「はぁ...またマッチせえへんかったわ」

ワイこと佐藤ニャン太郎(28)は、ため息をつきながらスマホを投げ出した。

「もう何十人とマッチングしたか分からへんのに、全然会話が続かへん...」

ニャン太郎は、マッチングアプリを始めて半年。
しかし、未だに彼女どころか、デートにすら行けていない。

「ワイのどこがあかんのやろ...」

鏡を見て、ニャン太郎は考える。
顔はまぁまぁ。体型も普通。仕事もちゃんとしてる。

「なのになぁ...」

そんな時、ニャン太郎の親友・田中ワンさぶろうから電話がかかってきた。

「もしもし、ニャン太郎?今日の飲み会、来るよな?」

「あぁ...行くで」

「おう、じゃあな」

電話を切ると、ニャン太郎は再びため息。

「飲み会か...みんな彼女おるのに、ワイだけ...」

数時間後、居酒屋にて。

「かんぱーい!」

ワンさぶろうを含む5人の男たちが、ビールジョッキを掲げる。

「ほな、今日も楽しむで〜」

しばらく飲んで盛り上がった後、話題は恋愛に。

「ワイ、彼女と来月で3周年やわ〜」
「ええなぁ〜。ワイなんか、結婚前やのに早くも倦怠期やで」
「マ?お前ら幸せそうやな」

みんなが楽しそうに話す中、ニャン太郎だけが黙々と酒を飲んでいた。

「おい、ニャン太郎。お前まだ彼女おらんのか?」

ワンさぶろうに突っ込まれ、ニャン太郎は苦笑い。

「まぁ...な」

「あかんやろ!お前ももう28やぞ!」

「わかっとるわ...マッチングアプリとかやってんねんけどさ」

「ほう、マッチングアプリか。で、どうなんや?」

ニャン太郎は、自分の惨めな戦績を語り始めた。

「いや〜、全然あかんわ。マッチはするんやけど、会話が続かへんのよ」

「会話か...お前、何話しとんねん?」

「ふつうに自己紹介したり、趣味の話したり...」

すると、一人の男が口を挟んだ。

「あかんで、それ。そんなんじゃモテへんわ」

「えっ?じゃあどないすればええねん?」

男は、ニヤリと笑った。

「ねこや」

「は?」

全員が首を傾げる。

「ねこの話だけしろ。これ、最強やで」

「ねこ...?」

ニャン太郎は、懐疑的な表情を浮かべた。

「そうや。ねこの話題なら、絶対に会話が続く。しかも、相手の心を掴める」

「なんでやねん」

「なぜか...それはな...」

男は、得意げに説明を始めた。

「ねこには不思議な魅力があるんや。かわいいし、気まぐれやし、でも人に懐くと超愛想ええやろ?」

「まぁ...そうやな」

「そう。ねこの話をしてると、相手もその魅力に惹かれるんや。そして、お前のことも魅力的に感じるようになる」

ニャン太郎は、半信半疑だった。

「ほんまかいな...」

「試してみいや。絶対うまくいくで」

半ば諦めの気持ちで、ニャン太郎はその助言を受け入れることにした。

「まぁ...やってみるわ」

翌日。

ニャン太郎は、新たにマッチした女性とチャットを始めた。

ニャン太郎:「こんにちは!マッチありがとうございます!」

女性:「こんにちは!よろしくお願いします」

ここからが勝負や...ニャン太郎は深呼吸をして、意を決した。

ニャン太郎:「ところで、ねこは好きですか?」

女性:「えっ?急にどうしたんですか?笑」

ニャン太郎:「いや、ワイめっちゃねこ好きでして...」

女性:「そうなんですね!実は私もねこ大好きです♪」

ニャン太郎の目が輝いた。

ニャン太郎:「マ?ほんまですか!?」

女性:「はい!うちにも2匹いますよ〜」

ニャン太郎:「うわ〜、羨ましい!どんなねこちゃんですか?」

こうして、二人の会話は止まることなく続いた。

ねこの種類、性格、おもしろエピソード...
話題は尽きることがない。

気がつけば、2時間も経っていた。

女性:「あ、こんな時間になっちゃいました!楽しかったです♪」

ニャン太郎:「こちらこそ!また話しましょう!」

女性:「はい!おやすみなさい☆」

ニャン太郎は、にやけながらスマホを置いた。

「まさか...これホンマに効果あるんか?」

その後も、ニャン太郎はマッチした女性全員に「ねこ戦法」を試してみた。

驚いたことに、ほぼ全員と会話が弾んだのだ。

「すげぇ...なんでやろ」

ふと、ニャン太郎は昔聞いた話を思い出した。

「そういや、ねこの鳴き声ってな、人間の赤ちゃんの泣き声に似てるから、人間の母性本能を刺激するんやって」

ニャン太郎は、独り言を呟いた。

「もしかして、それと同じ効果があるんかな...」

そんなことを考えながら、ニャン太郎は次々とマッチした女性たちと会話を楽しんだ。

1週間後。

「お前、なんかイキイキしとるな?」

ワンさぶろうが、ニャン太郎の変化に気づいた。

「実はな...」

ニャン太郎は、この1週間の出来事を説明した。

「マジかよ!お前、ついに彼女できたんか!?」

「まぁ...な」

ニャン太郎は、少し照れくさそうに答えた。

「すげぇな!ねこ戦法、マジで効果あったんや」

「せやな。ワイも驚いとるわ」

ニャン太郎は、スマホを見ながらニヤリと笑った。

「ほんで、どんな子なんや?」

「めっちゃかわいいで!性格もええし、趣味も合うし...」

ニャン太郎は、彼女のことを熱く語り始めた。

「ほんで、初デートはどこ行くん?」

「猫カフェや!」

「そりゃそうやな(笑)」

二人は、大笑いした。

その日の夜。

ニャン太郎は、彼女とのチャットを楽しんでいた。

彼女:「ねぇ、明日の猫カフェ楽しみだね♪」

ニャン太郎:「せやな!ワイも超楽しみや!」

彼女:「あのさ...一つ言いたいことがあるんだ」

ニャン太郎:「ん?なんや?」

彼女:「実は...私、犬派なの」

ニャン太郎:「えっ」

彼女:「でも、あなたがねこの話ばっかりするから、つい乗っちゃって...ごめんね」

ニャン太郎は、呆然とした。

彼女:「でも、あなたのねこへの愛情を見てたら、私も少しずつねこのこと好きになってきたの」

ニャン太郎:「そ、そうなんか...」

彼女:「うん。だから、明日は楽しみにしてるよ♪ねことあなたの、両方に会えるから」

ニャン太郎は、ホッと胸をなでおろした。

「ま、まぁええか。犬派でもねこ派でも...」

彼は、幸せそうに呟いた。

「大切なんは、お互いを理解しようとする気持ちやもんな」

こうして、ニャン太郎の新しい恋が始まったのであった。

「でもまぁ、最初の一歩を踏み出せたんは、ねこのおかげやな」

ニャン太郎は、感謝の気持ちを込めて、近所の野良猫にカリカリをあげるのであった。