコフより罪深い気がしてまう。
「ワイの罪は...生きてることか?」
そんなこと考えてたら、スマホが光った。LINEの通知や。
「誰や...」
開いてみると、高校時代の同級生からのメッセージやった。
「久しぶり! 同窓会するんやけど、来れへん?」
ワイ、その言葉を見て、胸が締め付けられる思いがした。
「無理や...」
ワイには、みんなに会う顔なんかないんや。5年間何もしてへんワイが、何を話せるっちゅーねん。
返信せずに、スマホを投げ出す。
「ワイには、ソーニャなんか現れへんのや」
そう呟いて、また『罪と罰』を読み始める。この本を読んでる間だけ、ワイはワイやないような気がするんや。ラスコーリニコフになれる。罪を持ちながらも、救いを求める彼に、ワイはなれるんや。
でも、現実に戻ると、ワイはただのニート。誰からも必要とされへん、ゴミクズや。
「ソーニャ...どこにおるんや...」
そんなこと言いながら、ワイは自分の中にソーニャを求めてるんやないかって気がしてきた。誰かに救ってもらおうなんて、甘えてるだけやろ。
「ワイが...ワイの中のソーニャにならなあかんのかもしれん」
その瞬間、なんか視界が明るなったような気がした。ワイの中の何かが、少し動いた気がする。
「よっしゃ」
ワイ、久しぶりに机に向かう。パソコンの電源を入れて、検索し始めた。
「ニート 就職 方法」
たくさんの情報が出てくる。ワイ、必死になって読み始める。
「まずは...履歴書か」
真っ白な履歴書用紙を見つめる。5年間のブランクをどう埋めればええんや...途方に暮れそうになる。
でも、ワイは諦めへん。ワイの中のソーニャが、「大丈夫や、頑張れ」って囁いてる気がするんや。
「ワイの罪は、諦めることやったんや」
そう気づいた時、涙が溢れ出した。
「ごめん...マッマ、パッパ...」
謝りたい。でも、その前にワイは変わらなあかん。
ワイは、必死に履歴書を書き始めた。嘘はつかへん。正直に、この5年間のことも書く。そして、これからどうしたいかも。
書き終わった頃には、外が明るくなり始めてた。
「たろう、朝やで」マッマの声。
「おう」いつもと違う声で返事をする。
「えっ」驚いたマッマの声が聞こえる。
ワイ、部屋を出る。履歴書を持って。
「マッマ、パッパ、話があるんや」
2人は驚いた顔でワイを見る。
「ワイ...変わりたいんや」
その言葉と共に、新しい1日が始まった。ワイのニートという罪と罰は、まだ終わってへん。でも、ワイは歩き始めたんや。
ワイの中のソーニャに導かれて。
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