2145年、東京。
鈴木剛(つよし)は、窓のない狭いキューブ型の部屋で目を覚ました。壁に埋め込まれたディスプレイが6時を告げている。また新しい一日が始まる。しかし、彼にとってそれは地獄の一日の始まりでしかなかった。
剛は30歳。彼はメガコーポレーション「ネオ・ライフ社」の下級社員だ。彼の仕事は、AIが処理しきれない複雑なデータの整理と入力。単調で退屈な作業の繰り返しだが、首になれば路頭に迷うしかない。
彼は身支度を整え、狭い廊下を通って社員食堂へ向かった。そこで配給される栄養剤を飲み、仕事場へと向かう。
剛の人生は、生まれた時から決められていた。彼の遺伝子は「平凡」と分類され、エリートになる道は最初から閉ざされていたのだ。彼には選択肢がなかった。ただ与えられた仕事をこなし、生きていくだけ。
彼の唯一の楽しみは、バーチャルリアリティの中での冒険だった。しかし、それさえも高価で、月に一度しか楽しめない。
その日も、いつもと変わらぬ単調な仕事が続いた。しかし、帰宅後、彼の人生を一変させる出来事が起こる。
部屋に戻った剛は、突然の眩い光に包まれた。光が消えると、そこには信じられないものが現れていた。
美しい女性の姿をした存在が、部屋の中に浮かんでいたのだ。
「私は時空管理局からやってきたイリス。あなたの人生を変えるために来ました」
剛は目を疑った。これは新しいバーチャルリアリティプログラムなのか?しかし、彼は何も起動していない。
イリスは続けた。「あなたの人生は間違った軌道に乗せられてしまいました。本来のあなたは、もっと素晴らしい未来を持っているはずなのです」
剛は混乱した。「何を言っているんだ?僕の人生なんて、生まれた時から決まっていたじゃないか」
イリスは首を振った。「それは間違いです。2145年の世界線が、ある事故によって歪められてしまったのです。本来のあなたは、革新的な科学者になるはずでした」
剛は半信半疑だった。しかし、イリスの言葉には不思議な説得力があった。
「私たちには、歴史を正しい軌道に戻す義務があります。あなたの協力が必要です」イリスは真剣な表情で言った。
剛は考えた。彼の人生に何の意味があったというのか。毎日同じ作業を繰り返し、誰からも認められることなく生きてきた。もし本当に別の可能性があるのなら...
「何をすればいいんだ?」剛は決意を固めて尋ねた。
イリスは微笑んだ。「まず、あなたの潜在能力を引き出す必要があります」
彼女は手をかざすと、剛の頭に光が集中した。突然、彼の脳裏に様々な数式や理論が浮かび上がる。今まで見たことも聞いたこともない知識が、彼の中に流れ込んでくる。
「これは...」剛は驚愕した。
「あなたの本来の才能です」イリスは説明した。「そして、これがあなたの使命です」
彼女は小さなデバイスを取り出した。「これは時空間転移装置です。あなたはこれを使って、過去に戻り、歴史の歪みを正す必要があります」
剛は躊躇した。「僕にそんなことができるのか?」
「できます」イリスは力強く言った。「あなたには、世界を変える力があるのです」
剛は深呼吸をした。彼の前には、今までにない選択肢が開かれていた。安定しているが退屈な現在の人生を続けるか、それとも未知の危険を冒してでも、本当の自分を見つける冒険に出るか。
彼は決断した。「行きます。僕にできることなら何でもします」
イリスは満足げに頷いた。「素晴らしい決断です。では、準備をしましょう」
彼女は剛に時空間転移装置の使い方を教え、必要な情報を与えた。
「あなたは2100年に戻り、ある重要な科学実験を成功させる必要があります。それが、正しい未来への鍵となります」
剛は緊張しながらも、興奮を抑えきれなかった。彼の人生は、まさにこの瞬間から大きく変わろうとしていた。
「準備はいいですか?」イリスが尋ねた。
剛は深く息を吐き出し、頷いた。「はい、行きましょう」
イリスは彼に最後の言葉をかけた。「勇気を持って。あなたの中には、世界を変える力があるのです」
剛がデバイスのボタンを押すと、まばゆい光が彼を包み込んだ。
彼の新たな冒険、そして世界の運命を変える旅が、今始まろうとしていた。
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