「はぁ...もうアカン...」

ワイこと鬼頭鬼太郎(28)は、地獄の受付で溜め息をついていた。

「次の方どうぞ〜」

受付鬼の声に、おずおずと前に出るワイ。

「えーと、鬼頭鬼太郎です...」

「おお!噂の鬼太郎くんか!」

受付鬼は、にやにやしながらワイを見た。

「ええと...経歴を教えてくれるかの?」

「はい...その...地獄で源氏狩り10年...です」

「え?」

受付鬼は、耳を疑った。

「ちょ、ちょっと待って。それだけ?」

「は、はい...」

ワイは、顔を真っ赤にしながら答えた。

「アカン...笑いそう...プークスクス」

受付鬼は、必死に笑いをこらえている。

「お、おい!みんな聞いてくれ!こいつの経歴、地獄で源氏狩り10年だけやで!」

周りの鬼たちが、どっと笑い出した。

「マジかよ!」
「ワイなんて、平安時代から頑張ってるで!」
「ワイは鎌倉時代からや!」

ワイは、地面に穴があったら入りたい心境やった。

そう、ワイの経歴は本当に「地獄で源氏狩り10年」だけなんや。

ワイが鬼になったんは、つい10年前のこと。

人間やった頃のワイは、超がつくほどのダメ人間。
ニート歴10年、家からほとんど出ない引きこもり。

そんなワイが、ある日突然死んでもうた。
原因は、カップ麺の湯切り失敗による熱湯事故や。

「まさか、カップ麺で死ぬとは...」

そして、あの世に来たワイ。
罪を裁かれ、地獄行きが決定。

「はぁ...人間のときもろくなもんやなかったのに、死んでも地獄かよ...」

しかし、そこで思わぬ事態が。

「おい!お前、鬼になれ!」

閻魔大王に、突然言われてもうた。

「えっ?なんでですか?」

「最近、鬼が足りなくてな。お前みたいなダメ人間こそ、鬼に向いとる」

「マ?ワイが鬼に?」

こうして、ワイは鬼になることに。

「よっしゃ!鬼なったからには、めっちゃ強なっ
てやるで!」

...が、現実はそう甘くなかった。

「お前、源氏狩りやれ」

先輩鬼に言われて、ワイは源氏狩りの担当に。

「源氏って...あの源氏物語の?」

「そうや。あいつら、死んでもモテモテでムカつくんじゃ」

ワイの仕事は、地獄に落ちてきた源氏の連中を懲らしめること。

「よっしゃ!カッコええ仕事やん!」

...が、これも甘かった。

「うわぁぁぁ!」

ワイは、源氏たちに蹴り飛ばされていた。

「貴様如き下賤の鬼に、我らが負けると思うか!」

源氏たちは、死んでもイケメン。
そして、死んでも強かった。

「くっそ...ワイじゃ歯が立たへん...」

こんな感じで、10年が経過。
ろくに源氏を捕まえられず、毎日ボコボコにされる日々。

そして、今日。
人事異動の日に、ワイの経歴が晒されてしまったんや。

「あのさぁ...10年も頑張ってるんやで?」

ワイは、弱々しく抗議した。

「いや、それはそうやけど...」

受付鬼も、さすがに同情的になってきた。

「せや!ワイにチャンスをくれ!」

ワイは、突然立ち上がった。

「今までの10年は、予備運動や!これからが本番や!」

周りの鬼たちは、呆れた顔でワイを見ている。

「よっしゃ!ワイに任せてくれ!今度こそ、源氏どもをぶっ飛ばしたるで!」

ワイは、意気揚々と源氏狩りのフィールドに向かった。

...が、案の定。

「ぐはっ!」

ワイは、またしても源氏たちにボコボコにされていた。

「はぁ...やっぱりアカンわ...」

そんなワイを見かねた先輩鬼が、声をかけてきた。

「おい、鬼太郎。お前、こんなんじゃアカンで」

「せやけど...ワイには源氏に勝てる才能なんてないんです...」

「才能?そんなもんいらんのや」

「え?」

「大事なんは、努力と工夫や」

先輩鬼は、ニヤリと笑った。

「ほな、ワイが特訓してやるで」

こうして、ワイの特訓が始まった。

「まず、お前の弱点は体力や。毎日100km走れ!」
「次は力や。毎日岩1000個持ち上げろ!」
「そして頭や。源氏物語1000回読め!」

ワイは、必死に特訓をこなした。

「くっそ...しんどいけど...でも、このままじゃアカン!」

そして、1年後。

「よっしゃ!源氏狩りに行くで!」

ワイは、自信満々で源氏狩りのフィールドに向かった。

「おのれ鬼め!また来たか!」

源氏たちが、いつものように攻撃してきた。

「ふん!そんな攻撃、もう効かへんで!」

ワイは、軽々と源氏たちの攻撃をかわす。

「なにっ!?」

源氏たちは、驚きの表情を浮かべた。

「源氏物語、読破したで!お前らの動き、お見通しや!」

ワイは、源氏たちの動きを完全に読み切っていた。

「そして、体力もついたで!もう逃げられへんで!」

ワイは、源氏たちを追い詰めていく。

「くっ...こんな鬼に負けるわけには...」

「あかんて!ワイは、もう弱くないんや!」

ワイは、源氏たちを次々と捕まえていった。

「やったで!ついに源氏狩り成功や!」

ワイの歓喜の声が、地獄中に響き渡った。

「おい!聞いたか?鬼太郎が源氏狩りに成功したらしいで!」
「マ?あのダメ鬼が?」
「すげぇ...」

地獄中が、ワイの話題で持ちきりになった。

「鬼太郎!よくやった!」

閻魔大王までもが、ワイを褒めてくれた。

「これで、お前の経歴も『地獄で源氏狩り11年、成功1回』になったな!」

「えっ...」

ワイは、複雑な表情を浮かべた。

「まぁ、1回でも成功したんやから、えらいで!」

閻魔大王は、ワイの頭をポンポンと叩いた。

「よし!これからも頑張るで!」

ワイは、新たな決意を胸に源氏狩りに励むのであった。

「ところでみんな知っとるか?源氏物語の作者とされる紫式部は、実は源氏の血を引いてるんやで」

ワイは、源氏狩りの合間によくこんな雑学を披露するようになった。ホンマかはシランケド

「せやから、ワイらが源氏狩っとるのんも、ある意味文学研究みたいなもんやで!」

周りの鬼たちは、呆れながらもワイの話に聞き入っていた。

こうして、ワイの地獄生活は少しずつ充実していった。

「せや!次は平家狩りにも挑戦したろ!」

ワイの野望は、どんどん膨らんでいくのであった。

...が、案の定。

「ぐはっ!」

平家もめっちゃ強くて、ワイはまたボコボコにされるのであった。

「はぁ...やっぱ源氏狩りだけでええわ...」

ワイの経歴は、これからも伸び悩みそうである。