ワイ、山田太郎(28)。職業はフリーター、趣味はアニメとゲーム。そんなワイの唯一の自慢は、飼ってる猫のミケである。

「ミケ、今日もかわええなぁ」

ワイがミケの頭をなでると、ゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らす。こいつがおるから、ワイの寂しい独り暮らしも楽しいもんよ。

ある日のこと。ワイはバイト先のコンビニで、店長から衝撃の告白を受ける。

「山田くん、うちの娘と付き合ってみない?」

「えっ!?」

ワイ、頭の中が真っ白になる。だって、店長の娘の美咲ちゃんと言えば、この街で5本の指に入る美少女やで!

「あの、店長...ワイみたいなんでええんですか?」

「君、真面目だし、うちの娘にぴったりだと思うんだ。どうだ?」

ワイ、人生で初めて彼女ができる可能性に、心臓バクバクで帰宅。

「ミケ!聞いてくれ!ワイに春が来るかもしれんのや!」

ミケは、いつもと変わらぬ表情でワイを見上げる。

その夜、ワイは美咲ちゃんのことを考えて、なかなか寝付けない。やっと眠りについたとき、奇妙な夢を見た。

夢の中で、ミケが人間の姿で現れたんや。

「太郎、お前には恋愛する資格はない」

「えっ?なんでや?」

「お前は弱者男性。そんなお前が恋愛なんかしたら、世界のバランスが崩れる」

「そんなぁ...」

ワイが落ち込んでいると、人間ミケは不敵な笑みを浮かべた。

「安心しろ。ワイがお前の恋愛をキャンセルしてやる」

「えっ!?ちょ、待ってや!」

目が覚めると、ワイは冷や汗をかいていた。

「なんや、夢か...」

ホッとしたのも束の間、ミケがワイをジッと見つめている。なんか、いつもと違う気がする...

次の日、ワイはドキドキしながらバイトに向かう。店長の娘、美咲ちゃんが来るかもしれんのや。

案の定、美咲ちゃんが店に現れた。

「あの、山田さん...」

「は、はい!」

「私、山田さんのこと...」

ワイの心臓が高鳴る。これは告白きたか!?

そのとき、突然店内に黒猫が飛び込んできた。

「にゃーーー!」

黒猫は美咲ちゃんに飛びかかり、彼女の髪の毛を引っ掻く。

「きゃあああ!」

ワイ、とっさに黒猫を捕まえようとするも、見事に失敗。黒猫は美咲ちゃんの顔を引っ掻いて逃げていった。

「美咲ちゃん、大丈夫か!?」

「ひどい...山田さんの好きな猫が私を攻撃するなんて...」

「えっ?ワイの猫やないで!」

「もう知りません!」

美咲ちゃんは泣きながら店を飛び出していった。

「あかん...なんでこんなことに...」

落ち込むワイ。その日の夜、またしても奇妙な夢を見る。

「よくやった」人間ミケが黒猫を撫でている。

「お前か!なんでそんなことするんや!」

「言っただろ。お前には恋愛する資格がない」

「そんなん勝手に決めるな!」

「いいか、太郎。お前のような弱者男性が恋愛すれば、世界は混乱する。ワイらはそれを阻止せねばならんのや」

「ワイら?お前だけやろ!」

人間ミケは不敵な笑みを浮かべる。

「世界中の猫が、お前らのような弱者男性の恋愛を阻止している。これは猫の使命なんや」

「そんなアホな...」

ワイが目を覚ますと、ミケがベッドの上でくつろいでいる。

「お前...ほんまに何か企んどるんか?」

ミケは知らん顔してペロペロと毛づくろいを始める。

それからというもの、ワイの恋愛の芽は次々と摘まれていく。

街コンで知り合った女の子と食事に行く約束をしたら、当日ミケが家の鍵を隠す。

「あかん!鍵見つからへん!」

約束の時間に間に合わず、女の子にフラれる。

マッチングアプリで仲良くなった女の子と通話してたら、ミケが充電コードを噛み切る。

「もしもし?もしもし?」

通話が切れた瞬間、相手にブロックされる。

「なんでや...」

ワイの恋愛の芽を摘むミケ。でも、不思議なことにワイはミケを憎めない。だって、こいつがおるから寂しくないんやもん。

ある日、ワイは意を決してミケに語りかける。

「ミケ、聞いてくれ。ワイ、もう恋愛とかせえへんから。だから、もうワイの人生邪魔せんといてくれ」

ミケはワイの目をじっと見つめ、にゃーんと鳴いた。

その夜、またしても例の夢。

「よく言った」人間ミケが現れる。

「お前の覚悟を認めよう。もう恋愛を邪魔せん」

「ほんまか?」

「ああ。だが、その代わりにワイがお前の伴侶になる」

「はぁ!?」

目が覚めると、ミケがワイの顔を舐めている。

「お、おい...冗談やろ?」

その日から、ミケのワイへの甘え方がエスカレート。ワイの布団に入ってくるわ、べったりくっついてくるわで大変や。

「まぁ、ええか...お前がおるから寂しくないしな」

ワイは諦めてミケを撫でる。

そんなある日、コンビニバイトから帰ると、家の前で女の子が座り込んでいた。

「あの...山田さんですか?」

「はい...あれ?美咲ちゃん!?」

なんと、店長の娘の美咲ちゃんや!

「あの日は、ごめんなさい。あの黒猫、実は私の家の猫だったの。暴れん坊で...」

「えっ!?」

「それで、その...山田さんのこと、好きになっちゃって...」

ワイ、頭が真っ白になる。夢やろ、これ?

そのとき、家の中からミケが飛び出してきた。

「うわっ!ミケ!」

ワイはミケを抱き上げる。美咲ちゃんはビクッとしたが、

「あ、この子が山田さんの猫ちゃん?可愛い!」

意外にも、美咲ちゃんはミケに手を伸ばす。ワイはビクビクしながら見守る。

すると、ミケは...美咲ちゃんの手を舐め始めた!

「あれ?ミケ、お前...」

ミケはワイを見上げ、にゃーんと鳴いた。何か言いたげな目...

「もしかして...ワイを認めてくれたんか?」

ミケは、また美咲ちゃんに甘える。

「ねぇ、山田さん。お家に入ってもいい?」

「あ、うん...どうぞ」

美咲ちゃんを家に招き入れながら、ワイはミケに聞こえないように囁く。

「サンキューな、相棒」

その夜、ワイは久しぶりに幸せな夢を見た。

夢の中で人間ミケが言う。

「よかったな、太郎。お前、もう弱者男性やない。立派な一人前や」

「ミケ...ありがとな」

「おう。これからは自分の力で幸せを掴め。ワイはもう出番がないわ」

「そんなこと言うなよ。お前はワイの大切な家族やで」

人間ミケは満足そうに笑うと、元の猫の姿に戻った。

目覚めると、ワイのベッドにはミケと美咲ちゃんが。家族が増えたんやな...

「ミケ、お前ほんまにただの猫なんか?」

ワイがそうつぶやくと、ミケは意味ありげな目でワイを見上げ、またコロッと寝返りを打った。

「まぁ、ええか。お前がどんな猫でも、ワイの大切な相棒や」

ワイは幸せそうに眠る二人(?)を見つめながら、新しい朝を迎えるのだった。

「よっしゃ、今日も頑張るで!」

ワイの新しい人生が、いま始まる...。


105真論君家の猫2

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